見出し画像

発達障害と一人暮らしについて。

最近Twitterで「発達障害者は一人暮らしできないのか?」というのが話題になっていました。案の定「恋愛」や「結婚」の時と同様、「そんなの人による」「自分も発達だけど何年も一人暮らししてる」という反対意見が目立ちます。
本当に発達障害者に一人暮らしは難しいのでしょうか?個人的には「一人暮らしはできないことはないが特性上気をつけないといけない点は多い」と思います。
その主な点として「体調管理の問題」「生活管理の問題」「経済面の問題」が挙げられます。

①体調管理の問題

一人暮らしを続けるには何よりも健康であること、体力があることが必要と思います。
発達障害がある場合、元々の自律神経失調や偏食による栄養バランスの問題から体調を崩しやすくなります。この不調は30代以降になると軽減するのですが、大学進学や新卒で就職する年齢ではまだ自律神経系が安定しないため、新生活で環境が変わったり新しい仕事や人間関係をこなすうちにどんどん疲労をためてしまいます。
その状態で一人暮らしの部屋に帰り料理や掃除などの家事をこなすのは正直億劫で「何もしたくない」となるでしょう。

私が実家にいた頃も親からは「あんたが一人暮らしになったら毎日ポテチばかり食べる生活になるから無理」と言われたものです。
私が現在一人暮らしで何とかやっていけるのは、一人暮らしを始めた年齢が遅かったので、その間に若い頃には常に不調気味だった自律神経が安定し体力がついたからだと思います。私が新卒で一人暮らしを始めていたらそれこそ自炊が面倒で毎日ポテチ生活だったかもしれません。

私はアレルギーもあり現在は自炊中心の生活を送っていますが、個人的には「忙しい時には自炊よりも睡眠を優先したほうがよい」と思います。残業などで夜家に帰るのが遅くなるのならそこから頑張って自炊をしようとせず睡眠時間を確保したほうが人一倍疲労感を抱えやすい特性持ちには必要と考えています。栄養バランスが良い冷凍食品も出ていますので常備して調理時間を節約するのがいいでしょう。

②生活管理の問題

「発達障害者は一人暮らしできない」の根拠となっているのはおそらく2012年のダイヤモンド・オンラインの記事「成績優秀なのに仕事ができない - “大人の発達障害”に向く仕事、向かない仕事」のこの箇所と思われます↓

こうした発達障害のある人が進学や就職を考えるとき、「1人暮らしは避けたほうがいい」と、星野医師は指摘する。ADHDやアスペルガー症候群の多くの人は、親元を離れて1人暮らしを始めると、身の回りのことができなくなり、ほぼ例外なく生活が破たんするからだという。

この発言の根拠は星野先生ご自身の学生時代の経験に基づくものだと思います。星野先生ご自身がADHD当事者であり、大学進学のタイミングで一人暮らしを始めた途端「見事なまでに生活は破綻していきました。」とご自身の著書(星野仁彦「発達障害に気づかない大人たち」祥伝社新書(2010年))で書いておられます。
「片付けや整理整頓ができないので部屋はたちまちゴミの山、生ゴミなども捨てればいいのに置きっぱなしでしたから、そのうちウジがわきました」(同書)というぐらいですから、その破綻ぶりは相当だったと言わざるを得ません。
そんな星野先生が生活破綻者から脱出できたのは、大学卒業後にすぐ結婚し「私の身辺を管理し、支えてくれた妻」のおかげということです。しかしこれは誰でもできる解決法ではありませんね。

学生が一人暮らしを始めるときに生活面の助言を得られるのは主に友人や先輩方だろうと思われます。この点、人間関係を構築し維持するスキルに困難を抱える発達障害者は不利かもしれません。
幸い星野先生の学生時代とは異なり、現在はネット環境が充実していますから一人暮らしに関するノウハウはいくらでもGoogle検索やSNS等で得ることが可能です。

しかしそれ以上に大事なのは「規則正しい生活を人一倍意識する」ことだと思います。
過集中の特性があるとついついゲームやネットに夢中になり夜更かしが続くなど不規則な生活になりやすくなります。意外に落とし穴なのが「残業」で、夢中になると終電まで頑張ってしまうこともあります。家につく頃には疲労困憊で全く動けなくなります。
このような状態ではとても日常生活の管理はできません。まともな食事をとれず栄養失調になったり「汚部屋」になっても仕方のないことだと思います。
残念ながら大学生活や社会人生活というのは「健康に良くない」ものが多いです。私の新人時代には明け方まで職場の飲み会やカラオケに付き合わないと同僚に「付き合いが悪い」と言われたものです。
しかしどんなに付き合い悪いと言われても「みんなで一緒に騒いで楽しむ」ことでストレスを発散できる定型発達者のライフスタイルに何から何まで全部合わせるのは避けたほうがいいかもしれません。
①と重複しますが、適当に切り上げて家に帰り睡眠を確保することが大事だと思います。

