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ASD女性が抱える体調不良について

一般的に自閉スペクトラム症(ASD)は4:1の割合で男性が多いと言われています。これは女性のほうが男性に比べ相対的にコミュニケーション力が高いため、男性基準のASD診断からは外れてしまいがちなのが原因のようです。
20年ほど前は女性のASDはさらにレアでした。「女性のASDは存在しない。ASDを自称する女性の殆どはBPD(境界性パーソナリティ障害)だ」とさえ言われていた時代です。

しかしASDの研究が進むにつれて、男性当事者とは少し異なった特性を持つASD女性の存在が認められるようになってきました。
「ASDの代表的な特性であるこだわり行動や社会性の困難は男性ほど顕著ではないが、女子トークが苦手で原因不明の体調不良を抱えることが多い」というのがASD女性に多い特徴と言われています。
この「原因不明の体調不良」は私自身も幼少時から散々悩まされたもので、本来なら一番体力があるはずの10代20代のときに体調が良かった時期は殆どなかったと言っても過言ではありません。頭痛や腹痛、めまい、吐き気、立ち眩み、生理痛、PMS、肌荒れ等々、いつも何かしらの不調で病院にかかっていた気がします(不注意由来の事故やケガも多かったですが)。
「あの頃にもうちょっと体調がよければもっと色んなことに頑張れて人生の幅が広がっただろうになあ」と残念に思うところです。

ASD女性の体調不良は検査では異常が見つからないことが多いため「不定愁訴」「神経質な女性にはよくありがち」と言われやすいです。私も医師から「ヒステリーの身体化症状なのでは?」と言われたことがあります。
ASD男性の認知特性やコミュニケーション特性が「男性にはありがち」と見過ごされやすいのに対し、ASD女性の身体症状は「ヒステリー」「(若年性)更年期障害」として「女性にはありがち」と見過ごされやすいものなのかもしれません。

当事者としての感覚ではASD女性の体調不良は次のようなものが原因として挙げられるように思います。
①自律神経系の未熟/脆弱さによるもの
②外的ストレスに起因するもの
③ホルモンバランスに起因するもの
これら①~③はそれぞれが独立してるのでなく相互に影響し合ってると思います。

自律神経系の未熟さ・脆弱さ

元々ASDは自律神経のバランスを崩しやすいというのがあると思います。腸内環境と自律神経は密接に連動していると言われていますが、特異的な腸内フローラ(腸内細菌叢)を持つと言われるASDは偏食などにより腸内環境が悪化しやすいことが自律神経の不調につながっていると考えられます。また腸内環境の悪化はアレルギーとも関連が深いため、アトピーなどのアレルギー疾患を抱えるASD当事者も少なくないと言われます(私も生まれた時からアトピーっ子でした)。
特に女性は男性より体力がないため自律神経の不調に大きく影響されやすいと考えられます。
特に思春期に体調を崩しやすいのは、骨格の成長やホルモンによる体型変化に対して自律神経系の成熟が追いついてないからと思われます。
私は中学生の頃、起立性調節障害(起立性低血圧)と診断されたことがあります。めまいや立ちくらみが酷く、特に午前中は朝起きたり長時間立っていることが困難で学校でもよく遅刻や欠席を繰り返しては担任に叱られていました。乗物酔いも顕著で家族の車で10分程度の移動をすることもできませんでした。さらに高校生の頃から不整脈で心電図検査によく引っかかるようになりました。
これらは20代後半の頃には改善しましたが、やはり自律神経系の成熟が同年代の人達に比べて遅れていたのだろうと思います。それに加えて次に挙げるような様々な外的ストレスが自律神経系に悪影響を及ぼしてたと考えられます。

外的ストレスの影響

ASD当事者の多くは光や音に対して過剰反応してしまう「感覚過敏」に加え、こだわりが強くまた自分の感情や気持ちを適切に表現し他者に伝えることが難しい特性から、必要以上に外部からのストレスを受けそのストレスを上手に発散・昇華できず知らず知らずのうちに身体の中に溜め込んでしまうということがあります。
そのストレスが様々な体調不良となって表に現れてしまいます。
特に女子の場合、小学生から中学生にかけて同性間のコミュニケーションの形が複雑化し同級生達と話を合わせることが次第に難しくなってきます。小学生の時のようなストレートでわかりやすい感情表現と違い、同年代男子よりも社会的に早熟な中学生女子が駆使するアイコンタクト等の非言語表現や婉曲表現から相手の意図を察しあうコミュニケーションは基本的に「目に見えるもの」しか正確に感知しえない特性を持つ者にとっては習得がとても難しいのです。

