1時間動かない「レノファ渋滞」を解決したい。 サポーターも巻き込むシビックテック
こんにちは。オープンコラボレーションハブ「LODGE」です。
DXの一つの手法として注目を集めるシビックテック(※)。市民の自発性が重要なカギでありながら、モチベーションの維持が難しいなどの課題も見聞きします。
ゴールにつなげるために、どんな仕組みや工夫が必要なのでしょうか。山口市で先日リリースされたサービスの開発メンバーにお話を伺いました!
※シビックテック(civic-tech):行政と市民・民間企業が一緒になって、テクノロジーを用いながら行政や地域の課題解決を目指す取り組みのこと
取材、文:Maiko Takeguchi(LODGE)
解決したいのは「J2ホーム戦の日の交通渋滞」
山口県は昨年、官民連携の会員制組織「デジテック for YAMAGUCHI」を立ち上げました。デジテック会員で構成する初のプロジェクトが、4月17日にリリースされたサッカーJ2 チーム「レノファ山口」のホームゲーム開催日の課題解決を目指した「駐車場情報サイト」です。
ーー はじめに、解決したい課題について詳しく教えてください。
原田さん
レノファ山口のホーム戦の駐車場は5つあり、休日夕方などの道路混雑が問題になっていました。ひどいときは1時間動かないこともあり、サポーターからも苦情が多い状況でした。レノファ山口の公式Twitterで駐車場情報を発信していましたが、改善されない状態です。
原田さん
まず、開発者と一緒に早いサイクルで何が作れるか?という視点から、私が咀嚼して課題設定しました。駐車場に着いても満車で停められないことがあると聞いていたので、事前に駐車場の空き状況が分かれば少しでも渋滞緩和できるのではと考えました。
バージョン0.1での実証実験では、「1つのページでまとめて情報取得したい」「駐車したサポーターが空き状況をリアルタイム投稿するとよいのでは」などの貴重な意見が集まりました。バージョン0.2では、UI改修と地図ルート表示、ユーザー投稿機能を追加しています。
まずはたくさんの方に投稿してもらいたいので、分かりやすいUIにして投稿の敷居を下げています。情報の精度を上げるために、人による感覚のバラつきや、入力タイミングによる誤差についても留意しました。
機能はとても好評です。リリース当日は300人以上の方に利用いただきましたが、Twitterでも反応が多く好意的に受け止めてもらっています。アンケートでは「このサイトのおかげで落ち着いて運転して駐車場まで向かうことができた」「まず最初にどの駐車場をあてにしたらよいか目安になります」「操作しやすい」など、嬉しいコメントをいただきました。
ーー サポーターのチームに貢献したい気持ちが入力&シェアする行動に自然に繋がるように思います。
原田さん
そうですね、ユーザーインタビューでも、レノファのことが大好きで良くしたい思いが強いと分かったので、ありがたく協力いただいています。レノファの運営リソースが無いなか、サポーターに協力してもらうのはとても自然なことじゃないかなと思います。時代にも合っていると思います。
ーー プロダクトは今後どのようなフェイズに入るのでしょうか?
原田さん
皆さんに入力いただいた投稿内容に試合日時、対戦相手、天候、開幕戦など当日の記録を掛け合わせて、将来はAIに機械的に予測させることを考えています。データが貯まるほど精度が上がるので、まずは皆さんに使ってもらいたいと考えています。
スカウトは一本釣り。「課題から考えましょう」では集まらない
ーー 次に、プロジェクトの進め方についてお伺いしたいです。西田さん、吉冨さんはどういった経緯で参加されたのでしょうか?
