見出し画像

【#絵から小説】企画 お題B「架空紀行文」

 またしても清世さんの企画「絵から小説」にのっかって、今回はお題Bにチャレンジします!

 今回は旅行に行けないぷんぷんを脳内旅行で晴らしてやろう!ʕ•̀ω•́ʔ✧と思い、ドイツ観光ふうのを書いてみました!スタイルは「紀行文+α」です。

 よし行けっ!3000文字!




画像1



【シリーズ奇祭の街を巡る】 その⑧ グーデン=グーデンの火祭り「フラーメンヴァンド」(アルッチュ州、ドイツ)5/5


 さて、これまで4回に渡ってグーデン=グーデンの建築、文化、歴史、食と酒についてお伝えしてきたが、最終回の今回はいよいよこの街に伝わる奇祭「火祭り」についてご紹介しよう。

 世界に火祭りと称する祭祀は多かれど、この街のそれは異彩を放っている。それはその内容もさることながら「祭りにおいて唱えられる文言の意味や、祭りの内容の意味をほとんど誰も知らない」という点にあり、当然のことながらその起源も定かではない。街の初夏の名物として知られるこの祭りは決して規模が小さくないにもかかわらず、その知名度に反してメジャーな旅行ガイド本にも大抵「豊穣を願う祭り」としか書かれていない。

 グーデン=グーデン歴史文化協会が公式に出している見解によれば、祭りの概要はこうだ。

 準備期間にはその年に選ばれた地区の者が柳の枝を編んで筵状のものを作り、その筵で街の広場に四角い形状の囲いを建てる。この柳の筵はほとんどの観光客の想像を上回る大きさと頑丈さを兼ね備えており、広場の真ん中に出現した筵の囲いはちょっとした小屋のような大きさと強度を備えている。

 祭りの前日、担当地区の住民は街を見下ろす丘の上に行き、聖なる祭壇が設置されている場所の前の地面を掘り返し、そこに地中深く埋められている大きな櫃を掘り出す。そしてまた埋めるのだ。櫃の中身は非公開である。重労働のくせに一見無駄と思えるこの行為の理由には諸説あり、今後の研究が待たれる。尚、男たちが聖なる丘で力仕事に精を出している間、女たちは家でパンを作っている。このパンは住民全員に配られるが、お供え用であり、人間が食べるものではない。また、年頃の娘たちはいささか煽情的な衣装を着て練り歩き、観光客に愛想よく振る舞い、なぞなぞ遊びをしかける。この謎かけの意味を理解できる者は地元にもおらず、ただ「拒否」が正解、「同意」が不正解であるということが語り継がれているのみである。不正解だと死ぬまでダンスを踊り続ける呪いをかけられるそうだ。

 祭り当日の昼過ぎ、役目を任ぜられた住民たちが昔風の衣装を身にまとい、不思議な詞の歌を歌い、パレードを行う。このパレードには観光客や、移住してきた住民も飛び入り参加することができるが、昔からこの街に籍を置く家の住人は、選ばれた地区の者以外は参加することが出来ない。

 日暮れになってくると街中の人間が広場に続々と集まってくる。その数はいったいこの街のどこにこれだけの人口が潜んでいたのか、と驚くほどである。

 喧騒と興奮の中、火祭りの本番が始まる。人々が広場に設営された筵の壁を囲むと、司祭役の住民が誰も知らない言語で祝詞とされるものを読み上げ、ほくちに点火する。燃えやすいように筵の下部に敷き詰められた麦わらは火を均等に行き渡らせるための役割をも持っているため、筵の囲いは周囲をあかあかと染め上げるほどの明るさを持って燃え上がり、徐々に深まりゆく夜が、取り囲む人々のシルエットを幻想的に浮かび上がらせる。

 次いで住民たちはお供え物のパンを火の中に投げ込む。このパンは聖餅によく似た薄焼きの丸いものと、細いプレッツェルを思わせる小指ほどの長さの棒状のものとがあり、前者は太陽を、後者は2本をひもで結わえて雨雲を表していると言われている。

 火の勢いが落ち、完全に消えるまで、住民は炎の壁(Flammenwand)の周りを牧歌的なメロディーの歌を歌いながら輪になって踊る。

 これがグーデン=グーデンの火祭り「フラーメンヴァンド」の概要である。半年後のハロウィーンには豊かな収穫に感謝する祭りが開かれ、こちらも有名だ。

 ハイデルべルクの北、バーゼルの南に位置し、ライン川にほど近いグーデン=グーデンの街。芸術と飲み倒れの街を、あなたも訪れてみてはいかがだろうか。



────────



街の芸術家が集うバー、ヨップァーライヒにて

ドイツ人言語学者・小説家、ヘーベル・E・K(50)の話──
「ええ、何度か行ったことがありますよ。私の生まれはハノーファーなのでここではよそ者ですがね。祭りの際に歌われる歌や読み上げられる祝詞には、今では使われなくなって久しい古ヨーロッパ語の名残が見られますが、それも「燃える」「叫び」など断片的なもので、意味をつなげるまでには至りません。歴史の流れから取り残されたような印象を受けます。明らかにキリスト教伝来以前、古代ローマ帝国時代より古いものです」


