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Photo by
landyny
待ち人はカフェで【note詩】
湖と暖炉の火を混ぜて溶かしたような明け方の空
取り残された少女の胸では
あいまいな不安と期待が入り混じる
「会いに行く」って言ったじゃない
今朝いちばんに
レンガ造りの駅の前で待っているのに
蔦の絡まる教会裏にひっそりと立つ夜のカフェ
少女が待つ男は、雨が降った日は決まってそこへ向かい
アイリッシュコーヒーと甘くないレアチーズケーキで
朝まで息をひそめている
いつも"守ること"から逃れてきた
約束も時間も
きっぱりと線引きされた何かに気づくのが恐いので
心の中を平穏な白一色にだけ染めたいのだ
心ときめく桃色も、内気で繊細な藤色も欲しくない
異色な絵の具がしのび込み
混じり合うのに怯えながら
窓ガラス越しに朝もやをみつめ
白いレアチーズケーキの最後のひとくちを舌になじませている
そして暖色のランプに目をほそめ
無人に思えるほど静けさに包まれたレジの奥に向かって
最後のアイリッシュコーヒーを注文する
誰かと指切りをした日は、必ず雨
いつか少女との約束を果たせる朝は来るのだろうか
混じり合わない二人のさだめを悟った少女が
待つことをやめ、透明傘を持ってカフェに入ってくる日を待っている
今日も受け身であることの快楽を味わいながら
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