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【書評】 緒音百「かぎろいの島」

最恐小説大賞は、小説投稿サイトのエブリスタと竹書房共催によるホラー小説のコンテストです。

2019年の第1回から、これまでに5回開催され、竹書房から6冊の単行本が刊行されています。
どれも、非常に個性豊かなホラー小説です。決して一つの方向に偏らず、様々なタイプのホラー小説を選んでいるのが、最恐小説大賞の特色じゃないでしょうか。

(「最恐」という言葉が目立っちゃいますが、決して「恐い」だけではないというか。ミステリ調であったり、イヤミスであったり、SF的であったり、今をときめくモキュメンタリーであったり。ホラー小説の多様性に触れてもらえるシリーズじゃないかと思います!)

そんな中で、第3回最恐小説大賞を受賞したのが緒音百さん「かぎろいの島」です。
上に書いた「ホラーの多様性」で言えば、本作は「因習村」タイプのホラーになるのかな。
都会で暮らす若い小説家の主人公が、自身も知らなかった故郷の島に誘われて、家族の郷愁に囚われると共に、不気味な儀式の中に絡め取られていく……

読んでいて感じたのは、映画「ミッドサマー」の不気味さでした。
傍目には異常な儀式であっても、その集落の中で日常であれば、それは異常ではないんですよね。
日頃はまともな判断力を持っていると思っていても、周り中すべてが「それは正常」と思っている中に放り込まれてしまうと、「異常だ!」とあらがうこともできなくなってしまう。
そうしてだんだんと、取り返しのつかない深みに入り込んで、出られなくなってしまう……。

小説でも映画でも、ホラーを見ていると、「もっと早く逃げればいいのに」って思うことがあるじゃないですか。
本作では、その隙がないんですよね。「家族の絆」と「故郷の温かさ」で搦めとる構図が巧妙で、読者も気がつけば「逃げられないところ」まで追い込まれてしまっているという。

「かぎろいの島」はミステリーでもあって、横溝正史的な孤島の因習ミステリーとしても楽しく読むことができます。
そして、若い小説家である主人公が魅力的。孤独に生きてきた彼が、どうしても家族を求めてしまう心理が、物語に物悲しい芯を通しています。

令和に誕生した新たな因習村ホラーミステリー「かぎろいの島」おすすめです!

そして、この最恐小説大賞、第4回の受賞作がこのレビューを書いてる海藤文字の「悪い月が昇る」になります。
こちらはまたタイプの違う、現実を反転し、虚実を怪しくするタイプのサイコミステリホラー……とでも言えるかと思います。
真夏の山荘を背景にした、夏におすすめのホラーです。よければこちらもどうぞ!


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