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フランス詩を訳してみる

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2020年2月の記事一覧

デボルド゠ヴァルモール「サアディーの薔薇」(フランス詩を訳してみる 23)

Marceline Desbordes-Valmore (1786-1859), Les roses de Saadi (c.1848)

わたしは今朝あなたに薔薇の花を贈りたかった
けれども摘んだ薔薇を帯にたくさん挿しすぎて
きつく締めた結び目は持ちこたえられなくなった。

結び目ははじけた。薔薇の花は空を舞い
ひとつ残らず海に向かって飛んでいった。
そして潮に流されたきり戻ってこなかった。

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格を気にするひと(訳者あとがき2)

格を気にするひと(訳者あとがき2)

このところ翻訳する中で、格を気にさせすぎない日本語にする、ということを気にしていることがある。

学校で習う英文法では

〈主格〉  I  私が
〈所有格〉  my  私の
〈目的格〉  me  私を/私に

というのがある。ドイツ語やフランス語にもだいたい同じようなものがある。日本語文法では「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などと呼ばれていて、これも似たようなものだ。

しかし、ぼくらは普段それほど格を意

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ネルヴァル「幻想」(フランス詩を訳してみる 22)

Gérard de Nerval (1808-1855), Fantaisie (1831)

その歌のためならぼくは失ってもかまわない、
ロッシーニとモーツァルトとヴェーバーのすべてでも。
それははるか昔の歌、暗くてもの憂げで
ぼく一人だけにひそかな魅力を放つ。

その歌が耳に入ってくるたびに
ぼくの魂は二百年前に若返る。
それはルイ十三世の時代、目の前では
一面の緑の丘を夕陽が黄色に染めていく

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