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いろんな「好き」

2023年も終わろうという今、改めて言いたいことがひとつある。それは「薄いファンでも良くない?」ということ。

もちろん、いわゆる<にわか>なのに知ったかぶりして語る行為は醜い。「ごめん、それ知らない。勉強します」と言う勇気こそ清々しく、わたしもなるべくそうあれるように心がけている。
しかしそのジャンルをよく知っている人間の行為にも醜いものはある。たとえば、

・相手がそれを知らない、ということをバカにする
・相手の事情や好きのあり方を尊重しない
・相手が自分と同じ知識を持っていないからといって、相手の好みをジャッジする(年代が違うならまだしも、周囲の話を聞いていると、同世代の男性が女性に対してやらかしてる率高い!まじで何様なんですか?)

こういうのは心に余裕がなかったり弱っている人間がやってしまう行為で、わたしも過去にやったことがある。自覚ある。本当に申し訳なくて、そのとき(複数)を思い出すたびに心で謝り続けている……。たくさん観てるのはすごいことだけど、それを誇るために他人を利用する必要はないんだよね。こっそり自慢に思っておけばいい。
もちろん触れておくべき基礎教養はあるのも事実。でもただ好きなだけなんだったら、それにいつ触れるかは個人の勝手としか言えない(ただし研究者なら話は別。)

そういう分別がついてきた頃に、大怪我が病気に発展して好きに映画館へ行けなくなったり、体力的に美術館や博物館へ行けなくなった。
健康でお金の余裕が多少あった自分がどれだけ恵まれてたことか!ほんとに痛感した。
ちなみにその頃市川沙央さんが『ハンチバック』で芥川賞を受賞してスピーチが話題になったのだ。あれは絶妙なタイミングだった。

罪滅ぼしじゃないけど、罪滅ぼしみたいなことを実はいろいろしている。
たとえば、熱烈というほどではない好きなことでも楽しかったら呟いてみる、とか。たとえばクラシックは著名な作曲家や自分がピアノ教室で習った作曲家くらいしかわからないし、音楽論も全然わかんないけど、何にも知らない状態だってクラシックを聴くのは楽しい。「知らない」ことを不安に思わないのも大事だと痛感したし、むしろ楽しい。素人上等。
26歳になる直前にN響のユース割(25歳以下は超お安く鑑賞できる制度)を利用してコンサートを観に行ったのもいい思い出。

指揮者はトゥガン・ソヒエフ。


あるいは、歌舞伎なんて小さい頃に連れて行かれたきりなのにアンジェイ・ワイダの『ナスターシャ』きっかけで気になり始めた坂東玉三郎目当てに歌舞伎を観に行っちゃうのもアリ。歌舞伎を語る語彙なんて全然持ってなくて、「衣装がきれい!」「所作がやわらかくて素敵!」みたいな単純なことしか言えない。演目もそんなに知らない。掛け声が“What’s ashore?”としか聞こえなくてもめげない。
そんな感じでも、観に行った舞台でテレビよりもいきいきとした姿を見せる愛之助の力量を知れた、なんていうお土産があるとまた観に行こうかな?なんて気持ちになっちゃった。素人には素人なりの楽しみ方があるものだ。
(ちなみに玉三郎公式サイトに毎月アップされる月ごとのお言葉もけっこう楽しみにしてる。浮世離れしてたり、意外と現世に親しんでらっしゃる…!ってときもあって面白い。)

わたしにとっては、映画以外にも好きなものがある状態が心地よい。よく知らない純粋な楽しさを忘れないでいることが大事なのかも。

そんな経験をいろいろした上で思うのは、
ただひたすらその道ばかりを求めるのではなく、ちょっと寄り道するのも悪くなくない?
少し一休みしてもよくない?
いろんなものが好きでもよくない?
……ということ。
どんなひとにも、人生を優先させなければいけない大切な(もしくは大変な)時期が人生に訪れるものだ。そういうときは人生を優先させないと。

「◯◯を観てないとかやばい」みたいなことを言う人を見かけると、小学生みたいで幼稚だなと思う。(「◯曜日のあの番組見てないとかお前終わってんな〜」的なやつね!)
わたしはそんなことを言われると途端にやる気が失せる性質だし、「いくら対象に興味があってもそこにいる人たちの振る舞いは好きじゃない」というねじれで結局その場を離れたことがある。わたしに限らず、多くの人がそんな経験をしているはず。
でも、新規参入や出戻りやすいジャンルってハードルの低さもさることながら、それぞれが自分の「好き」に集中していて距離感が程よいから居心地もよいんじゃないかな。
変な意味で他人に興味を持ちすぎる人が近距離に寄り集まれば、ほぼ確実にダルいことが起きる。そうなるとジャンル自体が先細りになるから良いことなどない。
だからまずは内輪ノリからやめましょう。
わたしも来年このことを忘れずに、活動を模索していきます。

映画界隈の空気の循環が少しでもよくなりますように。いろんなひとにとって居心地のよい場所が増えていきますように。
そして政治がまともになって、みんなのお給料も十分に上がって、景気もよくなりますように!そしたら映画館にも人が戻ると思う。

↑NHKの「古楽の楽しみ」で出会って感動したアルバム。

今回はこの辺で。
ごきげんよう!

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