イギリス人ミュージシャン、ノーン・D・アークレー(28)の話──
「初めて見た時ゃあ、ビビっちまうよなぁ。祭りの前の日の、女のコたちのパレードさ。そんなに露出が多いワケじゃねえんだけどよ、なんかエロいんだよな……。初めて見た時ゃ、すっかりのぼせ上がっちまって、その後の謎かけも何言ってんのかさっぱりだったぜ。んでも、「もちろん!」つったら、顔近づけて『死ぬまで踊らせてあげる』って色っぽく囁くのさ!でも、踊るのは祭りの当日、とも言ってたな。結局踊りはしなかったけど笑」


フランス人カメラマン、ダイーヴ・ノンデール(31)の話──
「遠目から見ると、小屋サイズの檻みたいな物が燃えてるだけなんだけど、すぐ近くまで行くと、まさに炎の壁なんだ。周囲に伸びる人々の影が踊る様はとても幻想的だし、じっと見ていると、炎の揺らぎの向こうにも踊る人影が見えるような気がしてくるんだよ。街の人は親切だし、被写体は星の数ほどある。とにかく当分ここを離れられないね」


ギリシャ人モデル兼ウェイトレス、ティドリア・C(20)の話──
「お祭りのお供え物のパン、実は3種類あるって知ってる?丸いのと、細いのと、「細長いの」があるのよ!微妙なちがいなんだけどね、前に近所の子供たちがお供えのパンをバラして棒人間?ピクトグラムみたいなやつ?を作って遊んでたのを見たの。そのとき、あれ、もしかして長さちがうかも、って思ったのよね。火祭りでお供えするときも長さをそろえて縛ってるから、作り損ないじゃないよね」


スペイン人画家、ロレッツ・ガ・マワ(42)の話──
「ここだけの話、実は以前、組み上げた筵の囲いの中に入ってみたことがあるんだ。いや、もちろん本当は立ち入り厳禁なんだけどね。ただ筵を組んだだけかと思ったら、意外と分厚く頑丈でね。真ん中に木組みがあったんだよ。腰掛けるのにちょうどいいからそこに座ってネタ出ししてたら、地元のおばあちゃんに見つかっちゃってね。謝って出ようと思ったら、そのままでいいよ、という風な身ぶりをしてニコニコしてたんだ。外国人だから大目に見てくれたのかなあ」


フランス人伝奇漫画家、ヨイ・ド・レエ(45)の話──
「僕ァね……仕事柄、長い年月を閲して意味を失ったり、転訛したり、習合したりした文化や習俗を取材してるンだよ……まだ仮説にしか過ぎないが、僕ァこの火祭りの源流に目星をつけてる……ヒヒッ、これ以上首を突っ込むと、僕も死ぬまで踊るハメになるかもしれないけどねェ……」



────────



 知らぬ者が知ったかぶることがあれば、同様に知っている者が知らぬふりをすることもまたあろう。往々にして閉ざされた歴史の真実に近づけるのは、何も知らぬ外部からの旅人であるものだ。
 その笑顔と親切は一体何に根ざしているものなのか。あなたが旅を愛する者であれば、その根源に──炎の壁の向こうにあった真実に──思いを致してみるのも、そう悪くはないはずだ。



画像3




作品は以上になります!

 私の絵の見方は、まず薄目をあけてできるだけ遠くから見るんですね。「何が描かれているのか」よりも「何に見えるか」を優先しているがあまりの見方です。この見方で私の頭に浮かんだのは(Oh…Inferno…)(ヒトガタ…)でした。そこから紆余曲折あり、「におわせ」と「ほのめかし」で書いてみよう、と考えるに至りました!むずかしかったですけどいいチャレンジのきっかけになりました!清世さんありがとうございます!😃😃😃

 ひと通り読んでいただきましたら、

※味変 その①
 実際にドイツの(できればライン川沿いの)トラベルガイドブックを見ながら読む
→このお話はほぼでっちあげですけれど、フレーバーは実際のドイツ観光案内書を読みながら参考にしました。旅行気分で楽しかったです!

※味変 その②
 ケルト音楽を聴きながら読む
→ややネタバレ気味になりますが、この手の音楽を聴きながら書いたので、それがこの作品のBGMと言ってもいいです!異国情緒をお楽しみください!



 あと1作!やったるでー!(≧▽≦)

画像3

プレッツェル!少しドイツ気分!

サポートしていただくと私の取材頻度が上がり、行動範囲が広がります!より多彩で精度の高いクリエイションができるようになります!