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作詩-言葉たち-

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言葉を紡ぎ 詩を編む。 電子の海に浮かぶ一遍の詩集をどうぞご賞味くださいませ。
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2015年1月の記事一覧

ご挨拶を

あの日のまま
いつものまま
椅子に掛けられた上着
腕を彩った時計も
鋭利な黒をたたえるのに

針が進むごと
失われてゆく
遺されたあなたのぬくもり
染めていたはずの香り

最期に握り返した左手は
いつもの別れの挨拶だったの?
もう戻って来られないこと
わかっていたはずなのに

去ってゆく後ろ姿は
呆気ないくらいいつも通りね
ノイズがかった君は
せつなさも連れて行ってしまう

夢の狭間で
逢えるのも

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また逢う日まで

この地上にあなたはもういないのに
逢いたくてしょうがない時
空を見上げている

青空があんなにも遠いのに愛しいのは
そこにあなたがいるからでしょうか

地平ごとわたしを包むように
世界を覆う空よ
どこまでも見渡せる青空なら
青にとけたあなたと
触れあっているのかもしれない

地上のわたしがあなたの証となるように
今日も生きてゆく

©2015  緋月 燈

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ソメ・がたり

心に刻まれた
こまかい傷を癒すために
眠りは必要だというわ

朝がどんなに憎らしくて
夜の狭間に
縫いとめてほしいと
願っても
時は残酷すぎるくらいに平等で
闇をあれよと明かしてしまう

花に添う露のように
儚いなら美しいかしら

なにも言わない魔女は
その裡になにを潜ませているのでしょう

さあ お伽噺をソめようか

©2015 緋月 燈

雨あがりの青

薄く濡れた灰いろの空に
青さが透けはじめたら
雨はもうあがる頃でしょう
天地にそそぐ雫も絶え

泣けない代わり 泣いてくれた
空ももう晴れてしまう
瞳は乾く
陽の光はどこかに忘れたまま
硝子の向こうを見つめていた

閉ざした視界の奥
空の青を映した花が
ひとり 咲いている

何も視えない瞳に映る
ひとさしの青
空を思い出させているの?

モノクロのまま
無機質にざわめき
ハレーション響かす世界は

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オモイの岸

どこの岸にも辿り着けない感情の迸りが
こころの中でうねる
壊してしまいたくて
守っていたくて
どうしたいのかも見えない

ああ 力を抜いて
この揺らぎに身を任せてみよう
行き着く場所はわからないけど
今のわたしがどこへ向かうのか
心のままに委ねてみよう

「ありのまま」とは違うのよ
素っ裸でいたって寒いだけだもの
肌が焼けてしまったりもするから
心地よい程度に装って

息をしながら揺らぎましょう

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花の咲き場処

紫の夜を越えた先
冷たい荒れ地であろうとも
凛と咲く花 紫の花

幾度萎れて種となっても
幾度鳥が道を変えても
種と為りて生まれ変わる

置かれた場所に頷けず
幾重に幾重に旅を続ける

やがて誰も知らぬ山奥
されど花は輝きを増す

ここにいると叫ばなくとも
心のままに在るがゆえに

そして歌人が画家が文士が
見出す花の気高さよ
心のままにあるがゆえに
美しくある 永久に とこしえに

©2015 

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君の傍

白と黒が奏でる音
まったく違うのに
織り成す音色は
時に小川のせせらぎ
新緑薫る風
うねる嵐

美しさも愛しさも
怒りも哀しみも
ぜんぶ孕んで
旋律となるわ

その音が
たった一人の愛する人の為なら
きっといくつの世界が変わるのか

言葉にできない心を
音に籠めて奏でたら
それはきっと何より美しく彩られよう

そんな音色に
詩をのせて
君に届けたい

喜んでくれたらうれしい
安らいでくれたら幸せ

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暁をとめて

深い夜のつなぎめ
横たわるオレンジの陽
青い夜へと導かれる
どこまでも続く空に

二人は寄り添うかのようで
けれど解けあわず
けれどなずみ
ただそこに輝きあう

夜と昼と
その間
朝と夜と
その間

わずかな時にしか
見えない
オレンジ

とらえたいその姿は
いつもゆらゆら
陽炎のよう
とらえられないから愛おしいのか

肌を刺す冷たさに
どこかぬくもる夜が恋しい
君の腕に包まれて
眠るとはなんても

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糸をほどいて

よれた糸を解いて
そっと元に戻すのは
なんて大変で とても根気のいること

絡まってしまったことに気付かずに
進んでしまったから
どこが根っこなのか探すのも
ほどくのも大変なの

でももう気づいてしまったから
なかったことにはできないの

ゆっくり ゆっくり
自分で納得しながら
頷きながら ほどいてゆく

それは時に痛みも伴って
生身の心臓を晒すような
柔らかな芽を冬風にあてるような
つきりとした

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空に笑う

切に切に
届け 届けと願って
伸ばした手
空を切るだけ

憶えているよ
あんなにも空を求めたこと

大人になって
ヒコーキに乗って
やっと辿り着けたのに

ああ あの日の空は
こんなにも高くて
辿り着くなんて
きっとできない場所に在るんだ

でもほんの少し
あの空に近づけた
それが嬉しいんだ

©2015  緋月 燈

AmijakanWatch https://twitter.com/Amija

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今日という日の空が恙無く役目を為し終える
これが奇跡だと
思うことができる日を増やしたい

今日という時
今という刹那を
愛おしく いとおしく
大切に生きるのは
なんと難しいことだろう

空が色を変えてくれなかったら
何も知らないまま 気づかないまま
過ごしてしまうのだろう

幼い頃
夜を越えて また生きていられるか
怖くて仕方なかったのに
今は朝を嫌ってる

変わらない自分に
乾いた笑いを
それ

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夜明けのわたし

深い夜の奥
闇の只中で
蒼空に焦がれる
眠りの前のまどろみのような
微温湯に抱かれて
希望という名の夢を見る

人はそれを逃避と呼ぶかもしれない
弱者と嗤うかもしれない

でもね 必要だったりもするものよ
蝶が舞う為 繭の闇に籠るように
暗い場所で自分を羽化させる時が

わたしの目を塞ぐのは
わたしだったりするけれど
毒の棘を刺したまま
自分を誤魔化すよりいい

わたしのなかの夜に触れれば
夜明け

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ブルーいろの気配

乾いた瞳に
涙をひとしずく
零しましょう

泣くことを忘れた魂に
泣ける弱さと強さを
差し掛けましょう

夜明けを怖れる心に
抱きしめる腕を
差し上げる

縋りつく夜は
いろんなものを見てきた目を
そっと覆う
月のひかりは
静謐の揺り籠を
揺する

肩を抱いてはあげられないけど
どうか 感じて

隣にはいられないかもしれないけど
傍に居る
触れあうことはできなくても
頬を撫でる風に
そっと香りを忍

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