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美しい棘

 部屋に入ると、そこに座っていた女性の表情は硬かった。
 しかし、その方からは母性が溢れてきて、私のところに到達してくる。
 温かい。
 包まれているような気持ちになる。

「家を出て行った夫から、その家族から、それ相当の援助が欲しい。」
と繰り返された。
 確かにお金がなければ生きてはいけない。
 しかし、この方が本当に一番欲しいものは、そうではない気がした。

 長いこと、色々な経験で痛めつけられた心が身を硬くしているけれども、この方のこの温かさはなんだろう。
 6歳年下の夫は、子ども三人とアルコール中毒の自分の母親を妻の元に置いたまま、家を出て行ってしまったという。
 この家族のストーリーは色々なことが絡み合っており、それらを解いてゆっくり整理した。
 段々に女性の心がやわらかくなり、頬が緩んできた。

 「失礼かもしれませんが、あなたには援助という言葉がお似合いにならない気がします。ご自分で立って進める力もお持ちです。」
と、率直に言葉をかけた。
 その方は、美しくて悲しげな笑みを浮かべて頷いた。
 愛の人なのだ、と思った。


 今日は、GLIM SPANKYをかけて、夕方車を飛ばしたい気持ちだった。
 『美しい棘』・・・という題名の曲。
 この題名が好きだ。
 そして、UKロックが好きだった昔を思い出させてくれるGLIM SPANKYを、たまに聴きたくなる。

 『美しい棘』は、出会う若い女の子たちに重なることがある。
 「いつかは、こんなことを思い出す時が来るのかな、って語り合っている」少女が、みんなそれぞれ大人になる。

 痛みを隠しながら 少女は今
 傷を治せる愛を少しずつ知っていく

美しい棘

 大人になっても、傷を治せる愛を求め続けるっていうことかもしれないよね、って大人の私がいう。

 でも本当は、自分を愛せるのは自分だけ。

 自分を目一杯愛せるなら、世の中は今までと変わって見える。
 傷はすぐに治せなかったとしても、少しずつ癒すことはできるよね、と大人の私がいう。

 いや、自分自身が愛そのもの。

 『美しい棘』の歌詞の最初は、十字架の見える窓。
 そして棘。
 職場を出る頃、外にはクリスマスのイルミネーションが金色に光っている。

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