37 未来の地球と辺境の星から 趣味のコスプレのせいで帝のお妃候補になりました。初めての恋でどうしたら良いのか分かりません!
<その後 ナディアと颯介の番外編>
ロックスターの気の迷い(ナディア)
ヨレヨレのTシャツを着て、寝癖のついた頭のままの相手を私はじっくりと見つめる。
オーストラリアの高級ホテルのスウィートに泊まる若い男性の頭には、銃が突きつけられている。
私とこの男の共通点はいくつかある。若くして、自分の才能と努力で富を築いた点がまず一つ。私は作家で、この男はロック歌手だ。29歳の彼には世界中に熱狂的なファンがいる。世界各国でツアーを開催すれば、巨額のお金と人が動く。
二つ目は、おそらく服の趣味だ。互いに安価で気に入った服をひたすら着倒す傾向が強い。この男は、スウィートに似つかわしくない服装をしていた。それは私も同じだ。
三つ目は、私は本物の筋金入りのスパイだが、この男はスパイ業に足を踏み入れようとしていた。男は、まさに入り口に立っていた。男は、私と同じく疑われずに、世界各国を自由に移動はできる。
彼にはどの国でも常にVIPという称号が与えられた。セレブリティは写真は撮られやすい。どのくらい、他人の目を誤魔化すことに長けているかで、スパイに向いているか、向いていないか。それがまず分かれ道となる。セレブリティの自分を隠れ蓑に使えるかは、それは本人の資質次第だ。この男は、人の目を惑わすことに長けていた。私と同じくな。
しかし、総合的にこの男にはスパイとしての才能は無い。音楽の才能の方が遥かに秀でていた。
「今すぐ、スパイ業から身を引きなさい。」私は男に警告した。
「なぜ?あんたは誰だ?」男は私に聞いた。
私は完璧な変装をしていた。私が誰だか分かるまい。
「あなたぐらいのレベルで、この道に入るのは危険よ。」
私は言い放った。
「いい?私は常にあなたを見張っているわ。スリル欲しさに危ない橋を渡るのは今すぐやめることね。」
私はゆっくり言った。
「さもないと、あなたの命はないわ。」
私は冷たい口調で男に言った。
私は指にフッと息を軽く吹きつけた。私が素早く蹴り上げた、男の床に脱ぎ捨ててあったトレーナーが宙に舞い、一瞬で火がついた。そして左手の氷の光線で一瞬で火が消えた。
「なんだ?今の?」
男の額に汗が吹き出し、男はうろたえた様子で言った。
「ね?あなた、こんなことできないでしょう?あなたの踏み入れる道に、あなたの勝ち目はないわ。」
私は冷たく笑って言った。
「額に汗水垂らして、真面目に働きなさい。歌であなたは世界を救うの。」
銃をグッと男の頭に押し付ける。
「いい?決して、今いる道から外れてスリルを追いかけてはダメよ。話は断りなさい。」
私は男にくり返した。
「わ、わ、分かった。断る。俺は歌だけやる。」
男は早口で言った。両手を広げて降参のポーズをしている。
「今日のコンサートには、何人来るの?」私は聞いた。
「10万人の予定だ。」
男は言った。
「そうよね。私も楽しみにしているわ。あなたの音楽のファンよ。だから、あなたを殺したくはないわ。」
私はそう男に言った。
「分かった。俺は歌を世界に届けることだけに集中するから。」男は言った。
私は、静かに銃をしまった。
「私に銃は要らないわ。あなたがどんなに遠くにいても、この力であなたを狙えるわ。」
「でも、あなたが歌だけに集中するなら、私はあなたを守ってあげるわ。」
私は男に約束した。
「ありがとう。」
男はかすれた声で言った。ちょっと涙目になっている。
坊やが慣れない世界に遊び半分で足を踏み入れようとするからよ。
「じゃあね、ずっと見ているわ。」
私はそういうと、バルコニーから飛び出した。いつものようにバルコニーから侵入したのだ。
