【随想】小説『グラスホッパー』伊坂幸太郎
ちょっと次何読んでいいか迷い始めてしまったので、
途中まで読んでいた伊坂作品でお茶を濁すことにする。
『グラスホッパー』
2004年の作品だ。
杉江松恋の解説を読むと、
この小説は「伊坂幸太郎が初めて書いたハードボイルド小説」であるらしい。
ハードボイルドってなんだろう。
なるほど。
でも読んだ感じ、ハードボイルドというより、
ブラッドシンプルやノーカントリーを見た感じに近い印象を持った。
そうそう、ノワール映画っぽいというか。
ん?ノワールってなんだろう。
うん。間違ってはいない。
殺し屋が何人も登場する話だから、ノワール小説だ。
いや、待てよ。
クライムノベルっていう説もあるぞ。
ハードボイルドを含む?
じゃあやっぱりハードボイルド小説なのか。
あれ。アウトローって言葉もあるな。
うん。アウトローでもある。
アウトローはジャンルではないか。
アングラは?
広義のアングラでもあるようだ。
もうなんでもよくなってきた。
オフビートでキッチュでナンセンスな小説でもいい気がしてきた。
登場する殺し屋のなかで、
特に印象的だったのは、ドストエフスキーの『罪と罰』を愛読(それ以外読んだことがない)する自殺専門の殺し屋「鯨」だ。
彼は、目を見ただけで、相手を自殺に追い込むことができるという特殊な能力の持ち主だ。
彼の目は、生きる希望をすべて吸いこむ底なしの絶望で、彼の目を見た人間はみな、自分の罪悪感に耐えきれなくなり、自ら死を選ぶ。
この辺りが伊坂幸太郎っぽい。
トリッキーな設定に鼻白んでしまうかと思ったが、普通の人間のなかに急に罪悪感が芽生えていく表現は、妙にリアルで引き込まれた。
そんな彼は、能力と引き換えに、
自殺させた人間の亡霊が見えるという幻覚症状に苦しんでいた。
亡霊は、彼にとっての罪悪感の重さを意味する。
彼は、自分の罪悪感に押しつぶされないよう、過去を清算しようと行動する。
確かに彼は「感傷や恐怖などの感情に流されない冷酷非情な人間」という点において、ハードボイルドだった。
だが、自らの感情や恐怖が亡霊として現れていてそれに左右されているのだとしたら、それははたしてハードボイルドと言えるのであろうか。
って、ジャンルなんてなんででもいいのだけど笑
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?