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映画レビュー:岬のマヨイガ★★★☆☆

──禁酒41日目の酎 愛零が「岬のマヨイガ」を観て感想を書く話── 


 もっと妖怪たち活躍させてあげてえええええええ!!!!


 どうも、禁酒41日目の私です。


今日は「岬のマヨイガ」を観てきました。



 この映画は、東日本大震災から10年が経った2021年に、特に大きな被害を受けた岩手県、宮城県、福島県で1本ずつ、計3本のアニメーションを作る「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」のうちのひとつで、これは岩手県を舞台にした作品です。岩手県といえば遠野、遠野といえば妖怪。幼い頃から妖怪大好きっ子だった私が避けて通る映画ではない!と思って、観てきたわけなんです〜。
 しかぁし!なんということでしょうか、上映している映画館が少ない!スクリーン数16を誇る地元のシネマコンプレックスでもやってなぁい!幸い電車でふた駅のシネコンで上映していたのですが、今度はなんと上映回数がまさかの1日1回。午前中しかやっていません。この立ち位置の弱さ……早くも暗雲が漂いはじめます。それはともかく、首尾よくチケットを買い、はた迷惑にもカレー味のホットスナックを持ってシアターの中へ。


 結論から言いますと、5点満点中、3点。

 普通に観られる映画でした!良かった……!
(※ここからはネタバレを含みます。ネタバレが嫌な方はブラウザバックでお戻りください。)


 震災被害を受けた岩手の沿岸、避難所で生活する人々。一人ぼっちになってしまった小学生と、居場所を失った高校生。二人の女の子が避難所で出会ったのは、どこか不思議な雰囲気をまとうおばあさんだった……
 という導入から始まる物語は、背景美術が鮮明すぎず、劇伴もでしゃばりすぎず、なんとも安心できる空気の中、訪れた人をもてなし、幸せにするという伝承を持つ謎の古民家"マヨイガ"で、奇妙な三人の「家族」の日常を綴っていきます。しかしやがてその日常は、震災に端を発した異常な事態に侵食されていき……


■良かった点

・脚本
 登場人物がまるで血の通ったひとりの人間のように感じられるのは脚本の力によるところ大です。それぞれの行動理由がそれぞれの過去によるものであることが丹念に紡ぎあげられています。「そうはならんやろ」というところは今回は一度も感じませんでした。

・映像
 この映画は、映画本編と、それに挿入される形の昔話パートで構成されています。本編の震災の傷跡を残しながらもどこか牧歌的な空気も見事ですし、打って変わって粗削りの墨絵のような昔話パートも見応えがあります。異なるふたつの画風を上手くまとめている好例と言えるでしょう。

・料理の描写
 もうとにかくおいしそう。たべたい。(語彙力の消失)
 特にカッパたちにお礼として出した料理はすべて食べてみたいです。やっぱり、食って人間のっていうか、生き物の暮らしに欠かせないものじゃないですか。創作物でも、リアリティに重みとか深みとか奥行きを持たせたい場合、その場面や世界、風土に合わせた食のシーンを出すことって重要なんだなって思いました。

・岩手の知識
 これは、岩手の文化や歴史、習俗を知っていればもっと楽しめる映画です。その良い例が、カッパの体色。カッパ(河童)と聞いたら、何色を思い浮かべますか?たいていの人が「緑色」と答えると思います。でも、岩手の(遠野物語に出てくる)河童は、赤色なんです。そして、この映画に出てくる河童も、ピンクベースの赤色です。これだけとっても、この映画からは岩手に対するリスペクトが伝わってきます。きっともっと勉強すれば、映画に散りばめられたこだわりやリスペクトがもっと見えてくると思います。

 

■残念だった点

・短い
 どう考えても、短いです。104分しかありません。この中に、3人の出会い→絆を育む→不穏の影→ふしぎっと(妖怪)たちとの邂逅→不穏の増大→別れ→決戦→ピンチ→逆転→ハッピーエンド、という内容を詰め込むためにはどうしてもどこかが犠牲になります。とはいえ脚本は破綻していないのはさすがといったところ。

