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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の四

※其の三からの続きです。気軽にお付き合い下さい。




 「「「ありがとうございました!!!」」」

剣道は礼に始まり礼に終わる。武道の精神、あり方だ。今日も1日の練習が終わり、ホッと一息つく。1年生の私は剣道具を一旦端に置き、すぐに道場の清掃に移る。その間、上級生は先生方と今日の稽古の反省や、鏡で反復作業を確認する。下級生は徹底的に雑用作業をこなす。

(練習はキツイんだけど、終わった後の雰囲気は好きなんだよな)

上級生の指導で1年生は駒のように動き回る。だが、世間で言う上級生のイジメやシゴキがないのが総武学園この剣道部の良いところ。

「ほ~~ら~、雪代ゆきしろ~、ここ! ここ! 汚・れ・て・る☆」

2年生の青木里佳子あおきりかこ先輩と今里奈緒美いまざとなおみ先輩。

「はい~、はい~、急いで~、急いで~、私たちも帰れなーい!!!」

同じく2年生の渡部早百合わたなべさゆり先輩。この3人の先輩方が1年生の指導係として今日まで面倒を見てくれている。3人とも実力者だ。

「おぉ~~っしゃーー! 先輩! 終わりました!!」

目立ちたがり屋の宗介そうすけが練習後も張り切って掃除を頑張る。

北馬ほくば! お前、ちゃんと拭いてんのか? 適当すぎだろ!!」

男子の先輩方にからかわれ「すいません」と謝る宗介。まぁ、練習が終わればこんな感じの雰囲気だ。

(……はぁ。ようやく着替えられる)

上級生の着替えが終わり、お疲れ様でしたの号令が飛び交う中、最後にようやく1年生の私たちも着替える。

「……おい」

ひかり以外の1年女子とはまだ馴染んでいないのだが、低く重い声が私に向けられる。

「……なに」

もの凄い目で睨みつけてくる2人の1年女子。

「なにじゃない! お前! なんだよ! あの体たらくな稽古は!」

恨みでもあるかのような言いぐさで、2人は私に迫る。

「……だから、いつも言っているでしょ。私はあの程度だって」

このやり取りも5回目くらいになると飽きてきた。血相を変えた顔が怖いので、ぐいと押し返す。

「ふざけるな!! 貴様!! あの雪代響子ゆきしろきょうこがこんなレベルなわけないだろ!!!」

稽古終わりのユルフワな雰囲気はどこへやら。毎回のように稽古が終わって着替えの最中に私は詰め寄られる。

「そうだよ! あたしはお前に負けて、今度こそ高校でやっつけてやると息巻いていたのによ!」

あー、そうですか。それは結構なことで。

「貴様!! よくも抜け飄々と私の前に現れたな!! 叩き切ってやる!! 今、ここで!!」

目がマジなんですけど。いや、怖い怖い。助けて光ちゃん。そろそろヘルプなんですけど。

「ま、まぁまぁ! 縁あってチームメイトになったんだし! 仲良くやろうよ! ね!」

光が間に入って制してくれるが、この2人。八神蓮夏やがみれんか藤咲莉桜ふじさきりお。中学時代からしのぎを削って、大会では競い合ってきた宿敵ライバル。特に藤咲とは中学時代、雪代か藤咲かと言わていたほどだ。

(……んもぅ。めんどくさい連中と同じ高校になったなぁ)

顔に露骨さが出てたのか、2人の怒りは収まらない。

「おい! 藤咲! あたしはお前も倒すと決めてんだからな! そこんとこ忘れんじゃねーぞ!!」

八神が今度は藤咲に指さす。

「ふん!! 雪代こいつに手も足も出ないお前が私を倒すなど、10年かかっても無駄なことだ!!」

すかさず藤咲は八神に言い返す。

「んだと! このやろー! もう一度おかわり稽古やんか!!」

喧嘩が絶えない……。

「……ねぇ、お腹すいた。蓮夏、帰ろうよ」

チョイチョイと八神の裾を引っ張って注意を自分に引き付ける。

「んっ!! あぁ……。古都梨ことりか。チッ! そうだな、帰るか」

八神が冷静になったので、ニコッとして場が少し和む。こいつは日野古都梨ひのことり。どうやら八神とは幼馴染らしい。

「……ったく。嫌いな奴がなんで2人も同じ高校の部活にいんだよ」

捨てセリフを吐いて八神は日野と一緒に更衣室を出ていく。道場を出るときは一礼をしていくのは、どんなに頭に血が上ってても忘れることがない。特にこの2人は適当に礼をするのでなく、真摯に数秒間頭を下げてから道場を去って行く。

(……そういう所は流石だな)

次いで藤咲も礼をして道場を後にした。

「なんか、すげー怒号が今日もしたけど、また何かあったのか?」

男子も着替え終えたのか、宗介が残りの2人の1年男子と一緒に出てきた。

「ううん。なんでもないよ。さぁ、鍵かけて私たちも帰ろう!」

光が笑顔で答える。高校で剣道を復帰して、やっていけそうな自信も少しずつ戻ってきた。だが、チームメイトと上手くやれる自信はこれっぽっちもない。ともあれ、今は光や宗介と一緒に剣道を楽しんでやれればそれで良い。そんなことを思いながら過ごす日々。

(あの雪代響子、か……)

5月も終わろうとしている夜の空は、少しだけ曇っていた。


                 続く


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