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『ロミオとジュリエット』英国ロイヤルバレエ団公演に寄せて

昨晩、東京文化会館で英国ロイヤル・バレエ団の『ロミオとジュリエット』が開幕した。 バレエ全般、観ることは好きなのだけど、中でも英国ロイヤル・バレエは別次元だったから、全幕観に行けたことが本当に嬉しかった。 目当てのキャストは、ジュリエットを演じたサラ・ラム。 以前、ロイヤル・バレエ・ガラで観劇した時、本当にそこに妖精がいるのかと問いかけたくなるくらいの存在感に嘆息した。 シェイクスピアの国の伝統あるバレエ団で、シェイクスピアの作品を観られる。ましてや、ロイヤルバレエの醍醐味

    • 梨木香歩の綴る世界から

      ふらりと立ち寄った本屋で、引き寄せられるようにして本を手に取った経験が、読書好きなら誰しもあると思う。 『やがて満ちてくる光の』という、梨木香歩さんのエッセイも、私にとってはその類の本だった。 昨年の暮れから、梨木香歩さんの作品を読むようになった。日暮れの吉祥寺を行く先も決めずに歩いていた時、紫のオーニングを降ろした一軒のお店が目に止まった。まるで絵本の世界に迷い込んだかのような店内の装いが、日の沈みかけた闇の中で、安心させるような柔い光をたたえて浮かび上がっていた。わくわ

      • 感受性と孤独と知床

        仕事や学業に忙殺される日々を送っていると、ふと足を止めた時に自分の感受性が息を潜めていることに気がついて、愕然とする。 街中を歩く時、いつもだったら点字に息づく人の気配や、エスカレーターの前に立っている人の少しプリンになった髪の生え際、梅雨らしく澄ました顔でしとしとと降る雨の音、そんなことに小気味良くなったり、癒されたりしている。微かな息遣いで、しかしたしかに世界にある証に気付くことで、私は幸せでいられる。 仕事をする上で、ある程度心を麻痺させることは自衛にもなる。この世

        • 素朴に生きていたい

          素朴に生きていたいと思うこの頃。 肩肘を張らずに、自分を上手く取り繕わずに、鼻の頭にできたニキビも「これも人間なのだから仕方ないよね」と笑い飛ばす、そんな風に生きていたい。 そんな事をずっと思っていて、ずっと素朴に生きているように見える人に憧れている。 結局のところ、素朴という言葉に正解は無いし、素朴に生きているように見える人も、案外「そう見える」様に取り繕って生きているのかもしれない。 なので、私だって素朴についてよくわかっていない。 けれど、最近強くこれを思うのは理

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          休む人が、信頼できる人になるように

          今日は三連休の最終日。 みなさんは、心も身体もゆるりと休めましたか? 新年早々、私の中のあらゆるスイッチが切れてしまった。 仕事するスイッチ、掃除するスイッチ、ゲームするスイッチ、身体が健康を維持するスイッチ、その他もろもろ。 2023年の始まりは、私にとってかなり気合いの必要な仕事から。 その後も、翌日から地方での泊まりがけでのお仕事だったから、気力的にも体力的にもフル回転だった。 それが無事に終わって、家に帰ってきた途端。 パチン!!! 私、停電。 停電ってどん

          休む人が、信頼できる人になるように

          幸せを願うとき

          母から、クリスマスプレゼントに銀彫りのノームをもらった。 御歳80を迎え、今年で引退する彫金師のおじいさんが、手彫りで作った一点物。 ノームの髭や後ろ髪までとても繊細に彫られていて、少ししかめ面をした顔と、三頭身の体のフォルムに愛嬌がある。 聞けば、これを持っていると持ち主に幸せなことがあるらしい。 「娘さんに幸せなことがありますように」 との言伝を添えて。 彫金師のおじいさんとは、直接的な面識はない。 仲のいいお客さんの娘だから、ただ深い意味などなく発した言葉だったか

          幸せを願うとき

          雪解け

          祖母は、今年で90歳になった。 ずっと「優秀じゃなきゃいけない」ということを私に言い続け、女として生まれたことへの罪悪感を植え付けた人。 そして、祖母の両親の代から受け継がれた梅干しの漬け方や、手料理、女であっても守られることなく強く生きることを教えてくれた人でもある。 今年のクリスマスイブは、家族で食卓を囲んだ。 その帰り、祖母を車で送ることになった。 夜が深まった時間帯に祖母と一緒にいることなんで人生で初めてで、年老いた彼女は普段ほど口数も多くなかった。 「私ももし戦

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          ファインダー越しのひと目ぼれ

          どうしても辛くてやり過ごせないことがあった時、必ずカメラを持って景色を撮りに行くと決めている。 ほんの僅かな時間でも、ファインダーをのぞいた先に見えるものは私を癒してくれる。 トドメは、ほんの小さなことだった。 本来だったら喜べるはずのことが、喜べない状況を作り出してしまって、感情が氾濫を起こした。 師走の忙しさは毎年のことだし、もう七年目になる仕事をこなす心の持ち様だってとっくに身についている。だけど、積もった雪はいずれ雪崩を起こす。雪の結晶のひとひらがどんなに美しかった

          ファインダー越しのひと目ぼれ

          海の青の万年筆

          誰かがこだわってつくったものが好きだ。 職人の手業がみえる陶器や、利便性だけじゃなくて遊び心や優しさが伝わる掃除道具や文具。手編みのセーター、不便さが「味」として躍動するカメラとか。 「たのしく、書く人。」 町工場の連なる蔵前の通りを進むと、ガラス張りにあたたかな手書きのロゴを掲げたお店がある。 ここは、書くことへのこだわりと想いの集った空間。 カキモリ、というお店。 お店を知ったきっかけは、好きなYouTuber「ふたりclip」のしおちゃんがカキモリさんの透明軸万年筆

          海の青の万年筆

          SNSと、私の輪郭

          普段持ち歩くiPhoneから、InstagramとTwitterを消した。 ある時期、奏者としての知名度を上げるために投稿を欠かさなかった自分を省みると、大きな転換点だった。 SNSは、たしかに便利。 欲しい情報はすぐに手に入るし、人のことを知りたいと思えばすぐに調べがつく。 それが、その人の見せたい情報であろうとなかろうと。 消してみて気がついた事がある。 電車に乗った時、手持ち無沙汰になった瞬間に無意識でSNSを開くのが癖になっていた。 SNS上で自分を証明するのが当

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