特にADHDの特性があると、疲労している時は不注意が特に多くなります。鍵を落としたり、ガスの火をかけっぱなしにしたり、お風呂のお湯をあふれさせてしまう等々。このため部屋選びの時に「IHコンロの台所」「自動お湯張り機能のあるお風呂」のある物件を探すというのも有効な方法と思います(まあそれでもお風呂の栓をするのを忘れたままお湯張り設定してしまうことも多々あるのですが...)。

③経済面の問題

ここでは主に支出の話をします。一人暮らしではとにかく支払うものが多いです。家賃、電気代、ガス代、水道代等々。これらをいちいちコンビニ支払いするのはとても面倒くさいので滞納にならないよう予め銀行口座やクレジットカードからの自動引き落としにするのが吉です。先延ばし癖のあるタイプには特に必要と思います。

クレジットカードで思い出したのですが、個人的に「リボ払い」には手を出さないほうがいいと思います。特にADHDがある場合、先延ばし癖で「後で頑張って払えばいいや」と油断してその間思い付きと衝動性に任せてお買い物をしてしまうとどんどん返済額が膨らんでしまい危険です。原則カードは一括払い、買い物に行く前に予め「上限は〇万円」と予算を決めて買い物をするという習慣をつけるのがいいと思います。
発達障害者ではないですが「私はカードは絶対使わない」と現金主義を貫く人も私の周りにはいます。

発達障害がある場合、地味に人一倍かかるのが医療費だと思います。精神薬はもちろんのこと、ストレスによる体調不良や不注意による怪我も多いので何だかんだで色んな科の病院にお世話になることが多いと思います。この分を一人暮らしの生活費から確保する必要があるのが辛い所です。

このように、「基本的に誰でも当てはまることだけど発達障害の特性を持つ人は特に注意したほうがいい」というのが一人暮らしには多いと思います。

別に一人暮らしをしなくてもよい

ここまで長々と書いておいてなんですが、実はこれが一番言いたいことです。最近実家暮らしの独身者を指して「子供部屋おじさん(おばさん)」などという言葉が出回っていますが本当に失礼な話です。

私が実家暮らしをしていた90年代後半頃に「パラサイト・シングル」という言葉が流行っていました。社会人になってもずっと親元にいて少額の食費だけ入れて身の回りの世話を全て親に頼り、給料は食費除いた残りをすべて自分のお小遣いとして海外旅行やブランド品を買いまくる羽振りの良い生活を謳歌する優雅な独身男女を指した用語です。
職場でも親戚の集まりでも「いいね~Luちゃんは今流行りのパラサイトシングル!羨ましい」「理解のある親御さんで幸せだね~」「給料全部お小遣いなんでしょ?」と散々からかわれたものです。
それが当時はとても悔しくて、親に何度も「一人暮らししたい」と訴えたのですが、先ほどの話の通り(「毎日ポテチばかり食べる生活になるから無理」)全く許してもらえませんでした。
その後機会があって転勤が決まり、実家から遠く離れた地方で一人暮らしを始め今に至ります。

私自身は「他人と長時間一緒にいると疲れてしまう」というASD的な特性があるため現在の一人暮らしの生活に満足していますが、一人暮らしで身につく生活スキルは実家にいても充分身につけることができるし、何よりも貯金ができるのは大きいです。
今の実家暮らしの人たちはかつての「パラサイト・シングル」とは違い、「今の収入では一人暮らしに必要な生活費を賄えないため実家にいる」人のほうが多いと思います(そもそも当時のパラサイトシングル達だって「経済的に仕方なく実家にいる」タイプが殆どだったと思うのですが…)。まして「老後資金は2000万円必要」などと言われたら一人暮らしにかかる家賃分を貯金に回した方が現実的でしょう。
親との関係が悪いというのでなければ別に一人暮らしする必要はないと思っています。

余談ですが、定型発達者でも一人暮らしができない人は結構います。その主な理由は「一人だと寂しいから」というものです。日中学校や職場で友人や同僚とワイワイやっていても、夜にアパートで一人でいると鬱になるのだそうです。それが理由で結婚したという人も何人かいます。
前の記事でふれた、「テレワークは誰とも話せなくて辛い」というのと同種の辛さだと思います。発達とか定型とか関係なく一人暮らしには相性があるのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?