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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節

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槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続ける【脱厄術師(だつやくじゅつし)】。主従関係にある鷹丸家の娘、維知香は、その身に災厄を宿す【宿災(…
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#ファンタジー小説

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・壱1

あらすじ 槙 深遠(まき しんえん)は、時の流れの異なる空間を往来しながら結界の修復を続…

Luno企画
1年前
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宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・弐1

「君に、友人はいるのか?」  麗らかな春の午後。草花の香りをふくむ風の中、並んで小川沿い…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・弐2

「ひとり……私は、ひとりだなんて思ってないわよ。思ったこと、一度だってない。家族、深遠、…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 春・弐3

 深遠の脳裏に、幼い維知香の姿が甦る。災厄と通じるのは早かった。三歳の頃にはもう、宿るの…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱1

 他者の気配のない空間。足元は砂地。しばらく雨は降っていないようで、歩くたびに、乾いた砂…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱2

 この空間で誰かと過ごすのは、いつぶりだろう。深遠はおそらく思い出せないであろう遠き日に…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱3

 水に浸して柔らかさを取り戻した野菜と粗塩を入れただけの、質素な粥。しかしひとりではないせいか、妙に旨味を感じる。いつもより時間をかけて味わい、深遠は食器を置いた。 「ごちそう様。とても美味かった。重い荷物を背負っているだけのことはある」 「おかしな褒め方しやがって。でもいいや、深遠に褒められるなんて滅多にないからな」 「それなりに甘やかした気もするが」 「冗談だろ? 結界が何かもわからないガキに、心得だなんだって散々教え込んだくせに」 「必要だからな。知らなければ危険が及

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱4

「なあ、深遠。鷹丸家のお嬢さんは、脱厄術師の任を理解した上で、思いを寄せてくれているんだ…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・壱5

「彼女の気持ちは、ありがたい。存在も、とても大切に思っている。許されるのなら、ともに時を…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参1

 菊野を送り届け、深遠は門の前で頭を垂れた。高ぶりは菊野と並び歩くうちに、己の深部へと身…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参2

「灯馬に、聞いた?」 「君と友人になったと……とても喜んでいた。ありがとう」 「感謝してい…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参3

 唐突に。維知香は両手を川面に向けた。穏やかな流れの一部に変化。  水は細い筋となって天…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節 秋・参4

 どれほどの時間、そうしていたのだろう。どちらからともなく身を離し、視線を交える。自分が…

Luno企画
1年前

宿災備忘録 四季 対岸の君と逡巡の季節  冬・弐1

 あくる日、深遠と維知香は鷹丸家に赴いた。近所であるとはいえ、そうしょっちゅう行き来しているわけではない。維知香が身重であるのも理由のひとつだが、桜子の心情を慮って、と言うのが、一番の理由である。  深遠と維知香が夫婦になる意思を伝えた時、菊野は涙して喜び、吾一はすぐさま酒宴の支度を始めた。しかし桜子だけは、葛藤の表情を隠さなかった。それでも酒宴が始まる頃には笑みとなり、手料理を振る舞ってくれた。  その数日後、桜子はひとり、深遠のもとにやってきた。二人きりで話がしたいと