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こだわりのタイム ~都大会 最後の挑戦~

※前回より続きです。気軽にお付き合いください。



 都大会のことを気にしながら、1学期期の末試験はあっという間に終わった。中学3年生の1学期の成績というのは超がつくほど重要。もちろん試験も頑張ったが、結果は平均的な数字で、成績も体育だけは『5』。後は……。恥ずかしいから言わせないで。まぁ、平均と言ったので想像は容易いでしょう。そして、都大会まであと1週間。おそらく、これが本当に最後の大会だ。着替えてグラウンドへと向かう。

志保しほ!」
奈織なおりー!」
野乃花ののか~!」

引退したはずの友達の姿がグラウンドにあった。

「あれ、山田さんたちどうしたの? この間、引退したんじゃないの?」

野乃花が率直に聞く。

「うん。まぁ、ね」
「言って、都大会まであと1週間だろ?」
「私たちも、最後まで志保たちに付き合おうかなって」

都大会に出場する私たちのことを、最後までサポートしてくれるらしい。

「ほらっ。男子連中も」

斉藤さんが指を指す。

「おーい! 走れ走れー」
「そんなんじゃー、来年も予選落ちだぞー」
「阿部ー、園部ー。1年に笑われてんぞ」
「俺たちみたいに惨めに終わるか、おい」

男子が後輩の面倒?を見ている。

「あいつらは後輩いびっているだけだろ。ポンコツのくせして」

奈織が呆れてため息をつく。私は期末試験が終わったら、直ぐに病院で検査をした。鈴木先生から再度問題なしの診断書を書いてもらい、こうして最後の大会へと準備をする。1日1日の練習時間を大事に、しかし、走るごとに調子は上がっている。

出木いずるぎーー。最後追いこめーー。山門やまとーー。腕を振れー、腕をーー。多屋たやは重心低く意識しろーー」

すみ先生から最後の指導を受ける。これまで何度も何度も言われてきたことだが、毎回新鮮に感じる。本当に石館中ここで良い指導者に出会えた。1週間の練習時間はあっという間に過ぎ、三羽烏わたしたちは都大会当日を迎えた。

(……いよいよか)

7月の下旬で、日差しが強い。軽くウオーミングアップをするだけで汗が出る。奈織や野乃花も緊張した面持ちで体を動かす。

「志保先輩! 水分補給しっかりしてください!」
「山門先輩や多屋先輩もです!」

後輩の前野まえの小木おぎが私たちの体調を気遣ってくれる。今日は陸上部員全員が応援に来てくれた。去年まではバラバラだった石館いしだて中陸上部も、この1年で団結力は増して、今では三羽烏わたしたちを中心に都内からも注目を集めるようになった。私は最後の最後まで力を出し切る。怪我は言い訳にできない。

「ほらっ! 志保! 気負いすぎ!」
「志保は案外、一番わかりやすいよな!」
「奈織や野乃花も頑張って!」

山田さんにポンッと背中を叩かれ、斉藤さんには肩を揉まれる。佐藤さんから小さな手作りの『必勝お守り』を私たちは受け取り、準備は整った。

「へぇ~、まさかとは思ったけど、都大会まで出てきたんだ。この間まで松葉杖とお友達だったのに~」

この緊張した雰囲気の中、人を小ばかにするような口調で話しかけてくる奴がいた。入江いりえ中学3年の火浦凜ひうらりん

「久しぶりだね。火浦。また会えて嬉しいよ」

私なりの精一杯の言葉で返してやった。

「しっかし、呆れた。膝蓋腱ハムやって都大会出てくるとか、志保の地区ってどんだけレベル低いの? しかもタイム13秒10で優勝って笑わせてくれるわ」

くふふ、と言ったいかにもな笑いで見下してくる。しかもこいつ、中3になってますます体がしっかりしてきた。足の鍛え方は、もはや中学生離れしている。

「あのね!! 志保ばっかり意識してるけど、幅跳びでも優勝狙っているって!? 私のこと、忘れてないでしょうね!!」

野乃花が思いっきり挑戦的に言い放つ。

「あらら、野乃花ちゃんも久しぶり! 去年の夏に入江中うちの後輩にきりきり舞いにさせられてたのに、ずいぶん自信がおありのようで」

私と違って野乃花はすぐに顔に出て、ムキーッと一発殴ってやろうかというのを山田さんたちに止められた。

「野乃花ちゃん、地区大会は5㍍25だっけ? たしかにずいぶん記録を伸ばしているようだけど、まぁ、それでも私には到底敵わないわね」

火浦こいつの幅跳びでの力は未知数なので、記録はわからない。けど、少なくとも、この自信はハッタリではないことだけはわかる。どこまでも上を目指し、頂点に満足しない、この陸上の天才JCは。

「私は今年、100㍍と幅跳びの2種目で、まずは都大会を優勝する。そして、この2種目で全中も制するつもり。だから、私の都大会の序章の相手としては、2人は前菜としてはちょうど良い相手かしら? まぁ、ここはひとつよろしくね」

火浦が野乃花に握手を求める。

パンッ!!!

野乃花がその手を思いっきり叩く。都大会の舞台は走り幅跳びからスタートする。野乃花の火浦への挑戦が始まった。


                 続く


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