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【小説】命を燃やす我が子

 また手から命が溢れていく。命が溢れていく音がする。決して知らなかったわけではないが、命も時間も有限だ。いつからそれが無限だと勘違いしていたのだろうか。いや、きっと人はそれを失う時に初めてその価値を発見するのだ。

 今から約5年ほど前、僕の体はひっそりと傷ついていて、痩せ細っていた。1週間を300kcalで動く低燃費さには、おそらく宇宙にあるどのエネルギーだって勝てない。むしろ食事は拷問のようにさえ感じたものだ。僕にとっての食事とは、少量であれば趣味で、一定量は義務で、許容を超えると拷問だ。だから根源的に趣味と拷問は量的な差異しか存在せず、根本的には何も変わらない。
 でもある時、その原因究明のためお腹を割いてみると、だいたい40週間前から小さな子供がいたと言う。これまではただの食いしん坊であったが、今はたまに悪さを働いていた。そしてこの子が成長するほど僕の体は軽くなった。だが不思議なことに、そんな不出来な奴であっても自分の子供は愛しいものだ。不格好で不良でも根本的に幸せを願ってしまう。だが、僕はこの子を躊躇なく殺めた。この子が幸せに生まれる未来はきっとあったが、それを許せるほど僕は母親にはなれなかった。
 そしてつい最近、約2ヶ月くらい前の梅雨入りの時期、丁度ランニングをして家に着いてひと段落ついた時、咳から我が子の出血を見た。その時は驚いたよ。というのもそれは我が子との再会の前兆であるから。僕は今度こそちゃんと母親になれるのかな。

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