見出し画像

グレン・グールドと『草枕』

 グレン・グールドの愛読書が『草枕』だったという記事が載っていた。
 『SIGNATURE』12月号の特集は、グレン・グールドである。
 ポストで受け取り、部屋に入るや否やページを捲った。
 

特集 グレン・グールド  自然の声を聴く
 写真・佐藤良一
 文・鈴木博美
 協力・オンタリオ州観光局
 カナダ観光局

 表紙は、グールドの母が祖母から譲り受け、グールドが最初に触れたというドミニオンのピアノと、グールドを象徴する低すぎる椅子の複製品の写真。
 別荘に行く度にこのピアノをトレーラーで150キロの道のりを運ばせていたために、かなり摩耗したのを修繕したものだそうだ。

 
 
 グールドの死後、ベッドサイドには2冊の本があり、そのうちの一冊が夏目漱石の『草枕』であったという話が、しばらく読むと出てくる。
 夏目漱石を通じて、日本の文化や精神に関心を持っていたのかも知れない、という内容である。

 『草枕』は、英語版で『The Three-Cornered World(三角の世界)』。


 「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画が出来る」(夏目漱石『草枕』)そんな冒頭に自身を重ねたのだろうか。三角の世界とは「四角な世界から常識と名のつく、一角を摩滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう」(同『草枕』)という漱石の文章からとったものだ。 

 と書かれている。
 読書家であったグールドは『草枕』を愛読し、彼のラジオ番組で第一章の一部を朗読したのだという。

 
 私は、『The Three-Cornered World』の装丁にも、面白さを感じてしまった。
 三角の世界か・・・。
 頭に赤い三角形?
 常識という名の一角を頭の中から摩滅する・・・それを、赤い三角形という直接的な表現にしているのが、日本的でないところが面白い。


 また、グールドの友人の話も興味深かった。

 (前略)
 レコーディングはいつも夜9時から深夜まで。彼はその後いつも同じレストランで同じ席に座り、スクランブルエッグとオレンジジュースを注文するの。一日の食事はそれだけ。あとはビスケット。食と服装には全く関心がなかったわね。
                         SHIGNETURE12月号より




 その内容からも、色々楽しく想像した。

 惹かれているものを、もっと深く知る楽しみを秋の夜に味わった。
 「芸術の目的とは、一時的にアドレナリンを分泌させることではなく、生涯をかけて徐々に驚異と静穏の状態を創り上げていくことである。」
というグールドの言葉は、やはり深みを持っている。
 
 
 以前、グレン・グールドの記事を書いたことがある。


 芝生に埋め込まれたグールドの墓石には、ピアノのレリーフと『ゴールドベルク変奏曲』の最初の3小節が刻まれており、それが彼の墓碑銘であるという。



 


書くこと、描くことを続けていきたいと思います。