廻る家 4
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まだ日が沈むまでには時間があったから、海斗君と誠也はあえて遠回りになる道を選び、帰路についた。海斗君は分身がやってくることを想像し、ついでに、想像しない奴がいたらそいつは馬鹿だ、とさえ思った。だからきっと誠也も想像しているに違いないと考えて、隣を歩く誠也に話しかける。
俺自身が増えるってどんな感じなんだろうか
ちょっと気持ち悪いかもしれへんな
でも、一応機械なんだよな
分身って言っても、別に命の複製ではないってことやな
俺の分身が生まれた後、俺がすぐに死んだらどうなる?
さあな。海斗の分の人生を海斗の分身が生きるんとちゃう?そんで今現在この瞬間の海斗とは全く違う、海斗がなるはずやった未来の海斗の在り方に到達する、とか?
それは流石に嫌だな
ほな、もしもの時は僕が壊してあげるわ
一体だけ家族の元へ壊さず送ってやってよ
了解。僕の時も頼むわ。同時に死んだらどうする?
判断は家族に委ねる
なら最初からそれでよかったんちゃう?壊さんくてもさ
たしかに。じゃあ次は、もし分身が俺らを襲ってきたらどうする?
壊せばええやん。相手の方が強かったらそん時はもうしゃあない。
まあ、そうだけど。壊してこちらが生き残ったとしても、機械人形による暴行の責任は誰がとってくれる?
美術館か、彩月先輩の責任になるんちゃう?
今のところそうかもしれないけど、実際なんらかの問題が起こった時、世間の声は色々に分かれて混乱に陥るだろうし、どうなるかわかんないと思わないか?
まあ、確かに。不具合とか、幼児の人格でそういう行動をとったなら、責任は所有者である美術館、あるいは製作者である彩月先輩にあるって判断する人が多いやろうけど、どこにも不具合のない、成人済みの人格を持つ分身自身の判断でやったことなら、どうなるんやろね
一応相手は機械なんだから、罪には問えないだろ。無機物を裁くなんてできやしない
じゃあその人格の元となる僕ら自身の罪になるんか?
いや、製造したばかりならまだしも、互いに違う人生を歩むんだから性格だって段々離れていくもんだし、俺らのせいにはならないんじゃないか?そうじゃなくても、同じ人格を持っているのに片方だけが悪さをしたって事実自体が、悪さをしない未来もありえたことを証明してると言えるんじゃないか?なら、悪さをしない未来を選んだ俺らにはないなんらかの異常が向こうにはある、つまり俺らと分身は別物だって、主張できる
なるほどな。それか単純に、実は人間として扱われて、普通に罪に問えるとか?
人間として扱うなら人権とか戸籍とか、色々ややこしくならないか?
せやな。しかも相手を人間として扱うなら、簡単に壊したらあかんくなってしまう
たしかに。もし壊したら、俺らの方が殺人犯として捕まることになるかもしれない。
そもそも、十五体以内とか、個人でなく組織で管理すれば大丈夫とか、なんの根拠があって言ってるんやって話よな
まじでそれだよな
なんかそういうのに詳しい知り合い大学におらんの?
入学してすぐ休学したのに、いるわけねーよ。誠也こそ、なんか天才の友達とかいないの?
いるわけねーのはこちらも同じ。そもそも話し相手が海斗しかおらん
俺らってさ、全然青春してないな
青春してないからこそ、有名になっても過去のあれこれを晒されんくて済んでるんやで
まあ、たしかに。てか、不安なことばっか言ってないで、分身がいることの利点についても考えないとな
見学人に話しかけられる回数が分散される。いざとなったら助け合える。うまくやればif世界を再現できる。趣味が似てるやろから話し相手になってくれる。あとは……わからん。あんまないな、利点。でも、おもろそうかおもろなさそうかで言うたら、めちゃくちゃおもろそうやねんな
どうする?
ちょっと、お試し期間とか、設けてくれへんかな
そうだな。頼んでみるか
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