私は屋上に壁を駆け上がり、待っていたヘリに乗ってホテルを後にした。
さあて、今日のコンサートが楽しみだわ・・・
男の名前は、ロンドサ・ザッキース。世界最大の動員数のギネス記録をそのうち破るのではないかと言われているロック界のスーパースターだ。
私の名前はナディア・ストーン。世界最高を自負するスパイだ。
なんでミラン?(颯介)
俺は、夜勤明けにあくびをしていた。
昨晩はシステムの更改対応で、ほぼ全システムの担当者が徹夜だった。やっとの思いでなんとか無事に切り抜けることができた。
朝になり、各ファンドの値が決まり、特別勘定を繰り入れたファンドは正確に値を叩き出して、契約単位の保証金額を正確に算出していた。コールセンターの画面にも正しい値が表示されている。客がいつ何時問い合わせても、正しい値が表示される正常状態を示していた。
俺はゆっくりと伸びをして、フロアの6階を歩いていた。これから帰宅して、家でゆっくり寝るのだ。
カバンを持った手が誰かに当たった気がして、はっとして、寝ぼけた目をこする。
「あ、新城さん!」女性がが言った。
俺は慌てて振り向いた。
それは憧れの田中さんだった。(まさみだね)
あ!と心臓が嬉しく跳ね上がった俺は、目をこすりながら、田中さんの後ろに誰かいるのに気づいた。
燃えるような赤毛のまだ十代の子供だ。
「え?ミラン!」俺は思わず叫んだ!
眠気が一気に吹き飛んだ。
「なんで、ここにいるの?中世ヨーロッパにいるはずじゃ・・・。」
俺は田中さんが聞き耳を立てているのに気づいて、思わず口ごもった。
週末の徹夜作業で幻覚を見ているような気もするが、間違いなくミランだとどこかで分かっていた。
なんで?なんで?今の日本にミランがいるんだ?
俺の頭の中はパニックになった。
田中さんには、中世ヨーロッパの伯爵と村の子供たちのことも、数億年先の帝国を治める帝とそのお妃候補の沙織さんを一緒に救ったナディアのことも、アラブの王子アッバスのことも秘密だった。
そう、俺と憧れの田中さんはLINEを交換して、時々やりとりはできるようになっていた。だがそんなに近しくはまだなっていない。
そうでなくてもあの冒険のことは秘密だ。田中さんには話すつもりはなかった。チームナディアのことは俺の大切な秘密だ。
龍者の実の粉も、松明草の粉も、トラビコンの粉も俺は毎日持ち歩いていた。いつ何時、何があるかわからないからだ。
しかし、今、実際にゲーム出会った中世ヨーロッパにいるはずのミランが目の前に現れると、俺の心拍数は跳ね上がった。変な汗が吹き出してきた。
「ミラン、どうしたんだ?何かあったか?」
「颯介さん、大変なことが起きた。」
とても弱った表情でミランはそう俺に言った。
「この子供は誰ですか?」
田中さんが俺に聞いてきた。(まさみだね)
「田中さん、僕の知り合いの子なんです。すみません。」
俺はそう言うと、素早くミランの手を引いてエレベーターのボタンを押した。頼む、早く来い!
エレベーターが到着する時間が永遠に感じられたが、8台あるエレベーターのうちの一つがやっと6階まで到着した。朝早い時間だったので、幸い無人だった。
「田中さん、じゃあ、また!」
俺はそう田中さんに言うと、ミランの手を引いてエレベーターの中に乗った。
「どうしたの?」
俺はエレベーターの中で二人きりになるとミランに言った。
「助けて。」
ミランはそう言うと、燃えるような赤い髪を怪しく光らせて、何か呪文のようなものを唱えた。
何語かさっぱりわからん。
俺がそう思った瞬間に暗転した。
あー、ゲームに呼ばれた。
俺が思った時、目の前には見たこともない景色が広がっていた。
どこだ?いつの時代だ?
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