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「職場内カサンドラ」について:その③

先日、「職場内カサンドラ」の記事に反応が急増し「2年前の記事なのになぜだろう…?」と思っていたら、当時職場の発達障害者と働く辛さを訴えたnote記事が話題になっていて、そのついでに私の記事を見に来てくれた方がいたようでした。「職場(内)カサンドラ」という用語も定着しつつあるようです。元々夫婦間の意思疎通の困難や情緒的繫がりの欠如から夫婦の一方が心身を病む「カサンドラ症候群」と似て発達障害などコミュニケーションに問題を抱える社員と一緒に仕事をする同僚が意思疎通の齟齬によりストレスを抱えてしまう状況からついた名称ですが、中には「発達障害者は定型発達者とは全く関わらない所で生きてほしい。ベーシックインカムや生活保護を貰ってひっそり生きてほしい」と激しい調子で当事者と関わらるストレスを口にする人もいて、このような声が増えるに従い発達障害者はもちろんのこと少々コミュ障で要領の悪い社員までが「あいつ発達じゃないか」と勝手にレッテルを貼られ職場からも結婚からも排除されてしまうのではと懸念しています。

確かに「発達障害者と一緒に仕事をするのは辛い」という同僚たちの気持ちは蔑ろにされるべきではないと思います。発達障害者の特性(考え方や感覚)は定型発達者にとっては「異質」なものですからそのままでは相手に違和感を与えたりときには不快感を与えることもあるでしょう。
しかし、そのことと「発達障害者は職場から排除すべきだ」という発想は全く別物であり混同してはならないものだと思います。前者は差別ではありませんが後者は差別と言われても仕方がないでしょう。

とはいえ、発達障害者の周りの同僚が当事者と関わるストレスのために心を病み退職に追い込まれる状況も避けなければなりません。ではどうしたら「職場内カサンドラ」を避けることができるのでしょうか?

以前の記事では
職場内でペアとして孤立した状態を作らない
配慮の必要な社員は特定の同僚一人だけにフォローを丸投げせず、数人で支える体制にする
という話をしましたが、何よりも大事なのはやはり
・発達当事者が自身の特性を自覚し、周囲の理解を得るために自身も特性と折り合う努力と工夫をする
ではないかと思います。
これを見て「努力してもできないから障害なのに」と失望してしまう当事者の方もいるかもしれません。私も当事者ですからその気持ちはよくわかります。

発達障害と「努力」について」という記事にも書きましたが発達障害の問題を克服するには「努力」と「根性」以上に「自己分析」と「工夫」が必要だと思います。自己分析は具体的であればあるほど好ましいです。「自分はどこにつまずいてしまうのか?」「何故つまずいてしまうのか?」「周りには何を助けてほしいのか?」「代わりに自分は何なら頑張れるのか?」などを書き出してみるとよいでしょう。

例として「こちらから何度指示しても発達当事者に伝わらない」という問題があったとします。この「何度指示しても伝わらない」には様々な原因があるのでどれが本当の原因かを突きとめる必要があります。
例えばAPD(聴覚情報処理障害)のために相手の言っていることが「音」として聞こえていても「言葉」として認識しにくいのかもしれない、あるいは「言葉」として認識できていても記憶に定着せずすぐに忘れてしまうのかもしれないということであれば、「口頭でなくメールで指示してもらう」「メモを取る時間をもらう」が最適解となります。

あるいは「指示の内容が曖昧で理解しにくい」ので伝わらないということも考えられます。定型発達同士であれば共通認識があるために「語られなかった部分」を脳内補完することができますが、定型発達と共通認識を持たない発達障害者にとってはある意味「言葉が全て」なので肝心の言葉が曖昧だと「語られなかった部分」が何であるかを理解できず指示通りに動けないということがあります。
「適当にやっといて」という指示には「適当ってどれぐらいですか?」「何をやっとくんですか?」と聞きたくなるところですが、他の人たちはその場の状況から当たり前に判断できることなので「何でそんなことをわざわざ聞くの?」と不愉快にさせてしまうかもしれません。
自分は曖昧な表現が苦手であることを同僚たちに説明し、より細かく具体的な指示をしてもらうことが解決となります。

他に「興味が持てないので動けない」「自分の中で重要度が低いのでとりかかれない」というケースもあります。かなり自分勝手な理由ではありますが、興味のあるなしでパフォーマンスが極端に変わってしまう発達当事者には少なくないパターンです。
こればかりは周りの人もどうすることもできないですから自力で改善していくしかありません。「なぜ自分は興味が持てないのか?」「どうしたら興味が持てるようになるのか」「興味と関係なく動けるようになるにはどうしたらいいのか」という自己分析が必要になります。自分が「褒められると調子に乗って動ける」タイプなのか「追い込まれて危機感を覚えてやっと動く」タイプなのかという正確な自己認識も大事です。

「発達障害者と一緒に仕事をするのは辛い」のは「一緒に仕事をする」から辛いのであって「誰かと一緒に仕事をする」体制にしなければよいとも考えられます。実際私の職場でも、周りと殆ど関わらず一人で完結している仕事に従事している発達グレーの同僚たちが複数名います。私自身も発達当事者ですが、社内専門職として自分だけで進められる仕事をしています。最近は多くの企業で社員間のコミュニケーション向上と称して何かと複数人で仕事を進めることが推奨されているようですが、発達当事者を他の同僚とペアを組ませたり複数人との密なコミュニケーションを頻繁に取る必要のあるプロジェクトに入れることは発達当事者にとっても定型の同僚たちにとってもあまり良い結果を生まないのではないかと思います。それよりは自分の裁量で仕事のペースを決められる一人仕事のほうが本人の満足度も高く周りもお互い密に関わる時のようなストレスがなくて済むかもしれません。

このように「職場内カサンドラ」は職場全体の組織や体制を工夫することで回避できるものではないかと考えています。「発達障害者と一緒に仕事をするのは辛い」という声に耳を傾けることは大事ですが、その声を「発達障害者は職場から排除すべきだ」というヘイトにつなげてはいけないのです。

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