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映画レビュー:ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 ★☆☆☆☆

──お嬢様月間の酎愛零が映画「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」を観て感想を書く話──





 ……イナゴのくだり要ります?


 みなさま、ごきげんいかがでしょうか。お嬢様月間のわたくしです。




 今回は地元の映画館で、映画「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」を鑑賞いたしましたわ。
 毎年、夏になりますと、日本のいずれかの博物館で必ず開催されております、恐竜博や太古の生き物展。小学生男子に混じって、わたくしも国立科学博物館で行われている「化石ハンター展」におもむこうと考えておりまして、ちょうど巷で公開されている、この有名タイトルの映画を観てみようと思い立ちましたの。



 正直なところを申し上げれば、「ジュラシック~」シリーズはそれほど明るいほうではありません。「ジュラシック・ワールド」で、最後にモササウルスが全部持っていきましたわね……という感想をうすらぼんやりと覚えているくらいで、続編の「炎の王国」も未鑑賞ですし、その前日譚にあたる「ジュラシック・パーク」についてはあらすじも知らない状態ですわ。

 ところが、今作のうたい文句に「旧三部作の主人公たちがカムバック!」「ジュラシックシリーズの集大成」などと書かれているものですから、逆に(前知識をなんにも入れずに観ましたら、いったいどんな感想を抱くのかしら?)という興味もわいてきましたの。すなわち、旧作のオマージュや、旧主人公たちへのノスタルジックな感情を抜きにして、純粋に単体映画の魅力だけでどれだけ魅せていただけるか、ということを期待したのですわ。


 ……勘のよい諸姉諸兄のみなさまがたにおかれましては、タイトルの星の数でお察しいただいているとおり、その期待はまったくもって叶えられなかったのですけれども。


 結論から申し上げますと、5点満点中、1点。


 わたくしこと酎愛零の映画レビュー史上で最低の点数を叩きだしてしまいましたわ!大音量の映画館でパニックアクション映画を鑑賞中に眠くなるという現象が起きたことからも、わたくしがどれだけ退屈したかがご想像いただけると存じます。



■あらすじ

 「ジュラシック・ワールド」の惨劇から世界に恐竜が解き放たれて四年。今や恐竜たちは地球上のどこでも見られる存在となり、人類との軋轢も多く報告されるようになっていた。クローン体として生まれるも施設を脱走し、前作主人公オーウェンとクレアのもとで隠遁生活を続ける少女メイジー。かつて主人公と奇妙な友情を育んだヴェロキラプトル"ブルー"は一児の母となっていた。そんな中、北米穀倉地帯で巨大化したイナゴが大発生して作物に甚大な被害を与えるという事件が発生。駆けつけた古植物学者サトラー博士は、壊滅した畑がある一方ですぐ隣に何の被害も受けていない畑があることに気づき、その畑の種苗を販売している巨大バイオ企業に疑いの目を向け、旧知の間柄である古生物学者グラント博士の協力を仰ぐ。時を同じくして、ブルーの仔”ベータ“とメイジーがバイオ企業”バイオシン社“の手の者に拉致されてしまう。跡を追うオーウェンとクレア。サトラー博士とグラント博士が真相究明に向かうのも、危険な遺伝子編集に手を染める同社であった。


(※ここからはネタバレを含みます。ネタバレがお嫌な方はブラウザバックでお戻りくださいませ。)











■良かった点

・めずらしい恐竜が見られる

 テリジノサウルス、ケツァルコアトルス、ドレッドノータス、ギガノトサウルス、なんか赤い羽根がわさわさついた知らない恐竜などが映画館の大スクリーンで見られます。お子さまたちは大興奮でしょう。
 残念ながらこれが、今作で評価できる唯一の点です。



■残念だった点

・起承転結が甘い

 物語の基幹たる起承転結のうち、「起」と「結」が甘いと感じました。この二つの詰め方が甘いというのは、物語として致命的ですわ。『自然界に存在しない超巨大イナゴ(全長30cmくらい)が畑を食い荒らしました。すぐ隣にはまったく食われていない青々とした畑があります。』これ、誰がどう見ても食われなかった方の畑の作物がどこ由来か疑いますわよね。化け物サイズのイナゴも。主人公たちが行くまでもなく、必ず公権力の手入れが入るはずです。誰が見てもわかるもので行動を起こすのは、「起」としては弱いと思いますの。一般の人では気づかないところに気づくから主人公たりえると、わたくしは考えますわ。
 それに、「結」が結になっていないのがもう大問題ですわね。「恐竜と人類(と他の地球生物)との共存」をテーマに掲げているのに、最後の最後にちょろっと現生種と一緒にいるところを映して終わり、では、テーマを放棄しているに等しいでしょう。エサの奪い合い、テリトリーの重複、巨大生物ゆえの摂取食物量の増大、生態系に与える被害など、共存に向けてハードルとなるものはたくさんありますのに、それらが出てくることはありませんでした。


