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著者が語る:『反オカルト論』<プロジェクト・アルファ>!

『反オカルト論』は、「非論理・反科学・無責任」な妄信を「欺瞞=オカルト」とみなす一方で、その対極に位置する「論理的・科学的・倫理的」な人類の築き上げてきた成果を「学問=反オカルト」とみなすという「広義」のスタンスに拠っている。

21世紀の現代においてさえ、「オカルト」は生き続けている。社会には「血液型占い」や「六曜」や「十干十二支」のような迷信が溢れ、「占星術」や「祈祷治療」や「霊感商法」のような妄信が跋扈している。さらに、「生まれ変わり」を煽る<医師>、「研究不正」を行う<科学者>、「江戸しぐさ」を広める<教育者>が存在する。その背景には、金儲けや権威主義が絡んでいるケースも多い。

本書では、「騙されない・妄信しない・不正を行わない・自己欺瞞に陥らない・嘘をつかない・因習に拘らない・運に任せない・迷信に縛られない」ために、自分自身の力で考え、状況を客観的に分析し、物事を道徳的に判断する方法を、わかりやすく対話形式で提示したつもりである。

その「第6章:なぜ因習に拘るのか」の「解説――プロジュクト・アルファ」には、次のような事件が登場する(pp. 225-231)。

一九七九年、マクドネル・ダグラス航空株式会社の会長ジェイムズ・マクドネルは、ミズーリ州セントルイスのワシントン大学に「マクドネル超心理学研究所」を設立するため、当時としては破格の五十万ドルを寄付した。彼は、科学技術者である一方で、超常現象に深く関心を持っていたため、この寄付によって「超心理学」を発展させようと考えたのである。

研究所の所長に就任したのは、ワシントン大学物理学科のピーター・フィリップス教授だった。彼は記者会見を開いて、とくに子どもの超能力を重点的に研究すると発表した。これに対して、全米から三百人近い応募者が殺到し、審査の結果、ペンシルベニア州の病院職員スティーブ・ショウとアイオワ州の学生マイケル・エドワーズが被験者として選ばれた。二人は、当時十七歳と十八歳だった。

その後三年以上にわたって、二人の少年は、研究所内外で実施された多種多様な実験において、凄まじい「超能力」を次々と発揮した。彼らは、「念力」によって、スプーンやフォークはもちろん、アクリル板に埋め込まれた金属片も自由自在に折り曲げ、密封ビン内部のヒューズをショートさせ、静電気防止材でカバーされたガラス・ドーム内部のアルミニウム回転翼を外から回してみせた。

研究所は、被験者のトリックを未然に防ぐため、手品師ウィリアム・コックスをコンサルタントに任命していた。コックスは、ボルトと南京錠で頑丈なテーブルに水槽を据え付けて「絶対にトリックでは破れない」密封容器を作製し、その唯一の鍵はフィリップス所長が首にぶら下げていた。

しかし、その翌日、二人の少年は、その容器内部の対象物を「超能力」で奇妙な形に折り曲げてみせた。スティーブは、コックスの設計した他の小型密封ビン内部のパイプ・クリーナーを、部屋の反対側から「念視」するだけで、人間の形に曲げてみせることもできた。これらは、すべて超常現象として記録された。

ところが、驚くべきことに、研究所の厳重な審査を経て選ばれた二人の少年が、実は奇術師ジェームズ・ランディの弟子だったのである。もちろん、二人の「超能力」も、すべてトリックだった。ランディは、この潜入作戦を「プロジェクト・アルファ」と呼んだ。

二人の少年は、研究員から「トリックではないか」と尋ねられた場合は、即座にその事実を認め、「ランディによって送り込まれた」と正直に答え、いっさいの責任はランディが取る約束になっていた。ところが、研究所の研究員は、最後まで二人の「超能力」を微塵も疑おうとせず、一度も問い質すことがなかったのである。

プロジェクト・アルファの開始直後、ランディは、フィリップス所長に、超能力実験に関する十一項目の注意事項を送った。これには、実験途中で被験者に最初の計画を変更させてはならない、逃げ口上の余地を与えることになるため被験者の気まぐれな要求に応じてはならない、実験の周囲の状況は厳密にコントロールされなければならない、などの項目が含まれていた。

しかし、最初の実験から、研究員らはランディの提案した注意事項を無視したため、被験者が実験を思い通りにリードすることができた。被験者は、実験条件が気に入らなければ、怒ったりかんしゃくを起こしたりもした。二人の少年は、自称超能力者ユリ・ゲラーがスタンフォード研究所の実験で取った行動に多くのヒントを得ていたのである。

