見出し画像

オランダアートひとり旅#04.ファン・ゴッホ美術館②~常設展でゴッホの想いを辿る~

 企画展を終えた後は、常設展に向かいました。

 静かな空間で比較的ゆっくりと鑑賞できた企画展とは異なり、常設展には解説ツアーが何組もいたりして活気があり、込み合っていました。入館時に「本日のチケットは完売しました」との表示があったのですが、納得です。

ゴッホ・コレクション

 ファン・ゴッホ美術館には、ゴッホの油彩画約200点と500点以上の素描、そしてほぼすべての書簡が所蔵されています。ゴッホ・コレクションとしては世界最大で、代表的な作品も多数所有しています。

◆《じゃがいもを食べる人々》

 この作品はオランダ・ニューネン時代に描いた初期の頃の作品で、ゴッホが制作した唯一の集団肖像画だそうです。サイズは 82 cm x 114 cm で、迫力がありました。

《じゃがいもを食べる人々》1885年

 ゴッホといえばカラフルな色彩が特徴ですが、本作の色調はとても暗く、鮮やかさとは程遠いです。陽は沈み、天井から吊るされるランプの灯りだけで食事をする貧しい労働者階級の5人家族。薄暗さに加えて登場人物が土色で表現されているのは、苛酷な農民生活を表現するためだとか。弟・テオに向けた書簡によると、「じゃがいもを食べるこれらの手は、大地を耕した手である」と伝わるよう努めたそうです。

 このように労働者への尊敬と賛美が込められ、ゴッホ自身もその出来栄えに非常に満足した作品でしたが、当時は大変酷評されたそうです。現代ではゴッホを代表する傑作のひとつに数えられる《じゃがいもを食べる人々》。評価って分からないものですね・・・。

◆自画像

 ゴッホといえば自画像を思い浮かべる方も多いでしょう。ゴッホの自画像は自身の姿を伝えるためでなく、色彩、筆使い、そして表情の表現練習のためだったとされています。

《パイプと麦藁帽子の自画像》1887年
《フェルト帽をかぶった自画像》1887年
《画家としての自画像》1887年‐1888年

◆《黄色い家(通り)》

 深い青色と鮮やかな黄色のコントラストが美しい《黄色い家(通り)》。ゴッホが「画家の共同体」を目指して移り住んだ南仏アルルの家です。

 ゴッホはここに画家仲間を呼び、切磋琢磨しながら芸術作品を創り出す拠点にしたいと考えていました。しかし、実際に来たのはポール・ゴーギャンだけ。彼も進んで来たわけではなく、経済的に困窮していたところにテオから「支援する」との申し出があり、渋々やって来たのです。結局、ふたりはうまくいかず、ゴーギャンはたった2か月で去ることになります。

《黄色い家》1888年

◆《ひまわり》

 南仏アルル時代の1888年~1889年に、花瓶に入ったひまわりの絵を描きます。現在知られているのは7点。うち現存しているのは6点です。黄色い家を飾るために描いたひまわりの絵はゴッホにとっても特別で、「感謝」を表しているそうです。

 ファン・ゴッホ美術館に所蔵されている《ひまわり》は 95 cm x 73 cm で、実際に見ると想像以上の迫力がありました。そしてとにかく色が綺麗! これほどまでに多様で、ダイナミックで、調和の取れた黄色があるのかと、圧倒されました。

《ひまわり》1889年

 さて画家仲間を迎えるために描いたひまわりでしたが、この作品は、あの耳切り事件が起きてゴーギャンがアルルを去った後の1889年1月に描かれたと言われています。

 ゴッホは、一体どのような想いでこの絵を描いたのでしょうか。

 夢見た仲間との共同生活はうまくいかず、ようやく来てくれたゴーギャンとは仲違い。耳切り事件後はやむを得ず入院し、退院後に黄色い家に戻って独り描いたのがこの《ひまわり》です。いつかまたこの家に仲間が集まることを期待していたのでしょうか。それともまったく別の想いがあったのか。いづれにしても、考えるだけで切なくなります。

◆《ゴーギャンの肘掛け椅子》

 この作品では椅子をモチーフにして、ゴーギャンの「肖像画」を描いたと考えられています。主人は不在。代わりに置かれているのは蝋燭と小説本。これらはゴーギャンの性格を表しているそうです。

 この対の作品として《ファン・ゴッホの椅子》があります。ゴーギャンの椅子よりもシンプル(安っぽく?)で、肘掛けはありません。

《ゴーギャンの肘掛け椅子》1888年

◆《寝室》

 アルルの家の寝室を描いた作品で、左のドアはゴーギャンの部屋に通じていたそうです。本作品はゴーギャンが来る前の1888年10月に描かれ、他にも同じタイトルのバージョン違いが2点存在します。

《寝室》1888年

◆ゴッホに影響を与えた日本画

 浮世絵がゴッホに大きな影響を与えたことは有名ですが、実際にゴッホが日本画をコピーした作品を観ることができます。

(左から)歌川広重《名所江戸百景・廓中東雲》1857年
フィンセント・ファン・ゴッホ《Flowering Plum Orchard (after Hiroshige)》1887年
フィンセント・ファン・ゴッホ《Bridge in the Rain (after Hiroshige)》1887年

◇◇◇

ゴッホ以外の作品

 ファン・ゴッホ美術館には、ゴッホと同時代を過ごした画家たちの作品も展示されています。その多くは画商だったテオが蒐集しました。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《Young Woman at a Table》1887年

個人的にはその作風も、人間性も(会ったことないけど)、人生も大好きなロートレック。
訪問時は企画展で展示されていました。
クロード・モネ《Tulip Fields near The Hague》1886年
エドガー・ドガ《The Tub》design c. 1889, cast after 1919

こ、これは!!! オレたちのドガが作ったキモイや~つ!
美術館で最も興奮した瞬間です。
エドガー・ドガ《Woman Bathing》1887年
ポール・ゴーギャン《ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ》1888年
エミール・ベルナール《Boy Sitting in the Grass》1886年
カミーユ・ピサロ《Vase with Peonies and Mock Orange》1872年‐1877年
アドルフ・モンティセリ《Vase with Flowers》1875年

◇◇◇

一番好きだった絵

フィンセント・ファン・ゴッホ《1足の靴(古靴)》1886年

 今回、個人的に最も惹かれたゴッホ作品がこちらです。

 《ひまわり》も《黄色い家》も《画家としての自画像》も素敵でしたが、《1足の靴(古靴)》には見た瞬間に心を鷲掴みされました。これだけで、主人の生活と想い、物語、社会的背景までもが伝わってくるようです。

◇◇◇◇◇

 やはりファン・ゴッホ美術館は見応えのある作品ばかりで、企画展と合わせて3時間ほど滞在しましたが、最後は時間が足りず、少し駆け足になりました。

 それでも、大満足。

 有料ですが、マルチメディアガイドはおすすめです。名画をより楽しむことができました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?