己といふ愚物
不甲斐ない。机に向かう時間よりも布団にくるまる時間が多い。
歳をとるにつれ集中力というものがなくなっていった。義務は権利になり、放棄寸前である。
情けない、あぁ情けない。
教室に向かうという行為が目標になり、月の下、書籍を開くことは二の次である。
講義を一所懸命に聞いて疑問が湧く。思考が脇道にそれて聞き逃す。
板書しようと筆を持つが刹那で忘れる。ちと少しは理解できるようになりたいと勉学に対する気力がわく。
帰路につき、揺れる歩みで気力はこぼれ、家に着くころには湿った気力の器だけが残る。
上着を脱ぎ、講義を終えた安堵から惰眠を貪る。
訳もなく夜をまたぎ、気力の栓を開けることなく、活力が湧くのをただ怠惰に待つ。丑三つ時の睡魔が訪れ、今宵の己を諦め、翌朝の己に賭ける。
明朝の己ほど堕落したものがいないのは承知している。
己に必要なのは危機感と暴力であると愚かにも断定し、環境に悪態をつく。
あぁ甘やかさないでくれ、呆けている。馬鹿馬鹿しい。
焦燥を覚えたところで、その焦燥は雪よりも淡い。
長方形の電子機器たちに執着し、必要だからと手放さず、それらの利点を生かさず一時の快楽にのみ使う。
同じ四角の書籍には目もくれず、四角(しかく)の青い光に囚われる。只でさえ己は眼鏡といふ四角(よすみ)し縛られているのになぜさらに枷を付ける。硝子を通してのみ外と関われる。
嘲笑え、笑ってくれ。
一昨日、いやもっと。前の閏年だったか。気力を奮起させる致し方がいくつかあった。水筒に詰めた紅茶。好物。サイダーの飴。
勉学と紐づけ習慣づけようと過去の己に頼るが、生憎ただの過去であった。結びつくことなく自堕落な飲み食いが残った。
今や己の道を進ませるのは時だけだ。
己に落胆している暇などないはずなのに、ただ時が経つのを待っている。一刻の過ぎ去る早さ、遅さを享受するのみ。
あぁ金曜日である。土曜日である。日曜日はあまり好かんと。
只々呆けて、月曜である。
暇といふ存在しない時間を作成し、もっぱら他の馬鹿を眺め啜る、啜る。
あぁ、あぁ頭が悪い。己こそが誰も見下せない底辺であるといふのに。
心の内のみであるからまだましであると言い訳をする。
他人を傷つけてはいないと、己を沈めていることを見ようとしない。
なんて、なんて愚かなのだろうか。
昨日を忘却し、今日を眠り、明日といふ虚像を眺める。
なぜ誰も嗤ってくれない。
同情などいらんのだ。
頼む。嗤ってくれ。足蹴にして見下してくれ。
いや、嘘だろう。
一人じゃないと言ってほしいのだろう。
なんて、なんて馬鹿なのだろうか。
もうよそう。
己を言葉で嬲ってなんになる。
ただの、自慰である。醜悪だ。
あああぁ、人である。人であるのだ。
阿呆で愚鈍、馬鹿。
鏡に映る己の方が幾分かましであった。
臓物が見えない。
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