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モロイシンジのお仕事#4〜ヒツゼンチャーハン〜

モロイシンジのお仕事#4〜ヒツゼンチャーハン〜

 諸井は洗濯を終えるとおもむろに料理を始めた。料理といっても諸井にレパートリーは一つしかない。昨晩炊いて余った米を皿に移し、熱を冷ます。フライパンに大量のゴマ油を流し込みそのまま強火で加熱する。そのまま放置している間に卵を溶き、熱されたフライパンに米を投入する。

 米一粒一粒にゴマ油が染み込んでいく様を諸井は、米が美味しくなるプール遊びと名付けている。変わり者であるが、そのネーミングを他人に話し

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モロイシンジのお仕事#3〜独身君主〜

モロイシンジのお仕事#3〜独身君主〜

 新宿の中心地から少し外れ、歌舞伎町辺りの騒がしさが嘘のように思えるほど静かな場所にひっそり佇むマンション。オートロックを解除し入り口を抜けエレベーターで5階に上がり、出てすぐ右斜め前が諸井の部屋である。

 諸井は自宅に着くとまず玄関で服を着替える。出かける前に某有名スポーツブランドのスウェットを上下、靴箱の上に毎日欠かさず用意しているので、帰宅時は機械的に服を脱いで、着るだけで済む。玄関で着替

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モロイシンジのお仕事#2〜のびるチーズ〜

モロイシンジのお仕事#2〜のびるチーズ〜

 この部屋には今諸井と榊原の二人しかいない。榊原のチャンネルにはこの他にも三人協力者がいる。三人とも動画の演者としての役割が与えられており、榊原を合わせ演者は四人、裏方は諸井一人が行っている。
 榊原の自宅兼スタジオ兼オフィスであるこの部屋では、今日までの二年間大量の動画が撮影されてきたわけだが、最初は演者四人裏方一人というスタイルとはかけ離れた状況であった。

 20歳で大学を中退した榊原は、半

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モロイシンジのお仕事#1 〜メモハラ〜

モロイシンジのお仕事#1 〜メモハラ〜

 雨が好きなどとよくもまあ言えたものだ。百貨店内を我がフィールドなりといった様子で闊歩するマダムも、いざエレベーターで一階に降り百貨店独特の香水やら化粧品の入り混じった香りを抜け、外に出てもわっとした空気を肌で感じることで雨を目の当たりにすると借りてきた猫のように大人しくなる。

 諸井は今日五本目の煙草に火をつけると、まるで何かに迫られているかのように煙を肺へと流し込む。とどのつまり皆んな忘れて

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