12話 悪意
月明かりを背にラムはセレーネを抱えて夜の街を走っていた。
「もうすぐ屋敷に着くよ、セレーネは心の準備できてる?」
「……うん、私は大丈夫。
それに、何が起きてもラムが守ってくれるんでしょう?」
「もちろん任せて!
って言っても屋敷にはウィルや師匠が帰ってきてるだろうから、正直何が起きても平気だよ〜」
のほほんとした顔で話すラムに対してセレーネは少し不満げだった。
「そういう事じゃないのよ……。
私は他の誰かじゃない、ラムに守ってほしいのよ?分かるかしら?」
そう言ってセレーネはラムの首に回していた両腕にギュッと力を入れた。
「えーと……?
あ!例えウィルや師匠がいても僕だってちゃんと守るよ!」
「もうよろしくてよ……」
セレーネは呆れている様だった。
ラムはよく分からなかったがあまり気にしていない。
きっとセレーネは疲れてるんだろう、早くゆっくり休めるようにしてあげるべきだ。
そんな見当違いな事を考えながら二人は屋敷に着いた。
門の前でセレーネを降ろす。
「ありがとう、ラム。」
セレーネは微笑んだ。
「ううん、気にしなくて良いよ!これくらいへっちゃらさ!」
ラムが門を開けて屋敷前の広間に足を踏み入れると、夜の暗闇の中で幾つものランタンがラムとセレーネを囲む様に点灯していく。
「な、なに?!」
ラムは驚き、セレーネは顔を硬らせた。
そして、屋敷からマーズ辺境伯が出てきた。
「随分と帰りが遅いではないか、何をしていたのだ!
心配したのだぞ?ラム君と夜遊びでもしていたのか?こちらに来なさいセレーネ。」
セレーネは後ろ手でラムの服の裾を強く握り、黙って顔を横に振った。
「……セレーネ?
私の言う事が聞けないのか?教えたはずだろう。
私の言葉には必ず最初に「はい」と返事をしなさいと。
セレーネっ!こちらに来い!」
マーズ辺境伯は更に強い語気でセレーネを呼ぶが、顔を青白くしながらもセレーネは再び強く顔を横に振って拒絶した。
「お父様、私は今日エビス様の家で人攫いの集団に攫われましたわ。
結果としてはラムに助けられて屋敷に帰ってきましたけれど、人攫いの者が不思議な事を言っていたのです。
攫うように命じたのは辺境伯だ、と。
まさかそのような事ございませんよね?辺境伯様?」
ラムが裾を握るセレーネの手を支えた。
ただそれだけでセレーネは今なら何だって言えると思った、心の内にいた怯え竦む自分が消えていた。
「……はぁ〜、何を馬鹿なことを……。
なんと愚かな娘なのだ、そんなわけが無いだろう!
人攫い共の言葉を易々と信じおって!
お前は一体今まで何を学んできたというのだ、全く躾が足らんようだな!フン!」
「ではこの兵士達はなんですの?」
ランタンを持った兵士達が周囲を囲んでいる。
兵士の数は30前後で、皆、槍や剣、中にはクロスボウを構えているものもいる。
娘を迎えるにしてはあまりにも物騒だった。
「決まっているだろう、お前が帰ってこないから何かあったのではないかと兵士達を招集して捜索に出そうと思っていたのだ。」
ラムは兵士たちを観察していた。
この兵士達は各々の武具を身につけ慣れていない。
それだけではなく、どれにも使い古したような小さな傷がなく、真新しい装備だと気づいた。
「皆んなは辺境伯軍の武具を身につけてるけど、身に付け慣れてないよね?使った事ないの?
ねえ、そこの剣士のお兄さん?籠手つけた事ないの?左右逆だよ?」
ラムに指を向けられた男は慌てて自分の籠手を見直してから首を傾げた、左右が逆な訳がない。
「……嘘だよ、自分が使い続けてきた武具ならそんなに慌てて確認しないよね、だって今まで毎日何千回と着け続けてきたものだもん、言われたからって、間違えるわけないんだから自分の武装を疑ったりしないよ普通は。
皆んな辺境伯軍の兵士じゃないよね、一目見ただけで分かる。
マーズ辺境伯様、この人たちは誰ですか?」
マーズ辺境伯は表情を取り繕っているがそれでも苛立ちを隠せず、兵士を怒鳴りつけた。
「貴様は何をしているのだ!!この間抜けが!
