憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の三
※其の二からの続きです。気軽にお付き合い下さい。
剣道部に入部してから私の高校生活は一変した。部活動は週に6日。月、水、金曜日は朝7時からの朝稽古。夕方は土日を除き16時半~18時まで練習。土曜日は練習試合や出稽古。唯一の休みが日曜日も試合がある時は当然出動。もう私の青春は剣道と一体化したと言って良い。
(結局、剣道辞めなかった自分が悪いよね)
私は一度剣道を辞めた。中学3年で全国大会へ出場し、その後いろいろあって嫌になり辞めた。竹刀も剣道具も捨てようと思ったが捨てられなかった。
「ほらっ!! 雪代!! 元気ないぞ!!」
先輩に発破をかけられ更に気合を入れなおす。
「イヤァァーー!! メーーン!!!」
なんとなしに入学した総武学園高校。適当に高校生活は過ごすつもりが、私はもう一度竹刀を握っている。
(練習、きっついな、もぅ……)
「メン! メン!! メン!!!」
そう。光に会うまでは。
「雪代さん、ハァ、ハァ、凄いね……。もう練習慣れたんだ」
面越しに苦痛な顔を浮かべるも、その充実した真っすぐな瞳がいつも眩しい。
「……ハァ、ハァ、いや。きっついよ! 半年以上も剣道やってなかったし」
入学して早々、私は光に話しかけられた。中学での私はボッチでいたので嬉しかった。だが、光は剣道をやっていた。そして、私も中学では剣道部だった。普通の友達が欲しかった私は複雑だったが、しばらくは仲良く過ごした。
「はい、次! 二人一組で技の稽古!! 大事な試合前だから1年生は1年生同士で組むこと!! 上級生レギュラーは試合のつもりで打ち込むこと!! ほらっ!! ダラダラしない!!」
女子顧問の先生で、担任の先生でもある宇都木琴音先生が今日も厳しく指導する。ササッと並び、私は光と組む。そして技の稽古の練習をする。
「ヤァァーー! コテッ!! メーーン!!」
光が真っすぐ丁寧な二段打ちを打ち込んでくる。
(私に憧れているとか言っていたけど、光も十分強いな)
光と友達になって、話すことと言えば剣道のこと。正直、最初こそ軽く話していたが、その熱意は本物で、私はだんだん光のことがウザくなった。
「1年生は構え、足さばき、打った後の打突。もっと意識して! 中学までの剣道はもう卒業よ!!」
身振り手振り、こちらも熱く指導をする琴音先生。
「コテ!! ドォォーー!!」
光の剣道は性格がそのまま出ているようだ。そんな光にある日、我慢できなくなった私は絶交覚悟で剣道の話はするなと言い放った。
「……? ほらっ。雪代さんの番だよ」
「……あ、あぁ。ごめん」
それ以来、光とは距離を置くようになった。どことなく悲しそうな顔をしていた光。つい最近までのことだ。
「コテ! メーーン!」
チラホラ考え事をしていたので、技に切れと迫力がなく私の打ちは適当になってしまった。
「ほらっ!! 雪代!! 1本1本を大事にしなさい!!」
琴音先生の叱咤激励の声が道場に響く。
「キャプテン! 高橋!! 一旦集合!!」
3年生女子の高橋主将に琴音先生は集合するよう呼びかける。
「集合!!!」
「はい! !! ! !」
マズい……。返事がバラバラだ。
「合ってない!! もう一度!!!」
琴音先生の声が大きくなる。高橋主将が睨めつけるように1、2年生の方を見る。
「集合!!!」
「「「はい!!!」」」
全員息をピッタリ合わせて素早く集まる。そして琴音先生の言葉や指導を待つ。
「いいっ!! ただ打ち込むんじゃなくて…………」
担任の先生がまさかの剣道部顧問。思えば琴音先生との出会いも運命的だったと思わざるを得ない。中学の全国大会で私はベスト8まで勝ち進み、前評判では優勝もあると周りからは言われていた。そんな成績を剣道部顧問で担任である先生が知らないはずないわけない。絶対に剣道部へと誘ってくると思っていた。
「一つ一つの動きを大事にすること。全員、良いものあるんだからね。いいっ!!」
だが、琴音先生は私に剣道の話を一切してこなかった。それよりも、私と光の関係をよく見ていた。私が光に絶交宣言をした以降、私にも元気がなくなり、授業もまともに聞かなくなっていた。
「雪代!」
「は、はい!!」
光同様、琴音先生の目も真っすぐだ。直視するのをときどき躊躇う。なによりも美人で大人な琴音先生は、生徒からも人気が高い。
「もう少し元気よく。ねっ!」
このフッとした表情にやられる。厳しいだけでなく、優しく周りをよく見て、生徒1人1人丁寧に接する。それは部活だけでなくクラスでも同じだ。
「雪代!! 返事!!」
高橋主将に言われて、我に戻る。
「は、はい!!!」
剣道を辞めるつもりでいた。でも、剣道を嫌いになったわけじゃなかったようだ。中学時代の剣道部がどうしても脳裏に焼き付き、トラウマまでなってしまっている今の私。それを高校で光と琴音先生に出会い、もう一度剣道をやってみようという気持ちにまでなった。そんな私の剣道部での毎日。このまま順調にやっていければ良いなと思うものの、そう順風満帆にいくはずもなく……。
続く
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