・脚本がガバガバ

 この映画を最もダメにしている点のひとつがこれです。全編にわたって、「そうはなりませんわよね?」「そんなことがありまして?」という不出来な脚本の連続でした。なぜ、思春期の子どもに理由も明かさず行動を制限しているのか?なぜ、そんなに警戒が甘いのか?なぜ、機密事項をぺらぺらとしゃべってしまうような人員にそんなポストを任せているのか?なぜ、敵地に潜入しておきながら身バレするようなことを簡単に口にするのか?初めから???のオンパレードで、そのうち眠くなってくるしまつです。
 よい創作には、どんなに奇抜な設定でも、突飛な展開でも、受け手を納得させる力があります。それを可能にするのが、脚本の力です。その力がないと、今作のように、ただ見せたいシーンをつなぎあわせただけのご都合主義が鼻につく作品ができあがってしまうのでしょう。



・演出が稚拙

 この映画を最もダメにしている点のもうひとつの点がこれです。一言で申し上げれば「忖度恐竜」ですわ。つまり、明らかにそうできる位置にいながら、主人公サイドには危害を加えない恐竜──パクッとできるほど接近しているのになぜか目の前で咆哮を上げはじめて尺をかせぐ恐竜や、バイクに乗って逃走する主人公を追跡中に、バイクが曲がり角で減速して絶好のチャンスなのになぜか自分も減速して飛びかからない恐竜など──の存在がしらけてしまいます。人間もそう。足音で巨大恐竜が接近していることがわかって(何人かは実物を見ている)いて、背後にそれなりに頑丈そうな建物があるのに誰ひとり建物を目指さずに『おい……この足音は……』と言わんばかりにその場にとどまり、恐竜が現れてから逃げ惑うといった、いかにも「撮りたいシーンのために」不自然な演出をしているシーンが多く、観ていて非常にイライラします。作り手の都合のために、観客をイラつかせるという、エンターテインメント作品で絶対にやってはならないことをしてしまっているんですね。


・キャラクターに感情移入できない

 物語冒頭、ブリーダーの農場に侵入して、違法な繁殖の証拠をつかみに行くクレアと仲間たち。証拠映像を撮るだけのはずが、「見捨てていけないから」という理由で幼体の一頭を連れ出そうと予定にない行動を取るクレア。典型的な「自分の勝手な正義感で周囲を危険に晒す」系のキャラクターです。こんな人とチームを組むのは嫌ですわね……早く退場しない殺されないかしら、と思っていましたら、なんと主役の片割れでした。
 また、旧三部作の三人の博士がただのおじいさんおばあさんで、飲み込みの遅さ、行動の遅さ、要領の悪さに観ていてストレスがたまります。年の功で新三部作の主人公たちを見事にサポートするのかと思いきや、ただの足手まといにしかならないのは驚きました。この扱いで、旧作のファンの方々は納得するのでしょうか。まあ、しいて申し上げるなら、実際にあの年齢のおじいさんおばあさんに同じことをやらせたら同じ結果になるだろうということはわかります。でも、観客が、なかんずく旧作のファンの方々が見たいのはそんな変なリアリティではないはずだと思いませんこと?エンターテインメントにおける重要な因子、キャラクター造形にも「違う、そうじゃない」感が漂っていますわ。



・生命と科学への敬意が感じられない

 バイオ企業が遺伝子編集して巨大化したイナゴによる蝗害が出てきます。が、イナゴによる食害を起こすなら、自社の農作物を食べないようにする編集だけでじゅうぶんなはず。ひと目見て、(あんなに大きくなったら飛べなくなるのでは?)と思いましたわ。なにせトウモロコシくらいある大きさなのですから。よく、虫の能力を紹介するときに『もし〇〇が人間の大きさだったら〜〜』という構文が使われますけれども、それはあくまで比喩の話です。虫は小さいからあの能力を発揮できるのです。1gのアリは50gのものを持ち上げられても、100kgのアリが5tのものを持ち上げることはできない、そういうことですわ。確かにトウモロコシ大のイナゴが群れをなして襲ってくる場面は絵面としては強烈でしょう。しかしあの大きさではたとえ群生相になったとしても飛行は厳しいでしょうし、まして火をかけられて燃えながら飛んで逃げるなどとは噴飯ものですわ。火はまず「軽くて」「細く」「薄い」ところから、つまり羽根から燃焼していくのは自明の理。それをも「遺伝子編集したから」の一言で強弁するとしたら、これは生命にも科学にも敬意を欠いた姿勢であると断じざるをえません。



・劇伴がほぼ空気

 ジュラシックシリーズの劇伴といえば、あまり観たことがない私でも知っている、テレビの恐竜系の番組でもよく流されるあのテーマ曲ですわね。劇伴にはちょっとうるさいわたくし、あれがいつ、どんな場面で効果的に流されるのか、それなりに楽しみにしていましたの。でも、残念ながらぜんぜん心動かされないシーンでワンフレーズ……いえ、半フレーズくらい流されただけでしたわ。
 この扱い、ファンの方々は納得していらっしゃるのでしょうか……?
 その他のシーンも、(半分寝ていたのもありまして)記憶に残らない音楽ばかり。ここまで楽曲の力を軽視した映画もめずらしいのではなくって?



