「屁理屈をこね、言いがかりをつけ、呪いの言葉を吐く光源氏」/繁田信一著『懲りない光源氏』試し読み(No.4)
『源氏物語』のセリフに注目した繁田信一著『懲りない光源氏ーセリフで読み直す『源氏物語』若紫巻・葵巻』の試し読み第4回です。
前回までの光源氏はあまりいい印象がありませんでしたね。
しかし、です。なんと今回は違った一面の光源氏に出会えそうです!
早速、読んでいきましょう。
■試し読み start
年配の女性をいたわる光源氏
屁理屈をこねたり、言いがかりをつけたり、呪いの言葉を吐いたりと、ここまでの光源氏は、かなりのろくでなしです。こんな男性に魅力を感じるのは、ごく一部のかなり特殊な趣味を持つ女性だけでしょう。
しかし、現に千年もの長きに渡って数多の女性たちを魅了してきた光源氏は、これだけの男性ではありません。彼は、恋愛感情を抱く女性たちを相手には、しばしばひどい言葉を投げつけていましたが、恋愛感情とは無関係な年配の女性を前にするときには、いつも優しい言葉を口にするのです。
「大弍の乳母」として登場するのは、光源氏の側近の惟光の実の母にして、かつて乳母として光源氏の養育にあたっていた女性ですが、その大弐の乳母は、年老いて光源氏の乳母を引退した後、重い病気を患う身となり、ついには出家して尼になります。すると、光源氏は、何かと急がしい中、大弐の乳母が療養する五条大路の近くの家にまでわざわざ足を運び、涙ながらに次のような言葉をかけたのでした。
これは、光源氏の口から出た数多くの言葉の中でも、最も思いやりに満ちた優しい言葉なのではないでしょうか。光源氏は、こんな優しい言葉を口にすることもあるのです。
また、これに匹敵する光源氏の優しい言葉としては、やはり大弐の乳母を見舞った折のものか、葵の上が亡くなった直後にその母親の大宮にかけたものか、あるいは、明石の君の母親の明石の尼君をねぎらったものか、このくらいがあるばかりでしょう。そして、お気づきでしょうか、これらの優しい言葉が発せられたのは、例外なく、年配の女性を前にしたときなのです。光源氏は、彼の恋愛対象として妥当な年齢の女性たちには冷淡に振る舞うことがあっても、年配の女性たちには常に優しく接していたのです。
今まではよい印象のセリフは登場してきませんでしたが、今回はホッとしましたね。
今回はここまでにしましょう。
次回も楽しみにしてください!
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