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憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十

※其の十九からの続きです。気軽にお付き合いください。




 藤咲ふじさき相馬そうまの取り巻きの1人が先にやり合ってしまった。藤咲に掴みかかろうと突っかかるが、距離を取り、冷静に見切って間合いを取る。無理やり襲い掛かろうとすれば足を掛けて転倒させる。こんな状況でもさすがだなと思っていられるほど、私も良い状況ではない。

「ねぇ、やめない? 明らかにそっちが悪者だと読者さんたちも読んでて思っているよ」

とりあえず説得を試みるが、白けた顔で相馬は私の意図も思わない。

「暴れたいだけなら他でやれ! こっちは練習控えてんだ!」

八神やがみも言い放つが、まだ引く気はなさそうだ。

「どうするかな~、四日市よつかいちをやるだけだったのに、お前らが勝手に絡んできやがったからなぁ」

面白くなさそうに髪を結びなおす相馬。

(こいつ……)

どうにも相馬こいつに違和感を覚える。今の時代、不良を気取るならもっと気を抑えるし、そもそもこんなに表だって校内で暴れたりしない(本人たちは隠しているつもりだが)髪の毛も校則違反スレスレの長さや色だし、なにより相馬こいつの目。

(ストレートに言ってやるか)

そんなことをこんな状況でも考えている私も喧嘩などしたくない。すると藤咲に絡んでいた奴が叫ぶ。

「相馬! 四日市やるだけじゃねーのかよ!! こいつら意外と喧嘩慣れしてんぞ!!」

ひかり日野ひのはともかく、藤咲や八神はこういう状況でも慌てたり、ドタバタしない。私もだが、運動部はいざとなればこういう状況を治めなければならない。ちょうど良いタイミングでチャイムが鳴りだした。

「……まぁ、四日市はボコしたし。今日は引き上げるか。おい、行くぞ!」

去り際、最後に相馬と私は目が合う。

雪代響子ゆきしろきょうこ。案外、肝っ玉座ってんだな。これで終わりにするつもりはねぇからな」

ギンとした目で睨まれる。

(厄介な連中に目をつけられたな)

とりあえず場が収まりホッとする。だがしかし。

「だ、大丈夫? ……えっと、四日市、さん?」

光と日野が倒れこんだ四日市を介抱する。

「ひどい、ハンドクリームで、顔がベトベト……」

日野がそのままハンカチで顔を拭いてあげた。髪もボサボサ、制服はドロドロ、むせ込みながら右肩を押さえて、ゆっくりと四日市が立ち上がる。

「……お前ら、剣道部か。余計なことしやがって……」

開口一番捨てセリフを吐く。

「……助けてくれなんて言ってないからな。くそっ……」

悪態をつく四日市。さすがにこのような状況を作った本人が言えば、私たちも面白くはない。

「おい! 私たちにも迷惑かけておいて、その言いぐさか」

藤咲が面と向かって四日市に言い放つ。

「……私はまだやれんだぞ。お前ら4、5人ぐらいぶっ飛ばしてやるよ!」

ヨタヨタなくせして強がる。不意にそのまま八神に掴みかかった。

「なっ! この! やめろっ!」

余力がないのにまだ喧嘩しようとする。さすがに私の我慢も限界にきた。バチン!と四日市の頬を思わず叩いた。勢いのあまり四日市は倒れ込む。

「いいかげんにしろ! 昨日から関係のない私や光も巻き込んで、今度は勝手に剣道部を標的にする。四日市おまえ! 中学元剣道部だろ? 恥ずかしくないのか? 千葉県大会準優勝までする奴が、そんな成れの果てまで落ちぶれて」

事情を知らない他の仲間はシーンと黙って私の言葉を聞く。

「……う、うるせぇ。剣道の、話を、するな。私の前で、剣道の……」

四日市こいつにどんな事情があるかは知らない。だが、並々ならぬ執念で立ち上がる。力なく、もたれかかるように私の胸ぐらを掴む。

「剣道の、話を、するんじゃねぇ。……私は、剣道を、あいつ・・・を潰しちまった。だから、剣道なんか、もう……」

ゆっくり顔を上げる四日市。

「……お前」

目には大粒の涙が流れる。

「見てんじゃねぇ! バカッ! はぁ……はぁ……うぅ……くそっ」

嗚咽を漏らしながら壁をつたって去って行く。さすがに私たちはこれ以上、何も言わなかった。いや、何も言えなかった。

「……大丈夫? 雪代さん」

光が心配そうに私の顔を覗き込む。

「……行こう。早く掃除しないと、先輩たちが来ちゃう……」

先ほど藤咲が開けようとしていた道場の鍵を私が開ける。

「……? どうしたの? 早く掃除始めようよ」

みんながついてこない。一歩引くように私を眺めてその場から動かない。

「ねぇ、突っ立てないでさ、みんなどうしたの?」

八神が礼をして、ようやく道場に入ってきた。

「お前も……。あんなことするんだな」

意図したことがわからなかったが、日野が続いて言葉の意味を理解する。

「雪代、ちょっと怖かった……。あの時・・・の、雪代みたいだった」

あぁ。そういうことか。藤咲が横に立つ。

「なんだ! さっきの目や鬼気迫る気迫は。やはり普段のお前は手を抜いているな!」

面白くなさそうに言って藤咲は進んでいく。最後に光を見やる。

「う、うん。私もちょっとびっくりしただけ。普段の雪代さんのイメージとかけ離れていたから」

そういえば久しぶりに腹が立ったし、心の底から体に力が湧いてきたな。

「……ごめん。手荒い真似はあまり好きじゃないんだけど」

そんなことを言って、どうにか先輩たちが来る前に掃除は終わらせた。その日の稽古はやけに調子が良く、1年女子と地稽古した際は、ほとんど打たれることはなかった。


                 続く



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