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学会遠征編ショート版 第50話(最終回) 閉幕

学会遠征編

 小腹が空いたのでいくつかパンを買った。ふんわりした食感と小麦の香り。パン屋さんというのは通りかかると必ず目を奪われるため、僕はこれをトラップカードと呼んでいる。長蛇の列だったが、少しも苦ではなかった。他にすることはない。いつもなら本屋さんによるところだったが、己の体力を鑑みて帰宅することにした。そのころには雨もやみ、地下鉄を出た後も歩きやすかった。

 帰った!帰ったんだ!とりあえずもう一度シャワーを浴び、衣類をすべて洗濯機に放り込んだ。夕方から干しても乾き切らないかもしれないが、大洗濯大会の幕開けである。すべて干した後はまたしばらくベッドのお世話になった。このベッドの暖かさが自宅のいいところである。飛行機よりも、空港の長いすよりも、新幹線の席よりも寝心地がいい。もちろんホテルの方がベッドの質は良かったが、安心感という点ではこちらが勝っている。ただの睡眠欲を満たすだけがいかに幸福なことなのか、今一度知ることとなった。
 本日すべきことはもう一つある。それは、現在北海道に帰省中の彼女を回収することだ。ちょうど今日名古屋に戻ってくる予定である。21時過ぎに空港に到着し、22:30頃に金山駅まで名鉄でやってくるというプランでいるらしい。本来僕は武人と夜を食べ、22時ごろに新幹線で名古屋まで来る予定だったのだが、このイベントはスキップしたので22時過ぎに金山に行けばいいということになる。しかし事はうまくいくばかりではない。ちょうど21時頃に常滑あたりで電車が止まってしまい、彼女が空港で足止めを食らってしまったのだ。僕も金山で暇を告げられたということになる。小腹が空いていたので、どこか飲食店に入ることにした。とはいってもこの時間から入店を受け入れてくれるところなどあまりない。飲み屋に入ってもいいが、できればすぐに出られるところがいい。となれば選択肢はファミレスなどに絞られる。このあたりで深夜もやっているところと言えばデニーズかサイゼリアくらいだ。デニーズの方が営業時間が長いようだが、今日は何となくイタリアンを食べたかったのでサイゼリアにした。もうこの時間となっては、補導まっしぐらの高校生くらいしか店内にいない。心置きなく独りルネッサンスした。改めて実感した。
「美味しさは値段ではない。オリーブオイルだ。」
サイゼリアが教えてくれたことだ。30分くらいして外に出た。夜は少し寒いので、できれば室内を歩きたい。
 彼女の方は、電車の代わりのバスが手配されているようで、それの順番をひたすら待っているようだった。いったいいつまで待たなければいけないかわからず不安に思っているようだったが、終電には間に合いそうだから安心してほしいと説いた。不安だったら電話してきても構わない。とはいえ、常滑から名鉄に乗ったとしても、金山までは30分くらいかかる。これは即ち、まだあと30分以上は待たないといけないという意味になる。困ったものだ。もうサイゼリアは閉店の時間だ。いっそデニーズに行こうか、漫画喫茶なら手軽に時間がつぶせるとも思ったが、熟練の放浪研究者の僕が出した結論は、「金山をもう少し徘徊する」だった。僕はハンターハンターを5巻までしか読んでいないので漫画喫茶も気になったが、こういう静けた街を歩くのも悪くはない。まずは名城線直通を謳う飲食店街を練り歩いてみたが、見事にほとんど閉店していた。なぜ今頃こんなところを歩いているのかと、店じまいする店員さんに睨まれた気もするが、不審なのはこちらなので悪いことだとは思っていない。昼間は賑わうアスナルも、もう自分の足音が聞こえるくらいに暗く静かである。何やってんだ自分、とようやく我に返ることができた。そこからは名鉄線の改札口あたりでただじっと待った。
 彼女とは合流できた。帰りの地下鉄も余裕をもって乗ることができると思ったら、次の電車が終電だというアナウンスが入った。危ないところだった。帰省用のリュックには、いろいろなものが詰まっているようだ。まずは道内を歩く用のブーツ。歩くためにわざわざ別の靴が必要というのは、僕の常識には無くて驚いた。確かに、あちらはまだ雪が降っているので全然あり得ることだ。その他にも暖かそうな、いや暑苦しそうな防寒具も持っていた。お互い数日間いた場所の温度差が激しすぎる。それ故それぞれの話が新鮮で盛り上がる。家に帰ってお土産を交換し、それぞれの数日間について語り合おう。僕は何から話そうかな?

~完~

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