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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節

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槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続ける【脱厄術師(だつやくじゅつし)】。主従関係にある鷹丸家の娘、維知香は、その身に災厄を宿す【宿災(…
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#和

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱1

あらすじ 槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱2

 砂利を踏んでやってきたのは、漆黒のハイヤー。門の前で停車の姿勢に入ると同時、後部座席の…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱3

 木枠にはめられた曇りガラスが軽快な音を奏で、それに反応した足音が、家の奥から近づいてく…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱4

 声を荒げず事の成り行きを見守った正一は、首を振り、やれやれといった動きを見せる。 「着…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱5

 盆を手にした割烹着姿の女が二人。同じく盆を手にした男が一人。一番に座敷に上がり、品の良…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・弐2

「ひとり……私は、ひとりだなんて思ってないわよ。思ったこと、一度だってない。家族、深遠、…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・弐3

 深遠の脳裏に、幼い維知香の姿が甦る。災厄と通じるのは早かった。三歳の頃にはもう、宿るのもの気配を覚え、まるで自分の内にいる自分であるかのように、話しかけていた。人前では話さないように、と何度も言い聞かせた。宙に向かってなにかを諳んじている姿は、はたから見れば奇異。しかし維知香は、今でも声を出して災厄と会話をするのだという。もしかしたら、維知香の友は、自らの内にあるものなのかもしれない。他者には決して話せない、生涯の友。であるならば、他者に同様の関係を求めない気持ちは、理解で

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱1

 他者の気配のない空間。足元は砂地。しばらく雨は降っていないようで、歩くたびに、乾いた砂…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱2

 この空間で誰かと過ごすのは、いつぶりだろう。深遠はおそらく思い出せないであろう遠き日に…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱3

 水に浸して柔らかさを取り戻した野菜と粗塩を入れただけの、質素な粥。しかしひとりではない…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱4

「なあ、深遠。鷹丸家のお嬢さんは、脱厄術師の任を理解した上で、思いを寄せてくれているんだ…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱5

「彼女の気持ちは、ありがたい。存在も、とても大切に思っている。許されるのなら、ともに時を…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐1

 奥多摩の秋は賑やか。木々は各々の色に染まり、虫達は己の命を確かめるかのように音を奏でる…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・弐4

 秋の夕空。深く滲む赤。眩しさに目を細める。しかし太陽が山に隠れるその時まで、目を離さずにいたい。そう思わせる力は、一体どこからくるのだろう。 (やはり大きさだろうか……いや、力強さか……)  深遠が知る【自然】の中で、太陽は最も大きな存在。そこから力を分けてもらおうなど身の程知らずも良いところだが、己を鼓舞し、自らの背を自らで押すために、偉大な存在の力を感じておきたかった。  次に維知香に会った時、思いを伝えよう。そう決心すると妙に心が穏やかになった。いつまでも迷って