はぁ〜………もうよい!
聞け、兵士たちよ。
この少年は私の娘を誑かし、エビス殿の家から娘を攫った無法者である。
……と言うことにしようではないか?
セレーネには傷を付けるなよ、少年は殺して構わん、やれ。」
ニヤリと笑った辺境伯の声を合図に兵士達がジリジリと距離を縮めだす。
ラムは油断なく剣を構えた。
「本当に、あの傭兵に依頼したのは辺境伯様だったんだね。
……セレーネ、少し待っていて。すぐ片付けるから」
セレーネはラムから手を離した。
「ええ、頑張って……私の英雄。」
ラムは兵士に向かって駆け出す。
左手には鞘を、右手には抜き身の剣を持って。
突っ込んでくるラムに兵士が剣を振るうが、ラムはその剣と打ち合わずに翻して兵士の喉元に鞘を叩きつける。
背後から別の兵士の槍が突き出されるが掬い上げる様に剣で打ち上げ、返す鞘で兵士の膝を叩き割る。
くるくると、ラムは兵士たちの中で回り続ける。
それはまるで独楽の如く、リズミカルにステップを踏む様は踊りのようで。
流水の如く、突風の如く、誰にも止められぬ剣戟。
ラムは対人経験を得ることによってレイディアン家の剣の術理を急速に体現しつつあった。
焦ったマーズ辺境伯が怒鳴り声をあげる。
「これがレイディアン家の剣術か……!!
このガキが死ねば誰にも知られることはないのだ!構わん、魔法を使え!」
兵士達が次々と手首や膝を負傷し、鞘で叩き飛ばされて宙に打ち上げられる。
そんな中で何人かの兵士が籠手を外した。
その手の甲には禍々しく、幾何学的な紋様が彫られていて、
『大地よ!難敵を捕らえよ!』
兵士が手をラムに向けて叫ぶ。
整備された石床の下から土が湧き上がり巨大な手になってラムに襲い掛かる。
「なにそれ!?」
ラムは驚きながらも土の手を避けるが魔法は続く。
『大地よ!沼となって難敵の足を取れ!』
突然ラムの足元だけが泥沼に変わり、泥は生きている蛇のようにラムの両足に纏わりつく。
また別の兵士達が手のひらを向ける。
『炎よ!火球となって難敵を燃やせ!』
『雷よ!難敵を撃ち貫け!』
『大地よ!岩となって難敵を潰せ!』
幾つもの魔法が泥に足を掴まれ動けないラムに殺到する。
ラムは無我夢中で飛んでくる火球を斬ったが、飛び散る炎がラムの肌を焼く。
巨大な岩の拳が現れ、ラムがそれに気を取られた一瞬の隙を縫うように雷光がラムの左腕に直撃する。
全身が痺れて上手く動かせず、ラムは無抵抗に巨大な岩の拳に殴り飛ばされて屋敷の門に叩きつけられた。
「ごほっ、げほっ、これが魔法……?」
ラムは朦朧とした意識の中で立ちあがろうと試みるも身体は言う事を聞いてくれない。
『炎よ!あ、ちょ、ちょっと!」
兵士が更に魔法で追い打ちをかけようとしたが、いつの間にかラムに走り寄ったセレーネが倒れ伏すラムの身体に覆いかぶさり魔法から庇おうとしていた。
「もうやめて!お願い!」
必死にラムを掻き抱くセレーネを兵士達が慌てて羽交締めにして引き離す。
「触らないでっ!離してよっ!ラム!目を覚まして!ラム!ああ、私のせいで!そんなの嫌!」
兵士が再度、手のひらをラムに向ける。
『炎よ!火球となって難敵を燃やせ!』
セレーネの悲痛な叫びも虚しく、魔法で造られた火球がラムに向かって飛んでいく。
そして、
────────時が止まった。
世界が濃霧に包まれる。
全ての建物が、飛んでくる火球が、囲んでいた兵士が、泣き叫んでラムに手を伸ばすセレーネが、全てが白い霧となって消えた。
そんな濃霧だけの世界で声が響き渡った。
それは父のような力強い頼もしさを感じさせ、母のような包み込むような優しさを滲ませる声だった。
『このままでは貴方は死んでしまうでしょう、守りたいものも守れずに。英雄になれずに。
良いのですか?』
「良くないよ……僕はセレーネを守るって約束したんだ。英雄にだってなりたいよ……」
『では力を求めなさい。祈るのです。
何を捧げても守りたいと願うのです。
さすれば貴方はセレーネを守れるでしょう。
兵士たちを物ともしない力を手にできるでしょう。
さあ新しい貴方を祝福します、迷うことはないのですよラム。』
「僕は…
『待て、少年。』
「あ、銀鎧のおじさん……?
