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連載小説:芸能人の僕が干されたから、フリーランスになりました⑪

「この度は中島敦は芸能界を引退することを決めました。
 理由といたしましては、長年の役者としての活動に区切りをつけて
 新たにやりたいことを見つかりましたので、引退いたします。」
記者会見をこんなに早く2回目をやるかと思っていなかった。
幸い俺がかざみと付き合っていることは公になることはなかった。
しかし、役者をやりたいと思ったタイミングでやれなくなってしまうとは
なんとも不運な人生だ。

記者からの質問で、芸能界への心残りはないかと言われた。
「はい。一切ないです。私は仕事において常に全力で取り組んでまいりました。自分の弱さで周りの関係者の方に、迷惑をおかけいたしましたが、ありがたいことに支えていただたいた結果、今までやれました。ありがとうございます。」
心にも思っていない言葉を絞り出すのは、ここまでしんどいのか。そう痛感した。

「まつもと社長はどのようにお考えでしょうか」
「はい、私も前事務所から共にやってきた戦友でありますので、いなくなってしまうのはとてもさみしいです。しかし、中島が決めたことでもありますので応援をしたいと思います。」
泣きながらかざみが隣で話していた。自分が古川に話したから辞めていることを知っているのにも関わらず泣いている。本当に怖いことだ。僕はここのタイミングで思った。

「人間と関わらないように生きよう。人は信じないようにしよう。」

記者会見が終わり、事務所へ手続きがあるのでかざみと同じ車で向かった。
「かざみ。どうして?」
「何が」
「俺との関係を古川に言ったんだ」
「結婚を申し込んできて、あなたは私を所有しようとしたからだわ」
「君も結婚の話をしたときは喜んでいたじゃないか」
「ふ、、無理よ。古川がいるもの。」
「じゃあ、もし古川より俺のほうが先に出会っていたら結婚してくれた?」
「昔のあなただったら、結婚していたけど今はないわ。」
「そっか。ありがとう。」
「今までお疲れさま。」
「大好きでした。」
「私もよ。」
その日僕は事務所を辞めて、一般人になった。

半年間は何もやる気が起きなかった。毎日家でゲームをしたり本を読み、夜は酒を飲みなんとも言えない気持ちになり泣くこともあった。
映画などは見てしまうとまた役者として生きたいという思いが復活してしまうのが怖く、見ることができなかった。
俺は友人などが全くいないので遊ぶ相手がいない。
本当に1人で無気力状態になってきた。

半年がたったある日ある本と出会う。
古川が書いた本である。「勝ちたいなら個人で生きろ」という本だ。
読むことにおいて抵抗はあったが、ビジネスマンとしては確実に成功している人間ではあるので読もうと思った。
その本では個人で生きていくことが、今後の社会において重要ということを書いている本だ。そこにそんな言葉があった。

「フリーランス」

ここで初めてフリーランスという言葉を聞いた。
芸能界を干された僕からすると、今後会社員として生きていく勇気はなかった。なので、会社に所属しないで仕事を個人としてやっていくフリーランスは魅力的にうつった。
また、俺は人間不信になっていたので、極力多くの人と関わらずビジネスマンとして卓越していると書いてあるフリーランスに恋い焦がれた。
古川は今後個人として生きていくことが、最もビジネスマンとして卓越した人間になると書いてあった。
その時決めた俺は決めた。フリーランスとして生きていくと。

語り手
干されちゃいましたね。
新たにやりたいことを見つけられてよかったです。
芸能生活お疲れさまです


芸能人編終了


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