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ストーリー「豪雨の予感」

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水害被害ストーリー「豪雨の予感」の連載を始めました。実際の水害被害インタビューを通して分かってきた教訓やエピソードを織り交ぜた物語です。できるだけ実在する名称を使用して、水害被害…
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2023年6月の記事一覧

「豪雨の予感」第10話(第二寝屋川の支流と寝屋川・大川への流れ)

「豪雨の予感」第10話(第二寝屋川の支流と寝屋川・大川への流れ)

第二寝屋川は大阪府を流れる淀川水系の一級河川で、生駒山系に降った雨は八尾市で恩智川、東大阪市で玉串川と楠根川に注ぎこみ第二寝屋川に合流、大阪市城東区で長瀬川と平野川が合流する。みおの自宅はちょうど平野川と合流するあたりにあり、コンクリートで頑丈に護岸補強された20メートルほどになる両岸と川底をゆっくりと西に向かって流れる。そこから第二寝屋川は大阪環状線の下をくぐり大阪ビジネスパークの南をかすめた後

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「豪雨の予感」第9話(線状降水帯の豪雨と一抹の不安)

「豪雨の予感」第9話(線状降水帯の豪雨と一抹の不安)

悠さんの朝の天気予報では、大阪市内でも線状降水帯が発生するようなことを言っていた。

「これが線状降水帯の雨?」

みおは急に怖くなって確かめたくなった。ポケットからスマホを取り出し、天気予報アプリを開いた。アプリをタップして雨雲レーダーが10分おきに見れる画面にする。関西地方の地図が画面いっぱいに表示される。全てブルーになっている、つまり雨が降っているという意味である。さらに大阪市内は一層濃いブ

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「豪雨の予感」第8話(健斗の優しさと須磨での思い出)

「豪雨の予感」第8話(健斗の優しさと須磨での思い出)

健斗が学校に向かう時間になると大粒の雨が降り出してきた。玄関のドアの向こう側で雨が葉っぱに打ち付ける音がバラバラと聞こえてくる。

「悠さんの言ってた通りになってきた」

みおは独り言をいったつもりだったが、声になっていた。健斗が返事をしてくれた。

「そうやな、お母さんは仕事いける?こんなに降ってると会社に着くまでにびしょ濡れになるね」

健斗はいつもみおを気遣ってくれる。弟のたけしもそうだった

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「豪雨の予感」第7話(家族との別れ)

「豪雨の予感」第7話(家族との別れ)

みおの父は仰向けになって動かなくなっていた。頭の上から下半身にかけて倒れてきたタンスが覆い被さっている。父の手だけがタンスの下からでてきている。地震の瞬間に頭をかばうつもりでいたのだろうか、倒れてきたタンスを退けて逃げようとしたのだろうか。筋肉質の腕が力をなくしだらりと垂れ下がっている。

みおの母は手を伸ばしてその手に触れた、父の手には違いないがいつもとは違っていた。血の気がなく冷たくなっていた

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「豪雨の予感」第6話(瓦礫からの救助)

「豪雨の予感」第6話(瓦礫からの救助)

大きく息を吸った、外の冷たい空気が入ってくる

『わたしは外にいるの?天井が落ちてきて屋根がなくなってるから?』

みおは怖くなった、もしかして大変な状況になってるのかもしれない、急いで助けてもらわないと、、本能的に命の危険を感じた。

「ここです!だれか助けてください!」

今度は声が出た、けど返事がない。さっきの人はもうここにはいないの?膝を抱えて丸くなったまま重くて身動きがとれない。

『こ

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「豪雨の予感」第5話(阪神淡路大震災でのみおの被災経験)

「豪雨の予感」第5話(阪神淡路大震災でのみおの被災経験)

みおは阪神淡路大震災の被災者である。被災当時みおは神戸市須磨区で暮らす高校一年で、おばあちゃんと両親、弟と5人でおばあちゃんの実家で暮らしていた。須磨離宮公園から少し下ったところにあるおばあちゃんの家は木造二階建てで戦前から続く築80年以上になる家だった。2階からは須磨の海に伸びていく松並木と、その先には明石海峡をゆっくりと行き来する船をぼんやりと眺めるのが好きだった。時折汽笛が聞こえると「いつか

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「豪雨の予感」第4話(消防士・健太郎と防災イベント)

「豪雨の予感」第4話(消防士・健太郎と防災イベント)

健太郎は大阪の北消防署で勤務する傍ら、防災士の資格を活かしてオフの日は地域の防災活動にも積極的に参加していた。

防災活動は城東区の区役所を中心に行われていて、実際に災害が発生した時の避難経路、避難所での受け入れ態勢、在宅避難者への支援などを役所と住民が予め連携しておく目的に行われる。さらに市民の方々へも伝えるため年2回イベントが行われる。健太郎は普段、防災活動の運営を行なっているがシフトの関係で

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「豪雨の予感」第3話(愛子と健斗)

「豪雨の予感」第3話(愛子と健斗)

「よし、できた!、来週から期末試験やから今日は放課後自習室で勉強してくるな、晩ごはんは先にたべといていいよ、今日は晩ごはん何にするん?」

前髪をつくり、朝ごはんのだし巻き卵とごはんを食べ始めたかとおもったら、晩ごはんのメニューが気になり始めたらしい。食べ盛りの年頃だからなのか食いしん坊だからなのか食べ物のこととなると少々うるさい。これもどこかみおに似ている。

「今日はお好み焼きしようと思ってる

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「豪雨の予感」第2話(大和川氾濫と大阪中心部への影響)

「豪雨の予感」第2話(大和川氾濫と大阪中心部への影響)

「ちょうど帰宅時間だったので暗くなる前に帰れてよかったけど、大阪市内は大和川よりも11メートル低いところにあるから、もしあの時大和川が氾濫したら、一気に水が流れ込んできてたと思うとゾッとする。」

その日健太郎は夜勤のため、午後からの台風の影響で風雨が一番激しい時間帯に出勤しなければならなかった。署から12キロ程度もあるとはいえ一級河川の大和川が氾濫するとなると大阪市内が冠水するだけでなく、数百万

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「豪雨の予感」第1話(線状降水帯の発生と100mm/時を超える豪雨予報)

「豪雨の予感」第1話(線状降水帯の発生と100mm/時を超える豪雨予報)

大阪市城東区に住む長濱夫妻が内水氾濫に遭遇するまでのストーリーの連載を始めます。

「…関西地方に停滞している梅雨前線の影響で1週間前から雨の日が続いていますが、先週発生した台風5号が四国から関西方面に向かって北上してきており、湿った空気が梅雨前線に流れ込む影響で今日6月30日は昼過ぎから雨足が強まる見込みです…」

大阪市城東区の一軒家に住む長濱健太郎(ながはまけんたろう)は消防署に勤務しており

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