誰もいない声だけが響く濃霧の世界に突然、銀鎧の男が現れた。
『少年は、何者かも分からぬ存在から力を貰うのか?
拾ったような力でセレーネを守るのか?
親友の隣に……英雄として立つのか?
例え今から与えられた力で、兵士達を皆殺しにして、辺境伯の首を捻り千切ったとして……
己の力で苦難を超えられなかった事実は変わらず、一度強大な力を手にしてしまえば二度と克服できない心の弱さを抱え続けるだろう。
そんなものは祝福ではない、呪いだ。』
銀の鎧の男の言葉を遮るかのように再び天の声が脳内に直接語りかけてくる。
『ラム、力を望むのです。
貴方は強くなれるのですよ?
強い力を持つウィルやオルカの隣に、本当に自分が並べる日が来るのか悩んでいるのでしょう?
いつになっても縮まらない距離に、見えない背中に、焦りを覚えているのでしょう?
大丈夫、己の力だけに拘る必要はありません、かのアウリクスも祝福を得て英雄となったのです。』
「僕は……英雄になりたい。
でも僕にとってどうやって英雄になるかは重要じゃなくて、最後はウィルに「ラムは最高の英雄だぜ」って言われたいんだ。
師匠は焦らなくて良いって言って僕に剣術を教えてくれた……。
そっか、今違う力を貰ったら今まで頑張って積み上げてきた剣術が意味なくなっちゃうよね。
それは師匠に申し訳ないかもね……。
うん、僕は自分の力で戦うよ。
まだ終わった訳じゃないから、だから、えーと、銀のおじさんと天の声さん!結局色々よく分かんないけど、ありがとう!僕はもう少し頑張ってみるよ!」
『そうですか………。
本当にどうしようもなくなって、貴方の行く道が暗闇に覆われてしまった時は天に祈りなさい、いつでも貴方は私の信徒になれるのですからね。』
『戦え少年、己の力を、剣の術理を信じよ。そして強く在れ。』
霧が晴れていく、世界が元に戻る。
目の前に火球が迫ってきている。
セレーネの声が聞こえる。
そして……ウィルの声も。
ラムは機敏な動きで起き上がって迫る火球を真っ二つに斬った。
散る火が前髪を少しだけ焦がしたがラムの目にはセレーネだけが映っている。
セレーネには突然炎が二つに割れ、火の粉の中からラムが飛び出してきたように見えただろう。
兵士達が慌てて魔法を唱える。
『『『大地よ!泥となって難敵を捕らえよ!』』』
辺境伯家の敷地の地面が全て泥沼となったかのような大量の泥がラムに襲い掛かる。
それでもラムはセレーネだけを見て迷わずに走る。
走りだすラムの少し手前に、男が空から降ってきた。
それは降ってきた勢いそのままに力強く大地を踏み抜き、捲れ上がった大地が、巻き起こる暴風が、魔法の泥沼を消し、兵士たちを纏めて吹き飛ばした。
「よく分かんねえけど助けるならちゃんと助けろよ!ラム!」
「ああ!分かってるよ!セレーネー!!僕の手を掴んで!」
捲れ上がる大地も、吹き荒れる暴風も、宙に浮き上がった兵士たちも、何もかも無視して真っ直ぐ駆けつけたラムはお姫様を抱えた。
「心配しましたのよ!もう死んでしまうかもって!」
涙ながらにセレーネはラムを抱きしめた。
ラムはセレーネを抱えたまま辺境伯の敷地から飛び出る。
「ごめんよ、僕ってば油断しちゃって簡単にやられちゃった!