・イナゴのくだり

 わかりやすい悪役を出そうとして嘘くさくなっている一番の原因、そして恐竜の出番を削っている一番の原因ですわ。先の項目でも述べましたけれども、イナゴとは思えない、漫画のような強度なのです。納屋の木製の扉をぶち破って入ってくるのは何なんですの?砲弾?
 これがあるおかげで、恐竜映画なのかイナゴ映画なのかわからなくなっていますし、一度解き放ったイナゴの大群を「クローン少女を調べることによって得られたデータにより一代限りのものとして事態を終息させる」というトンデモ理論で解決しようとするのには頭を抱えてしまいましたわ。おそらくジュラシックシリーズ通してのテーマである「遺伝子を改変して、人間に都合のいい生物を創り出す」神の真似事に対して警鐘を鳴らすということの表現をしたかったのかもしれませんけれども、なぜそれを恐竜がらみでやらなかったのか、甚だ疑問ですわ。これはやはり、やらなかったのではなく、できなかった、そこまで考えが及ばなかった……制作陣の力量不足だったのではないかと思います。



・タイトルに偽りあり

 日本語サブタイトルに「新たなる支配者」とありますけれども、なんのことを指しているのか不明です。人間に成り代わって恐竜の世界になることを指すのでしょうか。いえ、事態は映画開始当初とたいして変わりませんでした。では、人間がこの星の支配権を取り戻すのでしょうか。いえ、そういった描写はありませんでした。では、やはりイナゴ……?いいえ、それもラストで根絶する意思を見せていたので違うでしょう。根絶できるかどうかはともかくとして。
 英語サブタイトルの「Dominion」とは、「支配」「支配領域」のこと。共存するために、人類と恐竜の支配領域を分けることになる、という意味ならまだなんとか意味は通る気はします。わたくしが思いますに、「新たなる支配者」という訳語がそもそも失敗だったのではないでしょうか。こんな変な訳をあてるくらいなら、そのままカタカナで「ジュラシック・ワールド/ドミニオン」で良かったのでは。意味はご自分で調べてくださいまし、ということで。



■総評

 お好きな方にはたいへん申し訳ないのですけれども、近年まれに見るほどの駄作です。最初から最後までツッコミどころの嵐で、しかもそれを指さして笑うことのできるタイプでもなく、ただひたすらに不快です。精一杯好意的に見れば、安全が保証されたUSJのアトラクションに乗っている感じ……いえ、そんなに楽しいものではありませんわね。その様子を収録したテレビ番組を観ている感じとでも申しましょうか。
 起承転結、脚本、演出、キャラクター、音楽の使い方、テーマの醸成、総合したエンターテインメント性、どこをとっても褒められるところがありません。久しぶりに映画館で眠くなるという体験をしました。
 そもそもこの世界の軍や警察は何をしているんですの?日本の特撮世界ならおそらく、喜々として怪獣対策課ならぬ恐竜対策課を立ち上げ、対恐竜装備を開発し、対恐竜部隊を配備していることでしょう。そういった、フィクションなりのリアリティを軽視しているところが如実に出てしまっているのが最もダメなところだと思いますわ。

 見どころがあるとしたら、シリーズすべてを観ているファンにのみ分かる過去作のオマージュや、オールドファンなら旧三部作の三人の博士を見て懐かしむところくらいになるのでしょうか。それを考慮に入れても、いえ、旧作の熱心なファンであればあるほど不快感は増すと思うのですけれども。それとも『ジュラシックってもともとそういうもんだから!こまけぇこたぁいいんだよ!』というノリになれるのでしょうか。


 というわけで星ひとつですわ!
 かのティラノサウルス・レックスを上回る巨躯のギガノトサウルスは、よりトカゲに近い風貌で不気味さ抜群!直接対決の際は、思わず見慣れたTレックスのほうを応援したくなります。
 ちなみに字幕版は「トップガン マーヴェリック」で辟易させられた、かの悪名高い戸田奈津子女史でしたので、今回は吹替版を選ばせていただきました。恐竜もの……どこかで口直しをしなければなりませんわね。




映画評価基準……

★★★★★:何度でも観たい
★★★★☆:ぜひ観たい
★★★☆☆:観ても損なし
★★☆☆☆:一度観ればいい
★☆☆☆☆:観なくてもいい
☆☆☆☆☆:お金を捨てたいなら





今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

それでは、ごきげんよう。

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