マガジンのカバー画像

そして英雄になる

33
英雄を目指したラムとウィルの剣と魔法があるライトなファンタジー物語。
運営しているクリエイター

2023年9月の記事一覧

19話 紅蓮の勇者

 幼き日のことだ。私はただひたすらに剣の修行に打ち込み、教養を身につけ、礼儀作法を必死に学んだ。

 それは国への忠誠心でもなんでもない。
ただ父に、母に、褒めてほしかった。認めてほしかった。
ちゃんと愛されているのだと知りたかった。
 私は17の時に王の御前試合でもある皇族護衛役を選定する試合に出場した。
教養と家柄、礼儀作法は全て合格し、後は剣術の腕を皇族の方々にお見せする試合に優勝するだけだ

もっとみる

18話 銀装

 戦場の中心地にて、銀剣と拳が激しくぶつかり合う。

 銀と黄金。
両者の力は完全に拮抗しており、一進一退の攻防を繰り広げていた。
 加速していくラムとアウリクスの攻撃は激しさを増し、それによって生まれた余波が帝国兵と辺境伯兵を纏めて吹き飛ばし、2人の元に寄せ付けない。
 魔導老公は何らかの魔術を用いて戦闘の余波を無効化し、2人の闘いを観察していた。

「全くもって計画が台無しじゃ。
よもや、公国

もっとみる

17話 黄金の大英雄

 ウィルは岩山の中を走り、場所を変えながら大蟻の脚を槍の代わりにして帝国兵たちに投げていた。
投げた脚はその全てが魔導老公によって破壊されているが、それでも帝国軍隊はウィルからの攻撃を警戒せざるを得ないため進軍速度は最初よりもずっと遅くなってはいた。

「ちっ、あのジジイ……。
追いかけるのはやめて、防御に専念しようって事か?
クソ、もう領都まで近いってのに……」

 岩山から軍隊を見ていたウィル

もっとみる

16話 魔導老公

 地平線の果てまで覆うような黒い波。
魔種の群体、大蟻の軍隊がもう目の前まで進軍して来ている。
ラムとウィル、そして辺境伯軍は領都の岩山方面に簡易的な防衛線を作り、衝突の時を待っていた。

「ラム、作戦は覚えてるよな?」

ウィルが隣に立つラムに話しかけた。

「えーと、辺境伯軍はここで迎え討って防衛に徹する、ウィルはどこかにいる女王アリを潰しに突撃、僕は防衛線が崩れない様に押し負けている箇所を助

もっとみる

15話 行軍の足音

 僕が起きた時には師匠は既に王都に向かって辺境伯領を出てしまっていた。
寝付けなくて夜更かししてしまったせいで、早朝に見送ることが出来なかった僕は、悔やむ気持ちを抑えながら中庭で日課の剣の素振りをしていた。

「僕も連れて行ってくれたら良かったのに……」

 僕じゃ力不足なのかな?
そうモヤモヤした気持ちを抱えながら剣を振る僕にウィルが声をかけてきた。

「そうボヤくなよ。
今の王都は急がないとか

もっとみる

14話 続く日常

 僕はラム、辺境伯領に来てからもう2週間が経った。
王都からの連絡はまだ来ないし、国境に攻め込んでくるかもしれないと警戒していた帝国軍はまだ現れない。

そんな中、僕は師匠と剣を交えていた。
幾度と斬り結び、師に迫らんとしても最後は剣を弾かれて僕の負け。
もう何度目かも分からない敗北に膝をついて項垂れる。

「参りました……」

そんな僕に師匠は微笑んで手を貸してくれる。

「驚きましたよ、今回は

もっとみる

13話 少しの平穏

 ラムは夢の中にいた。
白亜の神殿の中で、再び銀鎧の男と向かい合っている。

「うーん、やっぱりおじさんが誰だか分からないや。
天の声の人も分からないし、この空間って何?もしかして二人は僕の中に住んでるの?
それにどうして目が覚めたら、ここでの事を忘れちゃうの?
自分の事なのに分からないことばっかりだよ。」

フルフェイスヘルメット越しにくぐもった声が帰ってくる。

「……我は『銀装』と呼ばれてい

もっとみる

12話 悪意

 月明かりを背にラムはセレーネを抱えて夜の街を走っていた。

「もうすぐ屋敷に着くよ、セレーネは心の準備できてる?」

「……うん、私は大丈夫。
それに、何が起きてもラムが守ってくれるんでしょう?」

「もちろん任せて!
って言っても屋敷にはウィルや師匠が帰ってきてるだろうから、正直何が起きても平気だよ〜」

のほほんとした顔で話すラムに対してセレーネは少し不満げだった。

「そういう事じゃないの

もっとみる