でも魔法なんて初めて見たんだよ!?あんなの初見殺し?ってやつだよ!危なかった〜!」
ラムは自分の怪我など気にせずにカラカラと笑いながら言った。
そんな気楽な顔をしたラムにセレーネは心配そうに声を上げる。
「何を呑気なこと言ってますの!?兵士はまだまだ居ますのよ!」
「もう大丈夫だよ、言ったでしょ?
──────二人が居るから何が起きても平気だよ。
あ!もちろん僕もセレーネを守るよ!今こうしてるようにね。」
ひらひらと、ラムとセレーネの視界に火の粉が散っていた。
どこからともなく、祈るような詩が聞こえてくる。
辺境伯家とその敷地を囲うように炎の渦が生まれ、誰一人としてこれから起こる神罰からは逃げられないのだと言わんばかりに渦は火の粉を撒き散らしていた。
辺境伯と兵士たちの目の前には二人の男女が立っていた。
槍を持った背の高い男と、紅蓮に燃え盛る剣を握る女。
「よォ、てめえら覚悟できてんだよなァ〜?
俺はブチギレそうだぜ、今日は何回俺を怒らせようってんだよ、あァ?
同じ人間だからって手加減できねえぞ、良いよなオルカ!」
「どうぞお構いなく暴れてください。
私は貴方の十倍キレてますから。」
オルカが剣を掲げると吹き荒れる炎が紅蓮の剣に収束し、炎を纏った巨大な剣はそのまま辺境伯の豪華絢爛な屋敷を真っ二つに叩き割った。
屋敷だった残骸が燃え上がり、マーズ辺境伯が腰を抜かして尻餅をつく。
「ば、馬鹿な!坑道のゾンビはどうした!?なぜ生きて帰ってこれた!?」
オルカが眉を顰めた。
「おや?つまり辺境伯殿はあのアンデットの事も知っていたのですね?レッドメタルの事も。
一体何を考えておられるのか、お聞きしたいのですがよろしいですよね?」
ウィルは槍の一振りで暴風を吹かせて兵士たちを叩き飛ばしながら、マーズ辺境伯に近寄ってその顔をむんずと掴んだ。
「なあ、あんたに会った時からずっと気になってたんだ。
ソレ、何被ってんだ?」
「え?」
辺境伯の顔が、その皮膚がずるりと剥ける。
顔だけではない、髪も頭皮も丸ごとひん剥かれ、残虐な死体が出来上がってしまったとオルカは思ったが、その後の辺境伯の姿を見て驚いた。
剥かれた顔の下には更に顔があったのだ。
「ショCKうぇve!!!!」
辺境伯だと思われていた男がノイズ混じりの声を上げるとその身体から衝撃波が放たれて、ウィルはその場から弾かれた。
オルカはウィルに向かって咄嗟に叫んだ。
「その男はマーズ辺境伯ではない!異国の魔術師です!」
「イグNITEスタb!!」
魔術師が両手をウィルに向かって突き出しノイズ混じりの声でまた叫ぶ。
両手を合わせた隙間から赤黒い閃光が高速で放たれた。
ウィルは拳で飛んできた閃光を殴り弾いて魔術師に迫る。
槍を魔術師の腹に突き刺し壁に縫い付けて、両腕を半ばから蹴り潰した。
「危ねえな、今のって魔法か?」
ウィルは傷ひとつなく、油断なく魔術師を睨んでいる。
ウィルに駆け寄ったオルカが注意を呼びかけた。
「魔術師は得体が知れません、何をするか分かりませんから決して目を離さないでくださいね。
さて、それではどういうことか話してもらいましょう。
貴様は誰だ、どこの国の魔術師だ!どんな手段で辺境伯に成り代わっていた!いつからだ!!答えろ賊が!」
壁に縫い付けられている魔術師の首を掴んでオルカが尋問する。
魔術師は血を吐きながらヘラヘラと笑って答えた。
「そんなに急かさなくても答え合わせをしてやるよ、俺は隣の帝国の魔術師だ。
10年前に辺境伯家で火事が起きた時に、辺境伯の心臓を潰し、その夫人を火事に見せかけて焼いて殺した。
帝国にはとある秘術がある、『人皮被りの術』ってやつがな。
やる事は簡単!元々の辺境伯の内蔵と脳みそを全部引っこ抜いてその皮を被って呪文を唱えるだけ!