西田さん
僕はレノファのすごいファンというわけではなかったのですが、サッカー場の駐車場の課題があることは漠然と知っていました。ちょうどそれを解決しようとする取り組みということで、興味があり参加しました。
吉冨さん
自分もサッカーやレノファ山口にあまり興味がなかったのですが、ホーム戦の日の渋滞にはまったときがあり、山口市民としてなんとかしたい想いがありました。原田さんに声をかけられてプロジェクトに参加しました。
原田さん
「課題から考えましょう」では集まらないので、やることを決めてから誘いました。すぐ開発ができるぐらい具体的なもの、下書きやサイトのイメージ図などを作った上で声をかけています。デジテック for YAMAGUCHI発の先行事例にしたい思いもあり、メンバーは僕が一本釣りしました(笑)。
ーー レノファ山口、行政、運営、開発チーム、とステークホルダーが多いなか、どう役割分担したのでしょうか。
原田さん
私の立ち位置は「課題サポーター」。なぜ作るか?(Why)、何を作るか?(What)、もしくは作らないで済まないか?を考える、プロダクトオーナーの役割です。
開発チームは解決方法と戦術を考えます。アジャイル開発の成果物は私からレノファに伝え、フィードバック内容は隔週の開発会議で伝えました。
西田さん
今回は原田さんががっつりマネジメントして、チームをひっぱってくれました。きっちりタスク管理したのが、短期間でうまくいった秘訣だと思います。
原田さん
「お互い時間があったらやりましょう」ではなかなか進まないですね。情熱を持った人が最初にいて、プロジェクトが動き始めたところでコアメンバー、ボードメンバーが3、4名ついて、誰かがチェックして……という形がよいのかもしれません。
西田さん
従来の行政のやり方は、要件を作りこんでエンジニアに発注するウォーターフォール型が多いですが、意思決定者と技術者の間に入ってサービスをリードする人がいることが、短期間でシビックテックをうまく進めるうえで大事だと思います。
モチベーション高くやらなくてはならないシビックテックでは特に、スムーズに意思決定できる環境にあることが大事なのかなと思います。
原田さん
課題の設定や精査、裁量や予算面も含めて、エンジニアともっとオープンなコミュニケーションを増やして、頼ってもらいたいなと思います。そして、県やコミュニティで「この方針で行く」という強いリーダーシップがあれば、自治体の担当者や市長が変わったとしても、取り組みを持続できるのではないかと思います。
ーー 市の担当者が変わっても持続する、というところは非常に重要ですね。
原田さん
人がいなくなるのは至極当然な環境なので、自分依存にしない、ということはとても意識しています。あとから入った人にも分かりやすいよう議事録は全て残し、開発途中のものはGitHubにあげています。元自治体職員の吉冨さん、どうですか。
吉冨さん
まさしく僕も、2、3年ごとに異動して、県内をぐるぐるまわっていました。そのたびに紙で引き継ぎ書を作るのですが、作るほうも見るほうも大変です。内容が完全に引き継がれなかったり、やり方が人によって変わることも。ツールなどに残しておけば、引き継ぎ書自体も見やすくなるし、スムーズにいくんじゃないかなと思います。
「技術者じゃなくていいので参加してほしい」
ーーー これからシビックテックにトライする人に、アドバイスはありますか?
西田さん
いま時点で十分にスキルを持っている人じゃなくても、参加してよいというスタンスが大切なのではないでしょうか。一緒にプロジェクトを成功させる想いを持った人を集めることが大事だと思っています。
吉冨さん
私も気持ちの部分が大事だと思います。私自身はスキルが足りないながらも、地域のために何かやりたい気持ちだけで参加させてもらいました。技術が足りなくても課題に関わるうちに、本当の課題はそこではないのではないか?ということが見えてきたりもします。
原田さん
「技術者じゃなくていいので参加してほしい」という雰囲気を作ることは大事ですね。「お手伝いしたいです、何か出来ることはありますか」と気軽に声をかけてもらえるような、裾野を広げるような仕組みを作っていきたいです。
最初の立ち上げ時は強いリーダーシップで土台をしっかり作る、イメージが湧きやすいものを作って参加を募る、新たに参加してもらいやすい環境を作る……このあたりが重要だと思います。
西田さん
また、これは僕自身の体験ですが、シビックテックを「無償の開発」と解釈されるケースがあって……。チームへの関わり方、新たなコネクションなどもインセンティブのひとつになるので、これから取り組む方に対しては、エンジニアがそれに取り組むインセンティブについても、一緒に考えてもらいたいなと思います。
吉冨さん
「こういう効果があったよ」といったフィードバックが得られることも非常に大きなやりがいになりますね。自分はレノファファンじゃなかったんですけど、最近ちょっとファンになりました。それが今、インセンティブになっています(笑)
ーー 正直、シビックテックには「技術がある人だけが参加できて、対価は無償」……というイメージがありました。お話を伺い、「状況に合わせて丁寧なコミュニケーションを重ねて開発者へのインセンティブを考える」「シビックテックに参加できるのは技術がある人だけではない」「地域の課題は皆で解決する」といった部分が非常に印象的でした。サービスのソースコードはGitHubにて公開されているので、同じような課題をお持ちの方は是非ご利用ください!
関連サイト
▼「駐車場情報サイト」のオープンソース
▼山口県のプレスリリース
▼プロダクトの詳細はこちらで紹介されています