小説家の連載 妊娠中の妻が家出しました 第6話

〈前回のあらすじ:妻・華を探すためセルフィッシュ探偵事務所の支社に訪れた夫・浩介。担当者の三日月に事の経緯を説明すると、妻はネットで知り合った相手と一緒に居る可能性が高いと言われてしまい・・・。〉

 三日月の言葉に、突き落されたような気持ちになりながらも、浩介は勇気を振り絞って続きを聞いた。
「えっと・・・・でも、もしかしてネットの相手は同性かもしれませんよね。どうして男だと?」
 三日月は冷静に話す。
「奥様は今妊娠されてますよね?」
「えぇ、それが何か?」
「妊娠中の女性というものは、僕ら男が考えるよりもはるかにデリケートな状態になります。何でもあけすけに話すようなタイプの女性であっても、男には言えないような深い悩みを抱えていたりします。おそらく、浩介さんは奥様をかいがいしくお世話されていたと思われますが、それでも妊婦さんというのは、不安になりやすいんですよ」
「な、なるほど。つまり僕の努力とは関係無く、妻自身が問題を抱えていたと・・・?」
「えぇ、おそらく。一般的に男というものは、妻が自分の子供をみごもっていたら、お腹に自分の子供を守ってくれていると感じて安心すると言われています。しかし妻の方はそうではない。体調の変化やメンタルの変化もありますし、妊娠して体型などが変わってしまった自分を、女性として魅力が無くなったと感じる人も居ます。奥様もそのような不安があったのではないでしょうか。そこで夫にそのような不安を打ち明けられれば家出する事も無かったでしょう。だが、奥様は何らかの理由から、浩介さんに正直に不安を打ち明ける事をしなかった。ご実家のご両親や妹さんからそのような話を聞いていなかったという事は、血のつながったご家族にすら言えないような、何か不安や悩みがあった。このような不安や悩みに襲われた人間が取る行動は、だいたい一つです。ネットで不安をぶちまけるんですよ」
 ここで三日月はコーヒーを飲んだ。
「周囲に悩みを言えないと感じている多くの人が、周囲に言えないならネットでぶちまけようとする。世の中に病んだ書き込みが多いのはそのためです。孤独感を感じ、周囲には自分の事を理解してくれる人が誰も居ないと思い込む。書き込みがあまり無いのは書き込んでしばらくしたら削除していたんでしょうね」
「でも、どうして男だと・・・」
「世の中に居る家出少女の大半は、だいたい男性の所に転がり込む。それは性的な関係と引き換えに居場所を提供してもらうためだからですが、別にそうでなくとも、病んだ書き込みをする女性に返信やダイレクトメールを送るのは、圧倒的に男ばかりです。所謂話聞こうkerというやつです。奥様と一緒に居る相手が、家出の為の一時的な相手なのかどうかはまだ判りませんが、世の中には妊娠している女性に性的な欲求を感じる男も居ます。ですが、お話を聞く限り、奥様は自分の意志が強い女性だとお見受けしますので、たとえ家出という目的のためであってもそのような行動をとるとは思えません」
 また探偵はコーヒーを飲んだ。浩介は自分のコーヒーを飲む事も忘れ、三日月の話に集中していた。
「また、女性に限った話では無いですが、配偶者が突然離婚届を置いて家出する場合、だいたいパターンは限定されてきます。一つは溜まりに溜まった相手への不満が爆発する場合、もう一つは、離婚したい程好きな相手ができたから、というものです。お話を伺う限りでは浩介さんによほど非があるとは考えにくいので、奥様はネットで知り合った相手に惚れこんで、一緒になりたいと思っているのかもしれません」
 探偵の話に、浩介は動揺する。
「で、でも!三日月さん。妻は妊婦なんです。だいたい妊娠中に気が向くのは男の方ですよね。妊娠している女性が他に気が向くというのは、ちょっと考えにくいかと・・・そ、それに、妊娠していても妻とはスキンシップがありました。性的な欲求が有り余っているとは思えないのですが」
 最後の方の内容は自分でも言っていて恥ずかしくなり、浩介は顔が真っ赤になった。
 三日月はこれに対して反応する事も無く、さらっとした口調で、
「まあ確かにそうですよね。私としましても、奥様が本当に男性の所に転がり込んでいるという確証がある訳ではありません。まだお話を伺っている段階ですから。それにおっしゃる通り妊娠している女性が自ら積極的に他の男性を求めるとは考えにくいです。という事は、相手の男は新規で探してきた男ではなくて、前々から知っていて、何かあったら頼りにしようとしていた相手、という可能性があります」
「え、そんな・・・」
 妻は妊娠前から不倫をしていた?と考え浩介は気分が悪くなる。
「いえ、必ずしも男女の関係であるかどうかは判りません。単純にネット上の友人だったという可能性もありますから。いずれにせよ、これは詳しく調べる必要があります」
                             次回に続く

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