あらま不思議!俺はその日から辺境伯って訳!」
ウィルはあまりの残虐な所業に絶句し、オルカは目に見えて狼狽えた。
「あ、あり得ない、そんな術があるなど!私は聞いた事がない!そんなもの禁術の領域ではないか!そんな簡単に他人に成り代われる訳が、あってたまるか!!」
「これがあるんだよなあ、うちの帝国には三大賢者とまで呼ばれた『魔導老公』様がいるからなあ!なんでもできるんだよ!木端な兵士が簡単に難しい魔法を使えるようにもできるし、禁術だってお手の物!」
セレーネとラムの二人が少し離れた位置でその会話を聞いていた。
セレーネが思わずと言ったふうに呟く。
「う、嘘ですわ、お父様は……お父様ではない?」
魔術師は目を輝かせてその呟きに答えた。
「イヒヒ、楽しかったぜえ?殺した父親を演じるのはさあ!イヒヒひひ!ぐぇぁ!」
オルカが魔術師の首を押さえつけながら問う。
「この10年、貴様は何をしていたんだ。
何が目的なんだ。」
魔術師は更に目を輝かせ、血反吐を吐きながら笑って答えた。
「目的?
戦 争 だ よ !!
たまらねーなあ!もうすぐ帝国がこの大陸を統一する日がくるんだ!今頃王都は凄い事になってるぞ?大公家に秘密裏に流したレッドメタルには細工がしてあって、ゾンビが大量に湧き出すんだ!
王都は地獄と化すだろうし、国境を監視する辺境伯家はこの通り俺が牛耳ってたんだから機能してないのさ!
今頃はもう国境に帝国軍が来てるぜ?
この国境を守る辺境伯領が簡単に攻め落とされれば公国はもうお終い!
遅いぜ、遅すぎたんだよ!」
魔術師の言葉を聞いたオルカはあまりに突然の情報をなんとか咀嚼しながら考え込んだ。
ウィルはよく分からなかったが分からないなりに考えて答えを出した。
「つまりあれだな、進軍してきた帝国軍を全員俺がぶっ倒してウィル英雄譚が爆誕って訳だろ?なんだ簡単じゃねーか。」
師匠の難しい顔を見て、釣られて神妙な顔をしていたラムは吹き出した。
「あはは!そうだね、じゃあ倒せば良いんだよ!僕たちは英雄になるんだから、確かに好都合だね!」
ラムとウィルが笑い合う光景を見てセレーネも可笑しくなってクスクスと笑い出した。
オルカはため息をついて頭を抱えた。
この子達は一体何を言い出すんだ、頭が痛いぞ、と。
「……は?なんだよ、もっと絶望しろよ!
ふざけやがって!そもそもお前はなんだ?ウィルとかいうクソガキが!
紅蓮の勇者は調べがついてるってのに、公国にこんな槍戦士が居るなんて聞いたことがない!魔法を素手で弾く?バケモンが!!どうせ坑道のアンデットもお前が倒したんだろ!?計画が台無しだ!!」
唾を吐き散らしながら喚く魔術師を見て、ウィルはフッと鼻で笑った。
「ああそうだぜ、次世代の英雄様だぞ?
悪役になれたことを光栄に思えよ〜?」
血が抜けすぎて青白くなった魔術師の顔が真っ赤に染まる。
「ク、クソガキが、未知数なお前だけは殺してやる!
『ジbaく』!」
突如魔術師の体が赤熱し膨張する。
咄嗟にラムはセレーネを抱えてその場を離れる。
オルカは剣を振りかぶるが、それが振り下ろされるよりも速くウィルが魔術師の腹に突き刺さったままだった槍を掴んで天に向かって振り抜いた。
そして夜空に真っ赤な花火が咲いた。
「なあオルカ、これからどうすれば良いんだ?そもそも本当に帝国軍ってのは来るのか?妄言じゃねーの?」
「ハァ……色々な事が起きすぎてて……整理したい事が多すぎますね。
とりあえずは焦って動いても仕方ないので………
皆んなで晩ご飯を食べて寝ましょう。
ええ、それが良いはずです。」
色々疲れたオルカはニッコリと笑って明日の自分に丸投げした。
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