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待望のフランス語版が刊行/川口裕司著『映画に学ぶフランス語』試し読み

2024年5月23日に川口裕司著『映画に学ぶフランス語』が配本になりました。

すでに弊社より刊行されている『映画に学ぶ』シリーズ、待望の新版です!


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■本の内容

名作映画のセリフから外国語を学ぶ『映画に学ぶ』シリーズ、待望のフランス語版!
初級者から上級者まで、フランス語で映画を楽しみたい人に役立つ!

初期のトーキー映画にはじまり、フランス映画の“良き伝統”と呼ばれる作品群、その監督たちと世代交代するように登場し、映画界に革命をもたらした〝ヌーヴェル・ヴァーグ〟。そして現代へ。

作品を編年的に並べ、そこで使われているセリフを解説。
セリフを通してフランス映画の魅力を再発見する!

本記事では、本のまえがきを公開します。
ぜひ、ご一読ください!


■試し読み

はじめに

 あれは,1960年代後半から70年頃のことです.雨が降ったり,友達からの誘いがなかった日は,映画を観て日中を過ごしていました.たまたま実家が映画館を経営していたためです.あの頃の地方の映画館は,ドサ回りの芝居や漫才師の公演にも利用されていました.そうしたこともあって,映画館の2階の両袖には,畳敷きの桟敷席があったのです.私の一番の悦びは,その袖席に座って,手すり越しに2階から映画を観ることでした.疲れたら畳の上に寝転がって,セリフだけを聴いていました.今でも,観客のたくさんいる映画館に行くと心理的な圧迫を感じ,できれば一人きりで観たいと思ってしまいます.それは.スクリーンを独り占めしたいからではなく,あの頃の習い性からだと思います.連れ合いは,この点について真逆の意見を持っていました.もちろん,彼女の考えが普通なのでしょう.「なんで観客が少ない平日に,映画を観に行こうと誘うのか,あなたの気持ちが全く理解できない!」と,よくこぼしていました.ところで,1960年から70年頃,この素晴らしい文化芸術と映画館には,「素行の悪い,陰気な,大人の世界」といった負のイメージがあったのをはっきりと記憶しています.小学校では映画館に行ってはいけないと言う先生までいました.そんなことを言われても困るというのが私の立場だったのですが,確かに,あの頃の映画館は,湿っぽく,陰鬱で,どこか後ろめたさ溢れる,大きな闇世界だったように思います.
 さて,そんな私が,『映画に学ぶフランス語』に関わることになったのには経緯があります.2009年のある日,連れ合いと連名で某出版社に,この本の計画を持ち込みました.扱うべき映画をすでにいくつか選んでいて,執筆を始める準備もできていました.川口恵子(2019年逝去)と二人で,どんなセリフに着目するかを検討し,映画の背景について考え,最後に語学的なコメントを付け加えるつもりでした.ところが,某出版社が経営難に見舞われ,出版計画はとん挫してしまいます.新たなシリーズについて,教育評論社の小山さんから説明を受けたのは,世の中がコロナ禍から立ち直ろうとしていた2022年10月のことでした.早速,すでに出版されていた『映画に学ぶ英語 台詞のある風景』(2003年)の内容をかなり修正し,同書は,新版『映画に学ぶ英語』(2023年,弊社刊)として再版されました.
 引き続いて,この『映画に学ぶフランス語』に取りかかったわけです.とはいえ,数あるフランス語の映画の中から,38作品を選定するのは容易なことではありませんでした.もちろん個人的な趣向が入ります.いろいろ考えた末に,本書の内容になりました.1930年代から8作品,40〜50年代で11作品,60〜90年代から9作品,2000年以降で10作品です.おわかりのように,年代と作品数に偏りが見られます.筆者の年齢も関係していることは明らかです.どのような選択が正しいのか分かりませんし,これで十分だとは思いません.たとえば,スイス映画やフランス語圏アフリカ映画なども選びたかったのですが,現在でもDVD,YouTube,Amazon Video,テレビ放送を通して,日本語の字幕で観ることのできる作品を中心に選ぶことになりました.その結果,ほとんどがいわゆるフランス映画になってしまいました.ただ,出来上がってみると,いろいろなジャンルの映画を入れることができ,心に残るセリフや,目に焼き付いたシーンの多くを盛り込むことができたのは幸いでした.映画作品は,編年的に並べられています.初期のトーキー映画に始まり,両親の世代が憧れを抱いて観ていた,フランス映画の良き伝統と言える作品群が次に来ます.やがて監督たちの世代交代とともに,ヌーヴェル・ヴァーグが登場します.しかし,その流行も終わり,現在に近づいてもなお,世界中で優れたフランス語の映画作りが継続されていることが分かる内容になっています.
 セリフの文字転写と不明箇所については,大阪大学大学院専任講師として活躍しているトゥール出身のバルカ・コランタンくんとベルギー出身のヤヤウイ・ファティマさんから協力を得ることができました.また,パリ第三大学名誉教授のドゥベズィウ・ジャンヌ=マリ氏が,セリフ部分の最終チェックを引き受けてくださいました.こうした援助がなかったら,本書は今のような形で出版することができなかったと思います.彼らにはこの場をお借りして感謝したいと思います.もちろんセリフやその解釈における誤りは,全て著者に帰されるべきものです.
 本書を執筆するにあたり,多数の書籍や映画パンフレット,さらに字幕翻訳家の方々のセリフ訳を参考にしました.以下に主要な参考文献リストを挙げておきます.フランス語映画という分野の層の厚さと幅の広さを感じずにはいられません.そうした方々の末席に,ちょっと居場所を見つけられるとすれば,あの2階桟敷で過ごした時間が,無駄ではなかったように思えます.
最後になりますが,絶版となったシリーズの再版を企画し,今後もいろいろな言語でシリーズの充実を計画しておられる教育評論社に感謝申し上げます.また,編集部の小山香里さんと清水恵さんには初校の段階からいろいろとお世話になりました.
 本書がどのように読まれ,どのような感想を持たれるのかは想像できません.ただ,本書を通して,映画への興味が少しでも増し,あるいは映画が好きになるようなことがあれば,私にはそれ以上の望みはありません.本書を読んだ後は,ぜひ,暗いスクリーンの前で,あるいはビデオ画面に顔を埋めて,7000秒ほどの至福の時を過ごそうではありませんか!

