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書籍#06.『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』中野京子(著)〜西洋画と歴史のおもしろさにはまった本〜

 数年前から急に西洋画にはまりました。

 今回はそのきっかけになった中野京子さんの書籍である『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』をご紹介したいと思います。


「『怖い絵』で人間を読む」

 中野京子さんを初めて知ったのは、NHK BSの「『怖い絵』で人間を読む」という番組でした。名画を「怖い」という視点から「読む」ことで新しい見方が生まれるという内容で、中野さんの著書である「怖い絵」をもとにして作られた特番だそうです。

マリーアントワネット

<ジャック=ルイ・ダヴィッド 処刑前の王妃のスケッチ>
Wikipediaより)

 ハプスブルグ家の肖像画やマリー・アントワネットの最後の姿など、その絵を描いた画家を含め、関わる人々の心情や社会的背景を読みながら絵を見ると、あらまぁ怖い怖い。

 恐怖というのは不思議なもので、直接的に自分に関わるものでなければ「怖いけど、もっと見たい」という好奇心を含んだ感情を生み出します。

 筆のタッチがどうとか光の表現がどうとか絵画の技術的な視点ではなく、あくまでも、その時代の歴史的背景を考慮することで見えてくるおもしろさなのです。それまでは聖書やギリシャ神話、または絵画の技術に関する知識がなければ西洋画を理解するのは難しいと思っていたので、かなりの驚きでした。


『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』

 中野京子さんの書籍を探し『名画で読み解く』シリーズを購入しました。その中のひとつが「ハプスブルク家12の物語」です。

ハプスブルク家

 この『名画で読み解く』シリーズは現在までにハプスブルク家、ブルボン王朝、ロマノフ家、イギリス王家、そしてプロイセン王家の5冊が出版されています。


◆ハプスブルク家

 ハプスブルク家はヨーロッパを強大な勢力で支配した名門王家です。

 13世紀、スイス北東部の弱小豪族であったハプスブルク伯ルドルフが神聖ローマ皇帝ルドルフ一世として君臨して以降、20世紀初頭までの650年に渡ってオーストリアやスペインを中心としたヨーロッパの広大な領土を支配しました。

 日本の徳川時代でも265年ということなので、650年はすごいですよね。

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<マルティン・ファン・マイテンス 『マリア・テレジア』>
Wikipediaより)

 このハプスブルク家には「戦争は他の者に任せておくがいい、幸いなるかなオーストリアよ、汝は結婚すべし!」という家訓が代々伝わっていました(誰が言い始めたのかは不明とのこと)。そしてこの言葉に従い、政略結婚で莫大な富と領土を獲得していったのです。

 ハプスブルク家の中でも最も有名なのが、長年敵対していたブルボン家のルイ16世に嫁ぎ、最後はフランス革命のもとギロチンに掛けられたマリー・アントワネットでしょう。

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<エリザベート・ヴィジェ=ルブラン
『マリーアントワネットと子どもたち』>
Wikipediaより)

 ハプスブルク家には他にも、マリー・アントワネットの母で、その巧みな政治力により「国母」のイメージで敬愛されたマリア・テレジアや、絶世の美女で悲劇のヒロインとして描かれることの多いエリザベート皇后などもいます。

 また、ナポレオンの息子であるライヒシュタット公も3歳の時にウィーンへ連れて来られて以降、21年という短い人生のほとんどを軟禁状態に近い形でハプスブルク家で過ごしました(母親がハプスブルク家出身だった)。

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<トーマス・ローレンス 『ローマ王(ライヒシュタット公)』>(Wikipediaより)


◆おすすめの理由

 この本のおもしろさは、上記で紹介したような個性の強い人々が繰り出す多様な人間模様にあります。

 あの人とあの人が繋がっていたり(※1)、ここで人生を終えた人物が、後に別の形で歴史に影響を与えていたり(※2)ーー、というようなことを知ることができるのです。

※1)ライヒシュタット公と恋の噂があったゾフィがエリザベートの姑だった。
※2)夫のフィリップ美公を慕うがあまり精神不安になり、彼が亡くなった後はついに正気の糸が切れ、29歳から75歳で亡くなるまで幽閉されたフアナは長男カールを産んだことで、スペインハプスブルク家が世界帝国になるのを後押しをする。


◆自分好みの絵画と物語を見つけよう

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<フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター 『エリザベート皇后』>(Wikipediaより)

 個人的に好きだった物語&絵画は、表紙にもなっているエリザベート皇后です。彼女の時代には既にカメラが発明されていたため、ネットで検索すると写真を見ることができます。絵でしか描かれていないそれまでの時代とは異なります。

 王家の肖像画を描く際には美しく、そして、逞ましく映るようにと多少の修正は当たり前だったようですが、エリザベートの場合は全くと言っていいほど写真と一緒で、彼女は修正が必要ないほどに本当に美しかったのだということが手に取るように分かります。

 ただ、それが余計に彼女の人間としての存在感を強め、人生の寂しさを強調している気がしました。写真がなければ、マリー・アントワネットのようにおとぎ話の主人公という印象で終わっていただろうなーー。彼女が感じた孤独感や疎外感が、妙に現実的に感じてしまいます。


◆著者の言葉

 あとがきにはこうあります。

「何しろハプスブルクの人々は強烈に個性的で破天荒、たとえ運命の非情さに叩き潰されるとわかっていても、あくまで自分らしく戦い続け、破滅するにしても派手なこと、この上ない……歴史はやはり人物の面白さに尽きる……(p.205)」

 まさに、このことを12の絵画とともに感じることができる書籍です。

 サクッと読めて楽しく歴史を学べる『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』ーー。おすすめです。


◆◆◆


この本の中で紹介されている12の絵画は以下の通りです。

1. アルブレヒト・デューラー 『マクシミリアン一世』
2. フランシスコ・プラディーリャ 『狂女フアナ』
3. ティツィアーノ・ヴィチェリオ 『カール五世騎馬像』
4. ティツィアーノ・ヴィチェリオ 『軍服姿のフェリペ皇太子』
5. エル・グレゴ 『オルガス伯の埋葬』
6. ディエゴ・ベラスケス 『ラス・メニーナス』
7. ジュゼッペ・アルチンボルド 『ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ二世』
8. アドルフ・メンツェル 『フリードリヒ大王のフルート・コンサート』
9. エリザベート・ヴィジェ=ルブラン 『マリー・アントワネットと子どもたち』
10. トーマス・ローレンス 『ローマ王(ライヒシュタット公)』
11. フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター 『エリザベート皇后』
12. エドゥアール・マネ 『マクシミリアンの処刑』



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