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日本三大奇書を読んでみたその三

日本三大奇書(「ドグラ・マグラ」、「虚無への供物」、「黒死館殺人事件」)の「ドグラ・マグラ」を読み終えたので、次は「虚無への供物」を読み始めた。気になる方は「日本三大奇書を読んでみたその一」「日本三大奇書を読んでみたその二」も読んでくださると嬉しい。



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「虚無への供物」あらすじ


 宝石商として巨財をなした氷沼家は曾祖父の誠太郎の北海道での行いが原因でアイヌの神に祟られており、代々、非業の死を遂げるのだという。
 氷沼家の殺人を食い止めるために目白にある氷沼の家に出入りするようになった少年、光田亜利夫と女探偵志望の奈々村久生の推理虚しく第一、第二の殺人が起こってしまう。上巻を読み終えた今現在、単なる見立て殺人だなぁという印象だが見立て殺人にしてはチグハグなところがある。

 好きなんかーい?嫌いなんかーい? どっちなんかーい。


 私が一番興味深いと思ったのは物語のキーパーソン、誠太郎である。
 なんと!!作中の誠太郎の経歴がそのままな中井英夫の祖父である中井誠太郎の経歴がくりそつなのだ。
 なので、「虚無への供物」の作中世界では誠太郎は氷沼家の祖先なのだね。と思って読んでいたのだが、上巻の最期の方で「誠太郎の氷沼家ではない方の子孫」として中井猛之進という人物が出てくる。作者の父親の名前も中井猛之進なのだ。
 ここまで読んだ皆さん、中井英夫ってお父さん、おじいちゃ大好きだったんだねと思っただろう。
 ここで『虚無への供物』のあとがきの一部を読んでほしい。なお、読みやすいように一部に改行を加えた。
 

父方の祖父の誠太郎——小説に書いたとおりの経歴で、
クラーク博士の愛弟子でありながら
一度も神を信ぜず、化学と酒ばかり偏愛し、
後年には岐阜で起った日本最初の学生ストライキの
鎮圧に成功した、その血をまたたっぷり引いた父
と流され人の母との出会いはとりわけ晩年のこどもである
わたしにとって地球とか人間社会とかを、
良く理解させる組み合わせとはいえなかった。
おれはこんなところで生まれた筈はない
どこか遠いところ、例えば他の天体からむりに
連れてこられたと幼年のわたしが固く信じて
その故郷へ戻るための呪文を昼夜唱え続けたのは
むしろ当然だったかもしれない

自分の作品の登場人物にするぐらいお父さんが好きな人の書く文章じゃないだろう。でも嫌いな人を自分の小説のキーマンの名前にする人は居ないだろう。きらいではないのだろうな…。
 親子って難しいなぁ。

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