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「豪雨の予感」第2話(大和川氾濫と大阪中心部への影響)

「ちょうど帰宅時間だったので暗くなる前に帰れてよかったけど、大阪市内は大和川よりも11メートル低いところにあるから、もしあの時大和川が氾濫したら、一気に水が流れ込んできてたと思うとゾッとする。」

その日健太郎は夜勤のため、午後からの台風の影響で風雨が一番激しい時間帯に出勤しなければならなかった。署から12キロ程度もあるとはいえ一級河川の大和川が氾濫するとなると大阪市内が冠水するだけでなく、数百万人の人が行き交う帰宅ラッシュの時間帯に交通機関がマヒし、地下鉄は水没する危険性もあった。そうなると消防は緊急出動することになっていたため、健太郎が出勤した時にはすでに署内は緊張に包まれていた。

「幸いなことにその日は大和川は氾濫するギリギリまで水嵩が上がった後、しばらくして水位が下がってくれて冠水の危険性はなくなったんやけどな、線状降水帯が断続的に発生して台風の雨と重なったから、天気予報でも今まで経験したことのない降水量になるやろうと警鐘をならしてくれたことで大阪市民はだいぶ警戒してたんやけど、もうひと月も経たんうちに関心は薄れてしまってるもんな」

消防士の健太郎は夜勤もあり、仕事によっては帰宅時間が流動的にならざるを得ない。こうやって一緒にゆっくりと朝食をとれるのはひと月でもそんなに多くはない。だからこそ今朝は卵焼きを焼いてくれて、一緒に朝食をとりながらお天気コーナーをみながら話しができるこの時間に、みおは安心と幸せを感じていた。

「…悠さんありがとうございます。ところでいま入ってきたニュースなんですが…」

朝の番組のキャスターが速報を伝える。

「…鉄道各社から計画運休が発表されました。本日夕方以降の雨の降り方によっては山陽・東海道新幹線やJR在来線、京都線、神戸線、大阪環状線、阪和線など主要路線を含め全路線が全て運休になる可能性があります。また私鉄各線でも同様本日夕方以降の天候の変化によっては全線運休になる可能性があります。運休が帰宅ラッシュ時間に重なると主要駅では大変な混雑になる恐れがあります。天候の変化には十分に注意し、帰宅時間を早めるなど柔軟な対応をお願いします…」

速報ニュースを繰り返し伝えている。計画運休は天候などの悪化が見込まれる場合に実施されるもので、ここ数年で定着してきたが、それを読むキャスターもすでに慣れた口調で時折強弱感を交えながら視聴者の関心を惹くようにかつ流暢に読み上げている。

「もう1週間雨が降り続いてるのに、これからもっと降るってことなん?」

そこに長女の愛子が着替えと前髪のセットをすませて起きてきた。

「いつも前髪きれいにセットしていくのに、学校着いたらいつもおでこにぺったりついてて、めっちゃいややわ」

愛子は府立の大手門高校に通い今年で高校3年になる。生まれも育ちも大阪ではあるが、母のみおが16歳まで神戸育ちで“神戸弁”が混じることがある。体型はみおに似て華奢ではあるが父親譲りなのは身長がみおよりも高い。高いといっても3センチ程度だが、それが愛子の密かな自慢である。

高校には制服があるが、普段の通学服は必ずしも制服でなくていいことからみおは毎朝私服で登校している。今日のコーディネートはグレーのパンツに白のシャツ、薄いベージュの水玉模様が差し色になっている紺のトップスで愛子のお気に入りの一つである。雨でも髪は肩まで下ろして前髪が眉にかかるのが愛子の最近のお気に入りで、気分をあげて学校に向かうモーニングルーティンだ。

第三話に続く
(このストーリーはフィクションです。一部実在する名称を使用しています)

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