東良美季

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  • 一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。

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【小説】一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。#002

#002 九月になったのに  その日は土曜日で、正午を過ぎると社内にはいつものように競馬中継のファンファーレが鳴り響いていた。特に仕事は与えられていなかったので、自分の机で『編集ハンドブック』を読んでいた。するといつものようにノミ屋に電話をかけまくり、「まったく土曜日は仕事にならんなあ」などと嬉しそうに笑っていた電球頭の上司が、ふと僕の存在に気づいたといった感じで声をかけてきた。 「キミはギャンブルはやらないのか?」  やらない、と答えるとあからさまに不快そうな顔をして、「

    • 【小説】一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。#001

      #001 新宿通りはもう秋なのさ  一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。時給四二〇円のアルバイト待遇である。大学を卒業して約半年後のことだった。あの頃のことを思い出そうとすると、今でも耳元で清志郎の声が聞こえる気がする。  一九八二年と言えば、RCサクセションはシングル「サマーツアー」がヒット。メディアでは日本のロックバンドのシンボル的存在として取り上げられ、まさに快進撃を続けていた。フジテレビの音楽番組『夜のヒットスタジオ』に出演した際は、生放送で清志郎がカメラに向か

      • 【小説】一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。#000

        #000 introduction 二〇分泣いた  二〇〇九年五月二日の夜、僕は自宅アパートのある国立へと向かう中央線の中にいた。  その日は実家のある川崎市の小田急線新百合ヶ丘駅近くで、地元の友達が集まるちょっとした同窓会的な飲み会があり、その帰りだった。  時刻は十一時半を廻っていた。ゴールデンウィーク中ということもあって、車内はさほど混雑していなかった。座席はほぼ埋まっていたが、つり革に掴まっている人がチラホラという程度。少し離れたところに一〇人ほどの男女若者のグルー

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