若いが有能な手品師のスティーブとマイケルにとって、「超能力」を発揮することは、いとも簡単だった。透視実験の一種では、絵の入った封筒が被験者に渡される。被験者は、封筒とともに一人で残され、その後、封筒を実験者に戻し、開封の痕跡がないとの確認を受け、封筒に入っていた絵を当てる。二人の少年は、この実験で、かなりの成功を収めた。一〇〇パーセントでなかった理由は、少年たちが、成功率が高すぎると逆に怪しまれると考えて、故意に成功率を下げたからである。

手順は簡単だった。封筒は、数個のホッチキス針で留められていたので、それらを外して中身をのぞいてから、もとのホッチキス針の跡に、うまくホッチキス針を留め直したのである。マイケルは、実験中にホッチキス針を失ったことがあったが、それをごまかすために、実験者に対面した際、腹を立てて自ら封筒を破ってみせた。この種の実験内容の変更も、そのまま受け入れられてしまった。

研究所を訪れたミネソタ大学教授の物理学者オットー・シュミットは、二人に小型デジタル時計を渡して、超能力で変化させるように指示した。最初から完全に密封されている製品である。マイケルは、昼休みに、この時計を研究所から隠して持ち出し、セルフ・サービス式のレストランで昼食を取ったとき、それをサンドイッチに挟み、電子レンジにかけた。デジタル時計は完全に狂って、意味不明の液晶表示を始めた。シュミット教授は、これこそが「超能力のすばらしい威力」だと言って、マスコミに驚嘆してみせた。

ニュージャージー州のリハビリテーション・エンジニアリング国立研究所では、精神科医バーソルド・シュワルツが、スティーブを被験者とする実験を行い、膨大な報告書を作成した。彼は、スティーブにビデオカメラを渡して、周囲を撮影するように指示した。そのビデオテープを現像すると、いくつかのコマの中ほどに、奇妙にぼやけた渦巻が写っていた。

シュワルツは、それらの「渦巻」の中に、「動いている顔、キリストの顔、UFO、女性の胸像、乳首、胸、太腿、生まれてくる子ども」を発見して、詳細な精神分析を行った。その場にいた研究員らは、フィルムにそのようなものが現れた原因を「超常現象」以外とは思えなかった。ところが、実際には、その渦巻は、スティーブがレンズの上に吐いた唾だったのである。

後にランディは、次のように述べている。「プロジェクト・アルファが成功を続けたのは、研究員たちが、マイケルとスティーブを本当の超能力者だと信じていたからである。仮に二人が手品師として同様のトリックを使っていたら、これほどうまくやってみせることはできなかっただろう」

マクドネル超心理学研究所の研究員らは、「サイコキネート」なる新語まで創り上げるほどに、二人の少年の「超能力」を信じて疑わなかった。実験は、実験者と被験者が互いにリラックスした雰囲気の中で行われ、単純なトリックが「超能力」と認められて報告されるにつれて、さらに被験者が操作しやすい環境に変わっていった。

スティーブとマイケルは、電気関係の装置が、「超常的に悪いものを発散している」と主張した。これは、実験に一連の神秘的な雰囲気を盛り上げると同時に、ビデオ監視の可能性を最小限にするためでもあった。彼らは、二人とも、子どもの頃にある種の電気的なショックを経験して以来、自分たちの超能力に気付くようになったと話すことによって、電気装置を嫌がる理由まで注意深く解説した。研究員たちは、これらの主張を好意的に受け入れ、さらに「信念の泥沼」に深く入り込んでいったのである。

二人の「超能力」が『ナショナル・エンクワイアラー』紙で報道されると、少年たちは全米から「何トンもの手紙」を受け取った。マイケルは、次のように述べている。「人々は、ラッキー・ナンバーから行方不明の子どもについてまで尋ねてきた。根本的に、どのように生きていけばいいのかまでも、僕らに尋ねてきた。超能力の威力というのは、本当に狂気じみている。人々の人生まで、簡単に手中に握ってしまえるんだからね」

一九八三年、ランディはプロジェクト・アルファの全容を公表した。二人の少年は、すべてがトリックだったと公表された後にも、「自分では気付かずに、本当は超能力を使っていたのではないか」と聞かれたという。彼らは、超心理学者ばかりではなく、一般大衆が、どれほど超常現象を信じたがっているのかを知って、驚愕したと証言している。

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ランディのUCLA講演

ランディが「プロジェクト・アルファ」についてカリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)で講演した映像が YouTube にアップされているので、紹介しよう。

読者は、「プロジェクト・アルファ」について、どのような感想をお持ちだろうか? なぜマクドネル超心理学研究所の研究員は、いとも簡単に騙されてしまったのか? すべてがトリックだと公表された後でさえ、彼らの「超能力」を信じる人がいるのは、なぜだろうか?

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