中学の頃、「みんなはどうやら私が感知できない領域が見えていて、私が感知できない方法で繋がってるようだ」ということに気づき疎外感を覚えるようになりました。彼らはお互い会話をしてはいますが、言葉による会話とは別の、目に見えないルートで対話を楽しんでいるように思えたのです。それは私にとってはまるで超能力、テレパシーのようでした。
いくら会話のノリを一生懸命真似して周りに話を合わせようとしても次第に相手から距離を置かれ孤立してしまうことが度々ありました。目に見える部分だけマネしても意味がないことに気づいたのはずっと後になってからの話です。

起立性調節障害は生来の自律神経系の成熟の遅れから来ていたと思いますが、この時期さらに睡眠障害や肌荒れが顕著になってきたのはストレス要因が大きいと思います。
当時は睡眠中も毎日のように悪夢や金縛りにあって熟睡できず日中授業中に居眠りして担任に叱られるという悪循環でした。現在ほとんど悪夢を見ないのはできるだけストレスを排除した生活を送っているからかもしれません。

ホルモンバランスに起因するもの

ASD女性が思春期にかけて体調を崩しやすい原因の一つに、女性ホルモンの影響が大きくなるというものがあります。
女性ホルモンにはエストロゲンとプロゲステロンという2種のホルモンがありそれぞれ月経周期によって分泌量が変化しますが、感覚過敏があるとそのホルモンバランスの変化に過敏に反応し、そのストレスによってホルモンバランスが崩れてしまうという悪循環を起こしやすいと考えられます。
ASDに限らず多かれ少なかれ思春期以降の女性はホルモンバランスの変化で体調不良を感じやすいですが、ASD女性の場合はその出方が激しく生理痛やPMSの痛みで寝込んでしまうことも多々あるため周りからは「大袈裟だ」「思い込みが激しすぎ」ととられがちになるように思います。ホルモンバランスの崩れに起因する吹き出物に悩まされる当事者も多いのではと思います。

低用量ピルはそんなホルモンバランスに起因する体調不良を大幅に改善してくれます。私は30代の時に子宮疾患が見つかりその後長年にわたって低用量ピルによる治療を受けることになりましたが、あれだけ10代20代の時に散々苦しんでいた一連の原因不明の体調不良が大幅に改善して自分でもビックリするほどでした。ストラテラやコンサータが使えるADHDと違いASDには特性に特化した治療薬はありませんが、ASD女性の場合は低用量ピルの恩恵を受ける可能性は高いでしょう。もちろん体質によってピルが合わない方もいますから全ての方にお勧めするわけではありませんが、気になる方は女性外来に相談されるとよいと思います。

改善のカギはストレスマネジメントと「自分は自分」というマインド

ASDの体調不良改善には「ストレスマネジメントの手段をたくさん持っている」がカギとなるのかなと思います。
感覚過敏や不安感を抱える者にとって「ストレスを気にしないようにする」というのは難しいので、「ストレス自体を避ける」ことを工夫するのがいいと思います。
「静かな場所や一人でいる時間を確保する」というのは特に大事だと思います。誰とも会話せず一人家で好きな事をして過ごすのが基本ですが日帰りの一人旅もよいでしょう。「自身でコントロールできる数少ない外部ストレス」としては食事もあります。自身の体質に合った食材を見極めることも体調改善には特に有効です。

それともう一つ大事なのは「人は人、自分は自分」というマインドです。ASDであっても女性は「嫌われたくない」という意識からつい自分の体力の限界を超えて周りに過剰適応しようとする傾向がありますが、ストレスによりただでさえ人一倍脆弱な自律神経系を痛めつけてしまう恐れがあります。
以前の記事にも書いたことがありますが、一般社会の大学生活や社会人生活というのは「健康に良くない」ものが多いです。私が若い頃は毎週のように明け方まで飲み会やカラオケ会をするのが職場で常態化していました。当時はめまいや疲労感を抱えつつも「みんな行ってるのに自分が行かないのは社会人失格だ」という思い込みがあって必死に飲み会に付き合ったように思います。私とは正反対の、「他人と関わることが疲労回復になる」タイプがいるということを知ったのはずっと後になってからです。
今から思えば「付き合いが悪い」と思われることを過剰に気にせず、「ごめん今日は用事がある」などと適当に理由をつけて飲み会をうまく断ることも必要だったなと痛感しています。

ASDの、「自分のことにしか関心がない」という世間的なイメージを気にして必要以上に他者と関わろうとする当事者は少なくないと思いますが、それは「自身の健康を犠牲にしてまで頑張る価値のあるもの」ではありません。「周りの期待に沿えないのが辛い」と必要以上に罪悪感を抱えることなく、自身の心と身体を大事に考えてほしいと思います。

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