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ネット炎上の事例研究:ネット炎上の類型化

日々、生まれては消えてゆくネット炎上事案。これまでいろいろな方がその類型化を試みていらっしゃいます。

前回記事「ネット炎上のメカニズム:ネット炎上の三要素(事例編)」ではネット炎上の三要素を定めたので、これを規準に企業に悪影響を及ぼすネット炎上の分類を考えてみました。下図です。

類型化サムネ

「話題」については、必ず話題の原因となる対象が存在するため、その対象ごとに分類することが妥当だと思います。企業のネット炎上に関連する話題の原因となる対象は、「企業」「社員」「顧客」が想定されます。
「企業」は、企業が発信する内容が常識とはかけ離れていたり、差別的な発言がある場合や、不祥事など企業の事業活動などの行為が原因となる場合が想定されます。
「社員」は、バイトテロと称される非常識な行動や、社内の理不尽な実情をリークさせる内部告発、業務遂行中に顧客情報を漏洩するなどの話題においては、原因となる。
「顧客」は、顧客テロと称される非常識な行動や、企業から提供されたサービスや製品に対する不満や疑問などに共感されて、話題が拡散する場合が想定されます。

「共感」については、ネット炎上を生み出す感情の種類ごとに分類できると思います。人の感情の種類については、これまでさまざまな哲学者や心理学者が示してきています。この図ではプルチックの感情の輪における基本感情である、怒り、恐れ、期待、驚き、喜び、悲しみ、信頼、嫌悪の8種類に分類したものを示しています。

「メディア」については、PESOモデルに基づき分類しました。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会では、PESOモデルを以下のように分類しています。

統合メディアコミュニケーションのフレームワーク。
PはPaid mediaで「買う」メディア(広告やイベントのスポンサーシップなど)。

EはEarned mediaで「獲得する」メディア(ニュースメディアにおけるパブリシティなど)。

SはShared media で「共有される」メディア(ソーシャルメディアやブログなど)、

OはOwned mediaで「所有する」メディア(コーポレートサイト、ブランドのソーシャルメディアアカウント、広報誌、店舗やミュージアム施設など


下表に、「話題」を生み出す対象と「メディア」の対応表を示します。ペイドメディアやオウンドメディアでは、企業が自主的に発信する話題が対象となりますので、火種は主に企業になります。

シェアドメディアは、生活者同士が情報を共有するメディアですので、社員や顧客がいち生活者として発信する内容が「話題」となります。
アーンドメディアは、報道メディアが発信する内容が「話題」となります。

火種と拡散メディアの関係

SP企業

CMの内容への批判

【話題】企業のCM表現
【共感】嫌悪(女性蔑視、差別発言など)
【メディア】ペイドメディア

企業のイメージ広告や製品のプロモーションCM、プレスリリース、WEBサイトなど自社が制作するコンテンツが拡散メディアとなるケースです。
コンテンツそのもののの描写方法に批判が集まり、に対して批判が最近、頻発しているパターンです。下表に最近の該当事例を紹介します。

広告の炎上事例

批判された主な理由は海外では人種差別と見做されたことです。国内では従来、女性蔑視と受け取られる内容が多かったのですが、最近は悪化する日韓関係や原子力発電の再開などの時事ニュースに関係するものが増えているように見受けられます。

せっかく費用と時間をかけて制作した自社コンテンツが批判にさらされ、ほとんどの事例で配信を止めることになるのは、党の企業のとっては、なかなかつらいものがありますね。

しかし、内輪の人だけで確認しても限界があります。配信前に第三者にチェックしてもらえるステップを取り入れれば、このような事態に陥るリスクは低減できるのではないでしょうか。

このようなことが続けば、あたりさわりのないつまらない広告ばかりになることも懸念されています。このような事案が増えるたび、過剰反応だとする意見も増えてきています。


不祥事

【話題】企業の不祥事
【共感】怒り、驚き
【メディア】オウンドメディア

自動車会社の検査データ改ざん問題や、社員の不祥事などで企業が謝罪会見などを行い、これが話題となりネットで広まるケースです。

これまでは、会見を取材した内容をメディアが記事化したニュースが拡散メディアとなっていましたが、最近は、Amebaなどを通じて、会見のライブ配信映像がそのまま拡散メディアとなることもあります。
マスメディアが記事にする前に当事者が会見を開いたり、リリースを発表することで、先手を打つケースもあります。

先手を企業がとれるということは、炎上条件が整うタイミングを企業側が設定できるということです。
つまり、対応方針を事前に決定してから対応に臨むことが可能になります。当然、不意に降りかかってくる事案に比べれば、対応しやすくなります。

