【小説】一九八二年、僕はエロ本の出版社に入った。#002
#002 九月になったのに
その日は土曜日で、正午を過ぎると社内にはいつものように競馬中継のファンファーレが鳴り響いていた。特に仕事は与えられていなかったので、自分の机で『編集ハンドブック』を読んでいた。するといつものようにノミ屋に電話をかけまくり、「まったく土曜日は仕事にならんなあ」などと嬉しそうに笑っていた電球頭の上司が、ふと僕の存在に気づいたといった感じで声をかけてきた。
「キミはギャンブルはやらないのか?」
やらない、と答えるとあからさまに不快そうな顔をして、「