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「短編小説」君が焼いた魚はいつも焦げていた

君が焼いた魚はいつも焦げていた

魚を調理するのはそれほど難しいことだろうか。

様子見をして調理すれば黒焦げにならないはずである。

魚に限らず、妻はいつもズボラだった。

洗濯物を干す時はいつもハンガーに無理やり服を突っ込むやり方だ。

また、取り入れた後の洗濯物は綺麗に畳まれていることはなかった。

畳んだ端が丸くなっていて、形を整えようと無理やり袖を中に押し込んでいるのが丸わかりである。

お風呂掃除も泡を吹きかけるだけで、擦りもせずに水に流していることを知っていた。

今では擦らずに洗えるタイプがあるが、ウチで使っているのは擦る必要があるタイプである。

その中でも一番目立ってたのが、料理である。

週一で魚料理を食べる我が家だが、毎回焦げた魚が提供されていた。

もちろん、焦げた部分は食べなければいいだけではあるが、魚を黒焦げにするならうちの妻より右に出るものはいないだろう。

昔は家事を完璧にこなしていたイメージだが、妻はいつから変わってしまったのだろうか。

ただ、ズボラな妻ではあったが、仕事をしている僕を専業主婦として支えてくれているため、感謝はしていた。

だが、いつのまにか、なあなあな関係になっていた。

その流れの中で僕は浮気をしてしまった。

家事全般を担ってくれて、尽くしてくれる妻に何一つ不満は無かったが、会社の同僚で好きな人ができたのである。

いわゆる、二股を掛けていた。

この浮気が妻にバレた時、妻は怒りを通り越して呆れているかのように見えたが、文句は何一つ言ってこなかった。

妻とは離婚したいというわがままを潔く受け入れてくれた。

振り返ってみると、妻は焼き魚が黒焦げにしてしまうほどのドジだった。

しかし、焦げた焼き魚を夫に提供することに抵抗がなかったのは、人に優しくできるからこそ自分にも甘くなれるという、妻の良さだったのかもしれない。

そう思うと黒焦になった魚が愛おしく思えてきた。


夫は仕事ばかりで家事を何一つ手伝わない。

私は専業主婦ではあるが、小学生の子供を育てながらパート勤務をしている。

夫は仕事で残業も多く、家事ができないのは理解しているため、責めるつもりはない。

ただ、土日ぐらい家事を手伝って欲しい。

そんな不満を抱えながら生活する中で、衝撃の事実を知った。

とある日の夕方、夫の仕事場周辺のスーパーで買い物をしていた時。

残業をしているはずの夫が知らない女の人と飲食店へと入っていくのが見えた。

それも二人きりである。

これは怪しい。

そう踏んだ私は、夕方、夫の仕事場付近を偵察するのが日課になった。

偵察の結果、完全に夫は浮気をしていた。

女の人と手を繋いで歩いたりイチャイチャしたりしていたのだ。

とはいえ、夫にストレートに言うのも気が引ける。

経済的には夫に頼っている部分があるため、ちょっとした浮気ごときで切り捨てがたい。

そのため、私はその日から夫に改心してもらうべく、家事を適当にやることにした。

これには意味がある。  

家事を適当にやることで、夫に「僕は何かしたか?」と思わせる作戦である。

京都人の私なりの精一杯の『お前の浮気には気づいてるぞ』アピールである。

その日から、洗濯物を適当に畳み、風呂掃除も適当にするようになった。

一番目につきやすい料理は魚を黒焦げにすることでアピールした。

このアピールを約一年続けたが、夫は疎かった。

まるで私に興味がないようである。

それに、まだあの女と付き合っているようである。

私の中で堪忍袋の緒が切れた。

夫の浮気を指摘して、離婚することにした。

そして今は子供と二人で暮らしている。

夫は黒焦げにした魚のことをどう思っているのだろうか。

ドジな妻だと思っているのだろうか?

あの夫なら都合よく解釈してるに違いない。

そう思いながら、今日の晩御飯であるアジの塩焼きを頬張った。








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