スクープ記事

【話題】企業の不祥事
【共感】怒り、驚き
【メディア】オウンドメディア

テレビ番組や写真週刊誌やニュース雑誌などのマスメディアが独自の取材で話題を確立するパターンです。

この場合、拡散メディアは取材元のマスメディアであるため、話題さえ部外者に関心を持たれれば、ネットメディアも反応し、炎上事案となります。

例えば、ガイアの夜明け(テレビ東京)が特集したレオパレス21の違法建築アパート案件などが該当します。
吉本興業の闇営業問題も、FRIDAYのスクープ記事に端を発していますので、このパターンに類型できます。

すでに拡散力を持つメディアが取材元ならば、いきなりLEVEL3の状態に移行するインパクトがあります。
また、初動ではマスメディアが先行して情報を発信していますので、マスメディア主導で話題が広がってしまいます。

SP社員

内部告発

【話題】社員の告発
【共感】驚き
【メディア】シェアドメディア

社員の意図的な機密情報の漏洩や、内部告発が契機でネット炎上が発生することがあります。その象徴的な事例が2010年に発生した尖閣諸島での中国漁船衝突ビデオ流出事件があります。
この事件は、当時の日本政府が中国政府への配慮から、衝突の状況を撮影したビデオを一般公開しない方針を打ち出していたにも関わらず、海上保安庁の職員が自らの意思でYouTubeに掲載し,全世界に公開しました。


社員の非常識な行動

【話題】社員のふるまい
【共感】驚き、嫌悪
【メディア】シェアドメディア

主にコンビニや飲食店でアルバイト店員が非常識な行動をとり、その様子をネットで配信する事例,いわゆるバイトテロなどがこのケースに該当します。
これ以外にも、違法行為の暴露、会社が収集した個人情報の暴露、ネット上での誹謗中傷行為など様々な話題が存在します。
 
また、社員が匿名のつもりで暴言を投稿して、後で個人が特定されるケースも少なくありません。
個人とともに、勤務先も特定され、その会社が知名度のある企業であれば、「○○社の○○さん」のふるまいとして話題が拡散することがあります。

過去には経済産業省のキャリア官僚が匿名ブログで「高齢者は早く死ね」などと投稿して話題になったことがあります。経済産業省は当人に懲戒処分(停職2か月)を科しました。

SP顧客

顧客の非常識な行動

【話題】顧客のふるまい
【共感】驚き
【メディア】シェアドメディア

2013年に多発したコンビニエンスチェーンやスーパーマーケットのアイスケースに顧客が寝そべり、その写真をソーシャルメディアに投稿する事例などが、クチコミの発生主体が顧客である事例です。

今年も年初に飲食店を中心に同様の事案が多発しました。非常識な行動を映し出すコンテンツは、2013年は写真であしたが、2019年は動画が主流です。しかも縦長動画です。
これは、Instagramにおけるストーリー機能 や動画コミュニティTikTokが広く普及したことが背景にあります。


顧客体験の不満

【話題】顧客の体験
【共感】驚き、嫌悪
【メディア】シェアドメディア

飲食店や小売店などでの接客に対する不満をソーシャルメディアに書き込んだ投稿が契機となることがあります。

例えば,2010年大晦日に発生した「スカスカおせち事件」が該当します。
この事案では、ある顧客がクーポン購入サイトでおせち料理を購入したところ、配送が遅れたうえに、中身も広告と著しく乖離していたことに憤り、届いたおせち料理の写真と怒りのコメントを「食べログ」に投稿しました。
これがおせち料理の販売会社を批判するクチコミが拡散する契機となりました。 

顧客の感動体験

一方で,企業の事業活動や社員の行動が顧客によって賞賛されるケースもあります。

【話題】顧客の体験
【共感】驚き、喜び
【メディア】シェアドメディア

2010年の年末、記録的大雪で山間部の国道が大渋滞しているなか、コンビニチェーン「ポプラ」の配達トラックの運転手がおにぎりを立ち往生している人々に無料で配って回ったという出来事がありました。
おにぎりを受け取ったある運転手が、その感激した気持ちをTwitterに投稿しました。

共感した多くの人々がコンビニチェーンに対して好意的なツイートを投稿し、話題はどんどの拡散してゆきました。ネット上では、トラックの運転手とコンビニチェーンの両者を称賛するクチコミがたくさん発生しました。

顧客が話題の原因の場合、会社が事態を認識した時にはすでにネット炎上の真っただ中です。どうしても対応が後手になります。なるべく早期に主導権を奪い返すことが必要です。
そのためには、積極的な情報開示を迅速に行うことが第一です。

今後、それぞれの具体的な事例について、考察をしてゆきたいと思います。


【書いた人】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長 多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援しています。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域です。

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