憧れの一閃 七剣士物語 ~私たち高校1年生~ 其の四十八
其の四十七からの続きです。気軽にお付き合いください。
やはり、いた。私の地元、石館高校に。
「どうも~。講習会参加~。ご苦労様でぇーすっ」
私たちは4人と目を合わせる。茶髪、金髪、ピアス。中学生時代から見ても派手になっている。
「受付済ましたらさっさと中へ入っちゃって下さいー。時間もあんまないんで……」
こちらの様子に気づいたようだ。
「……お前」
「……雪代、か?」
私の視界には4人しか映らない。会いたくなかった。会いたくもなかった。
「……無敵の剣士様が石館高校へなんの用ですか? いや、元キャプテンの雪代響子さん」
刺々しい言葉に水菜との会話からも急転して、場の空気が一気に変わる。私も固まり、頭の中が真っ白だ。
「……えっ、と? 雪代さん、この人たちと、知り合い? なの?」
光の声でようやく我に戻る。
「……相模原、中山、高知、安条」
名前を呼ぶので精一杯。我慢しているが、今にも呼吸がおかしくなりそうだ。石館中学剣道部の元チームメイト。
「なぁに~。そのいかにもって感じの再会の挨拶」
「会いたくなかったんだけど~、お前なんかと」
「気分最っ悪じゃね」
「マジ来んじゃねーし」
こいつらとはいろいろあった。どうあっても相まみえることができなかった。
「雪代~、あんたさ。まさか高校でも先輩たちにイジメられてんじゃないだろうね」
「キャハハハハッ」と、JK特有のバカ笑いで私を舐め、侮辱する。
「言っとくけどなぁー。お前だけ被害者ぶってんじゃねーーよ!!!」
中山が大きな声を出して感情を表す。
「ウチらだってなー」
「嫌なことの1つや2つじゃねーーんだよ!!」
「自分だけ最後は逃げやがって!」
「あの後、ウチらがどんだけ悪者にされたと思ってんだよ!!!」
ただならぬ雰囲気に周りは誰も口を出すことをしない。
「雪代ー。お前だって、あったしらのこと、悪く言ってたんだろ?」
「違う!!!」と私も声を出して応戦する。
「私は……、私はただ、ただ、楽しく剣道やりたかっただけだ!!!」
今の精神状態ではこれしか言葉は出てこない。
「そういうのがよ!! 気に入らねーって何度も言ってんだよ!!!」
今度は相模原が声を上げる。
「言っとくけどな。お前のパンティーやブラ隠したのは、あったしらじゃないからな!」
思い出したくもない過去を言われて、頭が混乱状態。大笑いする元チームメイト。辛い。泣きたい。
(なんで、こんな……)
険悪の雰囲気ならまだマシだ。だが、こいつらの人を見下し、バカにしたような態度や笑い方が、どうしても癪に障る。
「……かけたろ」
だんだん過去を思い出し、怒りが湧いてくる。
「あ~?」
「なに~」
「なんすか~」
「響子パイセン~」
ケラケラと笑われながら、今のチームメイトの前で笑われるのが酷く辛い。まして、男の宗介もいるのに。
「かけたろ!! 私がトイレに入っているとき、バケツ一杯の水をかけやがってーー!!!」
許せない。許さない。昔も今も変わっていないこいつらが。陰湿すぎる嫌がらせで、一体何人が傷つき、部活を辞め、不登校になったというのだ。それというのも、すべてこいつらが。思わず相模原の胸ぐらを掴む。
「だからなんだよ! わったしらだってお前が見えないとこで先輩にやられまくってたんだよ!! 後輩の前でスッポンポンにされて笑われて、安条なんかタチ悪い男数名の先輩に襲われそうになったんだぞ!!!」
「だからって!!!」掴み合いの喧嘩になるところで襟元をグイッと引かれた。思わず振り返る。「バチン」と頬に強い痛みが走る。
「……な、何すんのよ! 藤咲!!」
いつも以上に強い目力で彼女は私を捉える。
「こうでもしないと今のお前は話しにならん! 普段は物静かな装いをしてるが、お前の本心はやはり別だ」
頭に血が上っているので、言っていることがわからない。
「同じ土俵で物をしゃべるな! 怒りに任せて他人に八つ当たるな!! いつも琴音先生に言われていることだろう!!!」
「私もな」という辺り、藤咲は冷静だ。
「水菜! さっさとこいつらに案内させてくれ!! それが無理なら水菜が案内してくれ」
力強い藤咲の号令が場の雰囲気を鎮火させる。
「なにこいつ」
「嫌な感じ」
言われるも藤咲は無視する。
「藤咲? あの江戸川第五中の藤咲莉桜か? お前?」
高知が鋭く睨む。
「だったらなんだ? 言っておくが、私はどちらにも味方するつもりはない」
どのような状況でもひるまない藤咲は強い。それは、いつ見ても感じることだ。大きな声を張り上げていたので、中から更に人が出てきた。
「おぅー! 何をしてるー! 早くしろー。他の先生方も到着してるんだぞ!」
先生らしき人が出てきて、ようやくいざこざが収まる。しかし、私の心臓の熱が収まることはない。
続く
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?