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追悼:ジョージ秋山!

マンガ家のジョージ秋山氏が、2020年5月12日に逝去された。昨日の6月1日午後、放送作家の長男・秋山命氏の次のツイートが Twitter のタイムラインに流れてきて、そのことを知った。

マンガ家、ジョージ秋山が2020年5月12日に逝去いたしました。新型コロナもあるので、告別式は家族にて行いました。創作意欲が満タンの中での出来事に本人が一番無念と思います。これまでの作品を再び、不変のメッセージとして残していきます。引き続きよろしくお願い申し上げます。長男 秋山命

ジョージ秋山の哲学

ジョージ秋山は、16歳でプロデビューした早熟の天才だった。彼が、20歳代後半で描き上げた『デロリンマン』・『銭ゲバ』・『アシュラ』の三部作は、「食」・「性」・「金」に依存せざるをえない人間の極限状況を突き詰めた哲学的な作品だった。

1970年になって、3月から週刊少年サンデー(小学館)に『銭ゲバ』を、8月から週刊少年マガジン(講談社)に『アシュラ』をそれぞれ発表し、それまでの作風からは想像もつかない露悪的ともいえる描写で人間の善悪やモラルを問い、世間の注目を浴びた。『アシュラ』第1話には飢餓から人肉を食べ、我が子までをも食べようとする女の描写がある。これを掲載した1970年8月2日号の『週刊少年マガジン』は一部地域で有害図書指定され、作者秋山にも取材が殺到し、一躍時の人になる。

ここに抜粋したウィキペディアの記事からもわかるように、彼の最終学歴は中学卒業だというが、いかに高学歴であっても視野の狭い学者などより、遥かに人間の「本性」と「限界」を考え抜いていた。

生前のジョージ秋山氏とは、まったく面識がないのだが、実は以前、ある編集者と飲んで話しているうちに、『ジョージ秋山のマンガで哲学する』という書籍の企画が出来上がったことがある。

彼のマンガの哲学を分析することによって、読者を哲学と倫理学のディベートに誘おうという企画である。それは、ちょうど私が『哲学ディベート――倫理を論理する』(NHKブックス)を上梓したばかりの頃だった。

仮にその企画が通れば、『ジョージ秋山のマンガで哲学する』という書籍が誕生していたはずだが、残念ながら編集長の段階で止まってしまった。ジョージ秋山の作品が「あまりにもエグすぎる」ため、読者から敬遠されてしまうかもしれないと編集長が判断したからである。

『浮浪雲』

ジョージ秋山の代表作は、何といっても1973年12月から2017年9月まで、44年間にわたって「ビッグコミックオリジナル」(小学館)に連載された『浮浪雲』である。この作品のジョージ秋山は、憑き物が落ちたように「人間のやさしさ」を主題にしている。といっても、どうしても極限状態を見つめてしまう彼の視線そのものに、変化はないのだが。

幕末の品川で「小事を気にせず、流れる雲の如し」と日々をおくる雲、おおらかすぎる妻・カメ、マジメすぎる息子・新之助、オテンバすぎる娘・花、さまざまな事情を抱えて苦悩する雲助たち、彼らを仕切る番頭・欲次郎、理想に命をかける尊王の志士と攘夷の武士、「人生に意味なし、ただ生きるのみ」と笑う渋沢先生……。

ネットで『浮浪雲』への読者のコメントを見ていたら、「浮浪雲1000話」を祝う宮嶋誠一郎氏のコラムを発見した。宮嶋氏は、滋賀県のシャフト部品会社の社長だということだが、とても気持ちのよい文章である。ジョージ秋山は、このような読者に支えられてきたのだということが、よくわかる。

……マンガ「浮浪雲」は、江戸時代の宿場町、品川で問屋を営む「夢屋」の主人、雲(くも)さんが主人公である。みんなからは「頭(かしら)」とか「はぐれ」とか呼ばれているが、道で若い女性を見かけると片っ端から「おねえちゃん、あちきとあそばない?」と声をかける。かと思えば、いざという時にはいつも右手に抱えている棒っきれで悪者を一撃でやっつける。いい加減のように見えてじつは強い。実に飄々、颯爽とした親方なのだ。

僕は「行雲流水(空をゆく雲や、流れる水のように自然なこと)」という禅の言葉が好きで、浮浪雲のようにものごとへの「こだわり」なく生きられたらいいなあといつも思う。でもそれも浮浪雲に言わせたら、「そんなむずかしいこと考えなくてようござんす」と言われそうである。それくらい「こだわり」がない。

……私たちは日々身の周りに起こる様々なことに一喜一憂し、喜怒哀楽すなわち喜び、怒り、哀しみ、楽しみに振り回されている。でもよくよく考えるに、「それでいいじゃないか・・・人間なんだから・・・」とも思う。

なんかあいだみつをさんのようになってきたが、「こうありたい」と願う理想と、「なんでこうなるの」という現実との間に挟まれながら、必死にもがき苦しんで生きるのが人間なのではないだろうか?

「浮浪雲」の境地には遠く及ばないが、これからも「浮浪雲」のファンでありたいと思う。

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