・3Dモデルの作り込みが甘い
 マヨイガを囲む生け垣に顕著です。色味でツツジの植え込みだとわかるのですが、その質感は言うなれば赤と白と緑のテリーヌ。何ミリ幅に切ればええですやろか?囲いの中には簡素な木の柵の部分もあったので、このクオリティの物を出すくらいなら、すべて木の柵で良かったのでは……

・やや唐突な妖怪大戦争
 人間の暮らしを脅かす巨悪に対し、東北じゅうの妖怪が集まってきて力を貸してくれるシーンは、ややご都合主義的な感が否めません。おばあちゃんが主な妖怪の名前を呼んでいくのですが、中には(そいつの力借りて大丈夫?)という妖怪も混じっています。ここには東北PRが透けて見えます。せめてなぜ妖怪たちが人間のために体を張って戦ってくれるのかの理由はほしいところでした。

・聖地巡礼を狙いすぎている
 最も残念な点がこれ。実在の地名やそこに鎮座するお地蔵さまを出して、実写?ぽい映像をさしはさむことによって、ここに人を誘致したいんだな……という思惑を感じました。はっきり言って、アニメやマンガ、ゲームの波及による経済効果を狙ってやるのはとても難しいことです。それをやろうとして失敗した例は数多くあります。もともとの企画が復興応援なので仕方ない面もありますけれど。


■総評

 訪れる者に福をもたらすと言われる不思議な屋敷、マヨイガと、そこに暮らす世代の違う三人の女性のぎこちないながらも確かに家族の絆を育んでいく様子を、ていねいに、優しい映像で描き、それぞれが内に抱え込んだ辛さや苦しさを単に「癒やす」のではなく、「分かち合う」ことで乗り越えることに主眼をおいたメッセージが伝わってくる良作です。

 震災被害と封印されていた巨悪の解放を上手いこと紐付け、その巨悪のエネルギー源を人々の辛い思い、悲しさ、やり場のない絶望とすることによって、震災を生き延びた世界に違和感なく着地させています。個人的にはその一般的には負の感情とされるものの発露を「花」の形状で表現したことにうならされました。それぞれ違う形、色にすることによって、人々の千差万別の思いを表現しているのだと思います。

 私がこの手の映画で最も懸念している俳優や芸人、歌手やタレントの声優起用も、それほど気になりませんでした。これは素直に大竹しのぶさんと芦田愛菜ちゃんを褒め称えます。グッジョブ!(・∀・)でした。カッパ役で出演したサンドウィッチマンのお二人は、配されたカッパの造形がなんとなく本人たちをほうふつとさせる造形でそれも楽しいところ。カッパの中にはなんと現職の岩手県知事(達増拓也氏:たっそたくや氏)も!

 そして、魔なるモノを滅ぼす小刀がなぜあの形をしているのかとか、マヨイガは複数あるとか、巨悪の名前のダブルミーニングの可能性だとか、おばあさんの髪留めの形が何を意味しているのかとか、いろいろと想像のふくらむ余地のある作品です。

 残念な点は、尺が短く、せっかく集まってくれた妖怪たちの見せ場がほとんどないこと。『さぁ〜〜盛り上がってまいりまし……あ、あれ?終わった?もう終わり?』という中途半端な決戦シーン。神楽笛の音色一本で巨悪に立ち向かうところから、一気に他の楽器も加わってドンドコドンドコ怒涛のようなダイナミズムを感じたところで終了。( ゚д゚)ポカーン
 思いますに、これテレビアニメで1クール13話くらいでやるとちょうどいいのではないですかね?実際宮城県の「ずっとおうえん。プロジェクト」は1クールのアニメだったのですし。

 もっと妖怪たち活躍させてあげてよおおおおおおおおおおおお!!!!!

 あとお地蔵様たち無敵すぎ。まあ仏様だもんね。


 というわけで星みっつ!観ても損はありません!\(^o^)/ 


映画評価基準……

★★★★★:何度でも観たい
★★★★☆:ぜひ観たい
★★★☆☆:観ても損なし
★★☆☆☆:一度観ればいい
★☆☆☆☆:観なくてもいい
☆☆☆☆☆:お金を捨てたいなら




 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。

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