憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の二十一
※其の二十からの続きです。気軽にお付き合いください。
例のちょっとした事件があってから2日後。
「青木!! 一旦集合!!!」
今日も琴音先生の声が響く。期末試験の勉強時間を長くとって部活を離れている3年生に代わり、2年生の青木先輩が号令をかける。
「集合!!!」
「「「はい!」」」
返事をして集まったは良いが迫力はない。
「1年生! 昨日からどうしたの! 3年生抜けて急に元気なくなってるわよ! しっかりしなさい!」
相馬という不良グループに絡まれていた四日市。その現場を見ていた私たちは少なからず影響を受けていた。特に私と四日市のやり取りと、最後に彼女の見せた涙は他の1年生部員にも動揺が走ったようだ。
「藤咲! 八神! 元気者の2人が揃ってどうしたの!」
藤咲や八神は気にしない質かと思ったが、あの日の帰りに私が事情を話したのも良くなかった。2人揃って「くだらない」と言ったものの、以前より私に向かってくる気迫は欠けたように感じる。
「いいっ!! じゃあ次は実践に向けた技稽古!! 気合い入れてね!!」
琴音先生の張り上げる声がいつもより一段高い。そろそろ本気で怒られる。肌身で感じた部員達はその日の稽古は気合いを入れ直して励んだ。しかし、翌日の稽古前。
「おいー。こっち拭き終わったぜ。女子はまだかよ!」
宗介がテキパキと掃除を終わらせて、女子にも早く終わらせるよう、急かしてくる。
「まったく! 3日前の稽古前清掃ギリギリだったんだからね! 男子3人が女子よりも遅れてくるんだから!」
一応、あの事件の話は私から男子3人には伝えておいた。しかし、現場を見ていなかったので、あまりピンときてないようだ。なので私はちょっと恨み言のように言った。
「んまぁ、不良どもが道場前でドンパチやるとは思わないけどな。でも、よかったじゃないか。女子全員怪我がなくて。胸ぐら掴まれたぐらいだろ? それぐらい大人になれよ」
言っていることはごもっともだが、藤咲や八神は四日市や相馬の取り巻きと、あわや一戦交えるぐらい険悪な状況だっただけに、言われた本人たちは面白くなさそうだ。
「あの現場にいねぇから、んなこと言えんだよ! 久しぶりに喧嘩しそうだったぜ」
八神がブスッと言うと。
「あんな連中は喧嘩も三流だ。受け流す程度で十分だ!」
藤咲もそれに応えるように言う。
「ねぇねぇ! 今日はちょっと早く掃除も終わったし、先輩たち来るにも少し時間あるよ! 構えや素振りチェックをお互いにやろうよ!」
光が提案して、特に反対意見もなく男女共に竹刀を持って構えのチェックをする。
「んっ?」
宗介が「あいつ誰?」と道場の入り口を顎でクイッとやる。全員で振り返えると、ズンズンと進んで私たちの前へやってきた。
「……お前」
私が言うと、その場の空気が凍てつくように静まる。今日は髪も制服も乱れていないので、そいつが四日市と気づくのにちょっとだけ時間がかかった。
「何をしに来た! 今度は道場破りでもするつもりか!」
藤咲が声を張り上げて言うも、四日市の冷めた目つきは先日と変わらない。ポケットからスッと物を出す。
「誰のか知らないが、これは、返す……」
ハンカチだ。この間、顔にハンドクリームをベタベタに塗られていたのを日野が拭いてあげたやつだ。
「……あっ、わたし、のだ」
日野がそのまま受け取る。
「……なんだよ。……お前ら全員で睨めつけてきて。私は悪者か?」
まぁ、その通りなんだがここは黙っておく。
「用が済んだらさっさと出ていきな! これから素振りチェックするところだ。今日はお前に構ってやるほど暇じゃねぇ」
四日市に胸ぐらを掴まれた八神の気持ちもわからなくないが、売り言葉に買い言葉。四日市がすかさず反応する。
「……ずいぶん華奢な体だな。実力もたいしたことなさそうだ」
その一言で完全に頭にきたのか八神も黙ってない。
「んだと! あたしの剣道も知らないくせして、なに言ってやがる!」
「いい加減にしろ」と藤咲が言うも、もともと八神と藤咲も仲が良いわけではない。八神は四日市を相手するのに夢中になる。藤咲の「単細胞」と言う嫌みの声も聞こえていないらしい。
「ま、まぁまぁ! 今日は喧嘩しにきたんじゃないんだから。ね! 八神さん。ハンカチ返しにきただけだし。もういいじゃん!」
こういう時の光ちゃん。ナイス。私じゃできないことを当たり前のようにできる。
「そ、そうだ! 四日市さんも剣道やってたんだよね? ど、どう? 少し見学していかない?」
一生懸命な笑顔を作って場を収めようとする光。今度はその目を光に向ける。
「……なぁ、知っているか? 竹刀ってさ……」
そう言うと四日市は光から竹刀をパッと抜き取り、少し下がって床に置く。
「竹刀の鍔の部分と剣先。鍔の部分に微妙な隙間ができるだろ? それを足の指先に力を入れて……」
ハッ!と私が思ったのもつかの間、四日市が竹刀を思いっきり蹴り上げる。
バチン!!!
あろうことか光の顔面に竹刀が直撃してしまった。
「お前!!!!!」
八神が怒りの声をあげる。ポタポタとその場に血が流れる。鼻を抑えている光に詰め寄り、指で光の顎をクイッと上げる四日市。
「……言ったよな。私の前で剣道の話はするなと」
四日市の目の色も変わる。私はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「許さない」
四日市の手をグッと握り、そう一言だけ言い放った。
続く
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