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「豪雨の予感」第8話(健斗の優しさと須磨での思い出)

健斗が学校に向かう時間になると大粒の雨が降り出してきた。玄関のドアの向こう側で雨が葉っぱに打ち付ける音がバラバラと聞こえてくる。

「悠さんの言ってた通りになってきた」

みおは独り言をいったつもりだったが、声になっていた。健斗が返事をしてくれた。

「そうやな、お母さんは仕事いける?こんなに降ってると会社に着くまでにびしょ濡れになるね」

健斗はいつもみおを気遣ってくれる。弟のたけしもそうだった。享年11歳、小学五年で亡くなったたけしは今健斗とちょうど同い年で、みおにとても優しくしてくれた。

「お母さん、こんだけ雨降ってるし無理せんとリモートに切り替えてな」
「健斗ありがとう、そうする。健斗も靴とズボンびしょ濡れになるやろうし学校に着いたらタオルで拭いてな」
「オッケー!じゃあ、いってきます!」

健斗が玄関を開けると、雨の音が一層激しく聞こえ始めた。雨の飛沫が玄関に入り込んできそうだ。これだけ降ってると大人は外出に二の足を踏むものだが、健斗は傘をさすやいなやあっという間に学校へ向かって走っていった。家をでて左にまっすぐ行ったところに小学校の西門がある。普段は閉められたままだが、登下校の時間帯だけは西門を開けてくれる。健斗は大雨のなかその西門をめがけて勢いよく走って行った。小学五年生の足だとここから走って3分もかからない。健斗の後ろ姿は雨の飛沫で真っ白になった風景の中にあっという間に消えていった。

小学校の向こうには大阪ビジネスパークへの並木道が続く。その並木道にはメープルの木々が立ち並び春から夏にかけての木漏れ日、秋の紅葉が西に傾く夕陽で真っ赤に照らされる。そしてその先には大阪城公園への松並木がつづいている。その風景は須磨離宮公園からつづく須磨のおばあちゃんの家から見えていた松並木を思い出させる。みおはいつもその風景を見ると当時の風景を思い出し感傷的になる。

「健斗はもう教室に入ったころかな」

健斗が家をでて5分ほどは経った気がする。まだ雨足は弱まらない。みおは朝の悠さんの天気予報をもう一度思い出した。『この雨、昨日までの梅雨のしとしと雨とは違うよね。』

第九話に続く
(このストーリーはフィクションです。一部実在する名称を使用しています)

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