(本文5頁につづく)


本の目次

*収載作品を一部抜粋して掲載しています

巴里祭
アタラント号
外人部隊
大いなる幻影
望郷
現金に手を出すな
死刑台のエレベーター
大人は判ってくれない
勝手にしやがれ
アデュー・フィリピーヌ
マルチニックの少年
女はみんな生きている
8人の女たち
ある子供……

著者略歴

川口裕司(かわぐち・ゆうじ)
東京外国語大学名誉教授。東京外国語大学大学院修士課程修了。静岡大学人文学部を経て、東京外国語大学外国語学部に勤務。外国語教育学会会長、日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員などを歴任。ランス大学博士(言語科学)。著書に、La prononciation du français dans le monde : du natif à l'apprenant共著(CLÉ International、2016)、『初級トルコ語のすべて』(IBCパブリッシング、2016)、『フランコフォンの世界―コーパスが明かすフランス語の多様性』共編訳(三省堂、2019)、『デイリー日本語・トルコ語・英語辞典』監修(三省堂、2020)、『映画に学ぶ英語』共著(教育評論社、2022)、『モジュールで身につくトルコ語』共著(東京外国語大学出版会、2024)、『新装版 ゼロから話せるフランス語』(三修社、2024)などがある。

■好評既刊

・柳原孝敦著『映画に学ぶスペイン語』

▶本の購入はこちら



・川口恵子・川口裕司著『映画に学ぶ英語』

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・山口裕之著『映画に学ぶドイツ語』


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『映画に学ぶ』シリーズはまだまだ続きます!


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