デボルド゠ヴァルモール「サアディーの薔薇」(フランス詩を訳してみる 23)

Marceline Desbordes-Valmore (1786-1859), Les roses de Saadi (c.1848)

わたしは今朝あなたに薔薇の花を贈りたかった
けれども摘んだ薔薇を帯にたくさん挿しすぎて
きつく締めた結び目は持ちこたえられなくなった。

結び目ははじけた。薔薇の花は空を舞い
ひとつ残らず海に向かって飛んでいった。
そして潮に流されたきり戻ってこなかった。

波は花々のために燃えるように赤く染まった。
日が暮れた今もわたしのドレスに薔薇の香りが残る……
あなたに吸い込んでほしい、わたしが放つこの香気を。

(齋藤磯雄、入沢康夫、安藤俊次、清岡卓行の訳を参考した。)

J'ai voulu ce matin te rapporter des roses ;
Mais j'en avais tant pris dans mes ceintures closes
Que les noeuds trop serrés n'ont pu les contenir.

Les noeuds ont éclaté. Les roses envolées
Dans le vent, à la mer s'en sont toutes allées.
Elles ont suivi l'eau pour ne plus revenir ;

La vague en a paru rouge et comme enflammée.
Ce soir, ma robe encore en est tout embaumée...
Respires-en sur moi l'odorant souvenir.

 *

サアディー(1210-c.1291)はイランの詩人。『薔薇園』『果樹園』などの作品が17世紀以降フランス語やドイツ語に翻訳され、ラ・フォンテーヌやゲーテを含む多くの詩人に影響を与えました。

『薔薇園』の序文に次のような箇所があります。

 物思いにふける聖者の一人が、頭を黙想の懐にもたせながら、幻想の海に浸っていた。やがて、われに帰ると、友人の一人が、うれしそうに言った。「君のさまよっていた花園から、どんな珍らしいお土産を持って来てくれましたか」と。彼は答えた。「私がばらの繁みに着いたら、友人たちへのお土産に、花をすそ一杯に満たして来るつもりでした。しかし、私がそこに着くと、かぐわしい花の薫りが私を酔わしてしまったので、衣のすそが私の手から離れてしまいました。」(p. 16)

(サァディー『ゴレスターン』沢英三訳、原文は旧字新仮名遣い)

 *

フランスの作曲家マルグリット・カナル(Marguerite Canal, 1890-1978)が歌曲にしています(1908年)。

ベルギーの作曲家アルベール・ユイブレシュト(Albert Huybrechts, 1899-1938)による歌曲(1919年)もあります。


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