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2020年11月の記事一覧

息子が初めて「死」を身近に感じた日

先日、家に帰ったら飼っていたベタが死んだことを妻からそっと報告を受けた。 「保育園から帰ってきたら固まってるのを見つけたんだけど、さくがまだ寝てるだけかもって認めてないんだよね…」 次男が産まれて間もない頃、魚を飼いたいとの長男の熱い要望で、長男と僕二人でペットショップに行った。 色鮮やかなベタ達が並ぶ中、なぜか少し白く濁った赤色をした個体を長男は選んだ。 身体が赤いから「あかくん」と長男が命名。晴れて家族の仲間入り。 自分が選んで連れてきたことが印象的だったのか、餌や

書くということの根っこにあるもの

編集者を長く続けている方とお話をしたことがある。 そのときあるベテラン作家さんの話になった。日本を代表する著名な作家で、本もたくさん書かれている。 「自分が書くエネルギーの源は、“怒り”なんだ」と、その方が言っていたそうだ。 その怒りこそが、書くという行為を長年続けさせてきたのだ、と。 「そういうもの、あなたにもありますか」 とその編集者さんは私に聞いた。自分がものを作りだす、書くという行為をさせる、そのおおもとにあるものは、なんなのかと。 かなしさでしょうか。そう答え

仕事終わりに時々帰れなくなります

 家が嫌なのではなく、そのまま家へ帰れないのです。家は温かく幸せな場所だから…疲れてホコリを持ち帰りたくないのです。大切なものは大切にしておきたいのです。  サラリーマンのおじさんが、今でこそ少なくなりましたが、仕事帰りに飲み屋さんに寄る気持ちが、よくわかります。浄化して帰りたいのです。ホコリを落として帰りたいのです。アルコールで。つい飲み過ぎて、家族に嫌われるのでしょうが、ご家族は優しくしてあげて下さい。その人はご家族を本当は大事に何よりも大切に思い、愛しているのです。 

えんぴつを走らせる音がきれいだった

私は、一度だけ面と向かい合って、似顔絵を描いてもらったことがある。 学芸員として働き始めたころ、個展をしていた画家ご本人が来場されて、そのときに描いてもらった。 ある昼下がり、会場へふらっとその方はいらっしゃった。 その方からは、優しさと頼もしさがにじみ出ていた。 長年、高校の美術教師を務めていたそうだ。 私は、出会ってすぐに、その方を「先生」と呼びたくなった。 政治家や偉い人を「先生」と呼ぶようにではなく、親しい恩師に話しかけるような気持ちで。 先生は、画材道具を持ち

ぼくらは薄着で笑っちゃう。

たいした意味もなく、なんとなく選んでたものが、後になって辻褄があって、気づいたら、壮大な考えに繋がってく最初の一歩になってたりする。なんてことがたまにある。 ここの、わたしの自己紹介文。 「わからないという名の銀河を泳いで渡る星つぶだよ」って言葉。 クラムボンの原田郁子さんと忌野清志郎の、ふたりの曲「銀河」の歌詞なんです。 歌詞は原田さん。曲が清志郎。 この曲を、原田郁子さんが2017年の清志郎ロックンロールショーで歌ったんですが、それがとってもよかった。間に、清志郎の

5歳の息子が、「僕は宇宙から来たんだよ」と言った日

3番目の息子が、5歳の頃の話です。 不安定な少しどんよりとした雲の合間から 光の梯子が降りている空模様をみて、 一緒に車に乗っていた息子に 「お空と繋がって神様が降りてきそうだね」 と声をかけると、息子は小さな声で 「ママ、僕ね、本当は宇宙から来たんだよ」 といいました。 唐突に衝撃的なカミングアウトに、私が 「そうなの?本当に?」と聞き返すと 「うん、内緒だけどね。」と静かにいいました。 それ以上、その話は深掘りせずに終えました。 私はそれ以来、息子はもしかしたら宇宙から

あの女子高生は、予言者だったのかもしれない

家に帰ろうと地下鉄に乗ったら、次の駅で私の前に座っていた人が降りて、横並びの一番端の席が空いた。 ラッキー。 いそいそと、空席に座る。 電車はそこそこ混んでいるので、すぐにドア付近に立っていた人たちが空いた空間に流れ込んでくる。 私の前には、紺の制服に身を包んだ高校生らしき女の子が立った。 大ぶりな布バッグとスクールバッグを両肩に下げている。 電車が揺れるたびにやじろべえみたいに揺れるのがなんだか不憫で、「席、代わりましょうか?」と声をかけた。 「いえ、大丈夫です。座っ