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韓国語#10.タットリタン論争~トリはどこから来たのでしょう~

 タットリタン(닭도라탕)という韓国料理をご存じでしょうか。

 ぶつ切りにした鶏肉を、おろしにんにく、粉唐辛子、醤油、砂糖などで作った甘辛いタレで煮込んだ料理です。鶏肉以外にも、ジャガイモや玉ねぎが入っています。ちなみに写真のタットリタンにはニラがのっています。

 ご飯と一緒に食べても美味しいですが、酒の肴としてもおすすめです。

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 タットリタンは「私の好きな韓国料理」「普段よく食べる韓国料理」「家でよく作る韓国料理」のどれを取ってもトップ5には入ります。個人的にはそれくらいおすすめしたい料理です。

 スープの色が赤いので辛く思われがちですが、見た目ほどは辛くありません。ピリ辛程度です。韓国料理では粉唐辛子(고춧가루)をよく使いますが、種類がいくつもあり、色付け用から辛み用など用途によって使い分けます。真っ赤な見た目ほど辛くない理由はここにあります。

 ただし、お店で食べる際には注意が必要です。辛さはお店によって異なるため、注文するときには辛さを聞いた方が良いでしょう。また、辛いのが苦手な方は辛くしないようにお願いすることもできます(韓国のお店では辛さの調整をしてくれます)。

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 ただ、本場の辛さに挑戦したい、または、辛さを控えてもらったけれど思った以上に辛かったという場合は、ケランチム(계란찜)という茶碗蒸しに似た卵料理と一緒に食べるのをおすすめします。辛さが和らぎます。


タットリタン(닭도라탕)論争

 さてさてそんなタットリタンですが、この名前の由来に関してはちょっとした論争があります。

 タットリタン(닭도라탕)は  닭(タッ)+도라(トリ)+탕(タン)という三つの単語から成っています。

닭(タッ/タク):鶏
탕(タン):鍋料理(漢字で書くと「湯」になる)

  닭 は「鶏」、탕 は「鍋料理」という意味なので、鶏の鍋料理だということは分かると思います。

 それでは、真ん中の 도리(トリ)は何という意味なのでしょうか。


1.日本語のトリ説

 このトリは日本語のトリ、つまり「鳥/鶏」から来ているという説があります。

 この話は韓国に来てまだ日が浅い頃に韓国の友人に教えてもらいました。この説はかなり広く知られていて、その後も同じ話を何度も聞かされました。私が日本人ということもあり、余計に言いたかったんでしょうね(笑)そんなこともあり、私も最近まではこの説を信じていました。


 このタットリタンですが、他の名前で呼ばれることもあります。それは、タッボックㇺタン(닭볶음탕)です。

볶음(ボックㇺ):炒めること(基本形は 볶다)

 도리 が「炒める」という意味の 볶음に替わっています。

 国立国語院が編纂した標準国語大辞典ではタットリタンのトリが日本語から来ているとしてタットリタンを非標準語、タッボックㇺタンを標準語として規定しています標準国語大辞典)。

 そんなこともあり、タットリタンよりも標準語であるタッボックㇺタンという名称を使用するお店が年々増えているように思います。

 しかし、個人的には「このタッボックㇺタンという名称は変だよなあ」と思っています。なぜなら、タットリタンは炒めないで作ることが多いからです。最初に軽く痛めてから煮込むというレシピもあるにはありますが、あまり一般的ではありません。

 それでも、韓国語の専門家の意見としては、この料理は「炒める」と「湯がく」の両方の性格を含んでいるため、タッボックㇺタン(닭볶음탕)という名称で問題ない(Naver 国語辞書より)そうです。


2.韓国語の調理名説

 その一方で、タットリタンのトリは日本語から来ているという説は間違っていると主張する人もいます。小説家の李外秀(이외수)もそのうちのひとりです。

 タットリタンのトリは韓国語で「えぐる、くり抜く」という意味の 도리다(トリダ)から来ており、特に昔は調理する際に「内臓を取り出してぶつ切りにする」ことを 도리작업(トリ作業)と呼んでいたそうです([Why] 이외수發 '닭도리탕 vs 닭볶음탕' 표준어 논쟁)。

 つまり、タットリタンという言葉はこのように理解できるのです。

”닭을 도려 만든 탕”
”鶏の内臓を取り除き適当な大きさに切って作った鍋”

 にゃるほど。これは納得です。

 実際、トリ(도리)という単語は調理法を表しているため、タットリタン以外の料理名にも使われているそうです。たとえば、トリベンベンイ(도리뱅뱅이)という小さい川魚を使った料理なんかがそうです。

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 でも不思議なことに、このトリベンベンイのトリが日本語から来ていると主張する人はいません。まあ、鶏肉を使ってないですからね、当たり前か。

 そうだとしても、なぜタットリタンのトリにだけこのような論争があるのでしょうか。

 その理由としては、今回参考にした記事曰く、2000年代に入りタットリタンが日本でも流行ったことで、この言葉を植民地時代の残滓と捉えるようになったと主張する人がいるそうです。そう考えると、なぜタットリタンだけが議論にあげられているのか理解できますよね。


 閑話休題。

 タットリタンのトリは韓国語から来ているという見解に対し、国立国語院は反論しています。

 たとえば、韓国語の도리다(トリダ)から来ているとすれば、도리 だけを 도리 という形で使うのはおかしいという主張です。これは韓国語を勉強した人であればすぐに分かると思います。私もこの反論には納得です。

 よって、今でも国立国語院は以下の立場を崩してはいません。

'닭도리탕'의 순화어는 '닭볶음탕'입니다.
「タットリタン」の純化語(純粋な韓国語)は「タッボックㇺタン」です。
Naver 国語辞典


◆◆◆


 個人的にはタットリタンという名称を応援したいですが、このまま引き続き、タッボックㇺタンの方が広く使われていきそうですね。

 言葉というのは移り変わるものなので仕方のないことですが、それでも、もしこれが本当に韓国語の 도리다(トリダ)から来ているのであれば、できるだけ残してほしいなと思ってしまいます。


 ではでは😊



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